走る貴方、眺むのみ

@kz_sasara

走る貴方、眺むは僕

今日も走っている

まだ日も登り切らず、霜の残る河川敷の上


彼女は走っている

真っ直ぐ前を見つめて

朝日に照らされた濡れ鴉色の髪


その後ろ姿を自転車の上から覗く

徐々に小さくなっていく

段々遠ざかってかいく


ーーーーーーーーー


今日も走っている

落陽を迎えようとする空の下

薄暗いグランドを走っている


彼女は走っている

隣にはもう誰もいないのに

黄昏色から茜にその髪を染めながら


肘杖しながら二階から彼女を覗く

机の上の文庫本はうつ伏せのまま

一周、さらに一周と廻り続ける影法師


ーーーーーーー


今日も走っている

急な通り雨の中、気にもしないまま

踏み込んだ水溜りが跳ねる


彼女は走っている

雨の降る前でも、中でも、止んでも

水滴を纏った身体のまま


ペンを持ったまま硝子一枚向こうを見つめる

温い空気と香ばしいコーヒー

窓についた水滴がゆっくりと滴る


ーーーーーーー


今日は...走っていなかった

とぼとぼと俯き歩く

土に小さなシミが出来ていた


彼女は泣いている

嗚咽を堪えながら

目元を塞ぎながら


握り込んだハンカチを片手に

ぼくは家に帰った

その日、片想いは終わった

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