第2話「そこによしこさんはいなかった」
「ったく、クソオヤジ……ガキ扱いしやがってッ」
俺は無意識でオヤジに撫でられた頭の辺りをボリボリと掻く。
俺の意識が最初に戻ったのは、今から数刻前。
気づいたら、全く知らない部屋に寝かされていた。
その時は、俺が今横になっている寝室であろう部屋の窓から陽の光は差し込まず真っ暗だった事と俺自身の体内時計からして深夜だったと思われる。
一度目の目覚めの時は、まだ身体が本調子ではなかったため起き上がることもせず、再び目をつぶる事にした。
そして、今現在俺は二度目の目覚めにありつけたと言う訳だ。
一度目の目覚めの時には真っ暗だったこの部屋も今は窓から眩しい陽の光で包まれていて三度寝を許してくれそうにない。
「このまま寝っぱなしもダメだよな……はぁ、起きるか。カーテンも買わないと」
重い頭を持ち上げ、気だるい身体を起こし、辺りを警戒しながら俺は部屋から出る。
部屋を出た俺の目に飛び込む片面ガラス張りのリビングからは、この場所が結構な高層階だと分かるほど抜群の見晴らし拡がっている。
喉の渇きに気づいた俺はキッチンに向かう。
冷蔵庫の中を物色しすぐに飲めそうな500ミリリットルのペットボトルを取り出し一気に飲み干す。
今さら毒が入っていたら?とかは気にしない。
最初から俺をどうこうする気だったら、既に俺はあの世にいるだろうから。
水を勢い良く喉に流し込む俺の視野に、広々とした木製のダイニングテーブルが目に入る。椅子が4脚あるのを見ると四人掛けなのだろう。
普段であれば気にも留めない何の変哲もないただのテーブルだが、そのテーブルの上には物で溢れ返っていた。
俺はそれを確かめる為に水を飲みながらテーブルに近づく。
まだボーッとしている意識の中、一点に集中するかの如く目を凝らしてみる。
テーブルの上には、スマホ、マイナンバーカード、パスポート、銀行の通帳とクレジットカード機能付きのキャッシュカード、財布、一万円札の束などが綺麗に並べられていた。
何らかの得物がないのが
まぁ、俺はあっても武器なんか使わないけどね。
そんな中、ひと際異彩を放っているものがある。
可愛らしいウサギの絵が描いてある封筒だ。
これは、あれだ。間違いなくオヤジからだ。
オヤジはあんな馬鹿デカい図体をしている割に可愛いものに目がない。子煩悩なのも頷ける程に。
俺は「相変わらずだな」ともう一度苦笑いを浮かべ封筒あけた。
その中身は予想通り手紙が入っており、俺はそれを出して一つ深呼吸をしたのち読む事にする。
『息子よ、今日から貴様は
俺は貯金通帳の中身を確認する。
ゼロ、めっちゃ多くね?
一般的なサラリーマンの生涯賃金の倍はあるであろう金額が刻まれていた。
若干の目眩を覚え、再び手紙に目を落とす。
『これから何をするにも貴様の自由だ。勉学に励んでも良いだろう、恋愛に現を抜かしたり、仲間を作ってバカ騒ぎをするなど青春を謳歌するのも良い。だが、これだけは約束しろ、決して、こっちの世界には戻ってくるんじゃねぇぞ? 裏にはぜってぇ関わるんじゃねぇ、貴様はこれから陽の光が照らす道を歩め! それが、貴様がこれまで頑張ってくれた一番の褒美だ』
「オヤジ……」
胸にじーんとくるものがある。
これ以上はあっかーんと思い手紙を封筒に戻そうとしたその時、俺は封筒に手紙とは別の3つ折りの紙が入っている事に気づき取り出し中身を確認する。
様式的には簡略な履歴書のようだった。
「なんだこれ? 履歴書っぽいけど……えっ? 黒木零」
名前を見る限り俺のだが、……はぁ?
「17歳? 高校生って? なんじゃあああこりゃあああああ!」
なんと、俺は高校生になるらしい!
7歳の頃から組織に尽くし20年、つまり、27歳の俺が、だ。
冗談はよしこさんなんて思っていたが、鏡に映る俺の姿を見て、よしこさんはここに居ないと悟った。
何故ならそこには、ツルッツルの肌をしたクソガキ……いや、ゼロと呼ばれ始めてた頃の、つまり十年前の俺が写っていたからだ。
どんなカラクリかは分からない……が、俺は若返ったのだ。
普通に学校に通った事はないが、任務で何度も学生生活を送った事があるので問題はないと思うが……。
「はぁ~学生、か……」
姿形は十七歳でも、実際の中身は二十七歳。
アラサーの俺が……はぁ~気が重い……。
「ちょっと、出てくるか……」
このまま部屋に閉じ籠っていると更に気が重くなりそうなので、俺は気分転換と周辺探索のために出掛ける事にした。
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