使命を忘れて 2
宿主、ロウナ。
ロウナの父、ロコロガ。
ロコロガは守るために謎の魔獣と戦い、死に至る。
それを止めるため、その原因になる自分を殺したいという後悔で、ロウナは父が死ぬ5日前に飛んだ。
この時代が一つの舞台なら、主演は間違いなく彼らだろう。
あるいは、そこに投じられる
だが。
ロコロガは、『伝説になる機会がなかった英雄』である。
キタの兄弟子であり、かの『師匠』の教え子である。
ロコロガは単純化を許さない。
そして、誤解を許さない。
誤解なき単純も、誤解ある複雑も、彼は望まない。
「『我が名、ロコロガの名の下に、真実で応えよ!』」
その手に握られた
問いかけを無数に繰り返せるのであれば、いつか必ず真実に辿り着ける問答剣。
かくして、ロコロガはとっ捕まえたキタ、カイニ、チョウ、ロウナ、ディープニードルクラブから、洗いざらい全てを吐かせることに成功した。
勢いの男である。
「ぬぁあんやっとぉ! つまり、5日後に
「あ、兄弟子の受け入れ力が高い……!」
「世の中色々あるもんやで。まあ、そんなもんやろなあと」
「お兄さんお兄さん、これ器がデカいのかただ雑なだけなのかどっちだと思う?」
「カイニ、ちょっと後ろで黙っててね」
「うはははっ! 構わん構わん! そんなことで不快に思うようでは男ではないやろがい! 女子はそのくらい生意気な方が可愛げがあってええっちゅうもんや!」
呵々大笑。
快男児としか評せない男であった。
ロコロガは豪放磊落を絵に描いたような男であり、2mを超える巨躯は分厚い筋肉に覆われていて、ロコロガが大笑いすると、部屋そのものが揺れているかのような錯覚がある。そういう男だった。
「
「!」
「やけども、まさかいざ来た刻の勇者が弟弟子とはなぁ」
「お世話になります、兄弟子」
キタは礼儀正しく、正式な礼節に沿って頭を下げる。
「かしこまらんでええて!
ばん、とロコロガは豪快にキタの肩に手を置く。
肩を叩いたのか肩に手を置いたのか、判別がつかないような豪快さであった。
ロコロガの手は大きく、触れた者に問答無用の頼り甲斐を感じさせる。
「……では、お言葉に甘えて。ロコロガ兄さん、お世話になります」
「おう! ゆっくりしてきや! ノオン! 上手い食事頼んだで!」
「はいはい。珍しいあなたのお客さんですものね」
ロコロガが妻に呼びかけると、台所で苦笑をした妻が応える。
その顔を見て、ロウナが思わず声を漏らす。
「おかあさん……」
キタ達は預かり知らぬことであったが、未来において愛した男を失ったことで精神の均衡を崩し、娘を虐待する母親、ノオンがそこにいた。
ロコロガはノオンが料理しているのを眺めながら、横に置いた子守り籠の中でぐっすり眠っている二歳ほどの幼児───この時代のロウナの頭を撫でている。
愛おしげに。
ガラス細工を扱うように。
優しく、丁寧に。
ありったけの親心を込めて、幼児のロウナの頭を撫でている父の姿を、少女のロウナが泣きそうな顔で見つめていた。
とんとんとん、と、台所で料理をする音がする。
それは、ありきたりで当たり前な幸せの音。
父ロコロガ。
母ノオン。
娘ロウナ。
何事もなかれば、この先も幸せに暮らしていけた家族の形が、ここにはあった。
5日後、歴史を変えられなければ、この幸せは崩壊する。
5日後、刻の勇者が時間を守ってしまえば、この幸せは崩壊する。
この暖かな家族の光景の上で、幸福と時間が天秤にかけられている。
誰にも見えないところで、キタは指の骨が軋むほど、強く強く拳を握り締めた。
『ロウナ』
「……うん、だいじょうぶ。やさしいしいおかあさんと、おとうさんだもん……」
『……そっか』
「ロウナをたたいてたおかあさんは……ここにはいないもん……」
『……』
ディープニードルクラブはロウナを気遣いつつ、過度に踏み込まないようにして、ロウナの気持ちを大切に扱っている。
複雑な気持ちを飲み込んでいるロウナを、両親を獣に食い殺されたカイニ、両親を自分のせいで殺されてしまったチョウ、そして『親に大切にされた記憶がほとんどない女の子の親代わり』を何度も務めてきたキタが見ていた。
彼らのその視線に、憎い仇を見るような敵意は欠片も存在しない。
俯くロウナの肩を、ぽんぽんと誰かの大きな手が叩く。
ロウナが顔を上げようとすると、少女が顔を上げる前に、ロコロガがロウナを肩車で担ぎ上げた。
「わっ、わっ」
「ははっ! 嬉しいの!
ロコロガは笑っている。
楽しげに。
幸せそうに。
幼い娘と育った娘を交互に見て、大きくなった娘の体重を体に感じ、その重みこそが此処に在る幸せの重さだと言わんばかりに、笑っている。
5日語に訪れる死への恐怖など、ロコロガには微塵も感じられなかった。
そんな笑顔の父に『死んでほしくない』と思うから、ロウナは小さな手で、ロコロガの黒い髪をぎゅっと掴む。
「……おとうさん、このままだとしんじゃうって、きょうしったんだよ……?」
「死んで終わりが全てやない! ま、ロウナはおいおい知っていけばええ! ロウナは大人になってけばええんや! 大人になっていく過程で色んなことを知っていって、ゆっくり大人になっていくんや。そうしたら、お父さん嬉しいからな」
「……おとなに……」
「おう! ま、歴史変えようなんつー話は忘れておくんやな! でも少しはこっちにおおったらええ!
肩車していたロウナを器用に回して胸前に抱きかかえ直し、ロコロガはロウナの小さいほっぺたに大きな頬をくっつけ、頬ずりする。
ロウナは可愛いから目に入れても痛くない、と言わんばかりの行動に、キタは思わず微笑んでしまった。
「わっ、わっ、わっ」
『おいこらクソ親父! 髭を擦りつけんな! ロウナが嫌がってるだろ!』
「なんや青蟹! お前さんに
『うるせー! さっさと降ろせ! ロウナが落ちたらどうすんだ!』
「落とすわけないやろがい!
ぎゅーっと抱きしめて、頬と頬をくっつけ、頬ずりする父と娘。
父の表情には愛があった。
娘の表情には嬉しさがあった。
そして、ディープニードルクラブにはおそらく、嫉妬があった。
『死んだはずの父親』が、ディープニードルクラブでは足元にも及ばないほどにロウナを幸せな気持ちにしていることへの、嫉妬があった。
どさくさに紛れてカイニがキタに抱きついて頬ずりしようとしたので、キタがカイニを抱きかかえて部屋の隅に投げ捨て、また戻って来る。
「くすぐったいよ、おとうさん」
「ほれほれ!」
『うるせーヒゲオヤジ! ロウナにヒゲがうつるだろうがっ! 臭いも!』
「うつらんわバカ蟹! ヒゲはうつらん! ヒゲが生えもしない蟹だからそんな阿呆な勘違いするんやぞ! 臭いは……臭いは……」
『汗くせーんだよ、お前。ロウナが臭くなったらぶっ殺すぞ』
「……それは……まあ……その……なんだ……今日はずっと材木を切ってたし……まだ風呂にも入ってないから……風呂はいつも晩飯の後やから……」
「こらっ! ディっちゃん! おとうさんをわるくいわないで!」
『だけどさ』
「きらいになるのよ!」
『う……むっ……わかったよ……』
ディープニードルクラブの気配が、すごすごとロウナの内側に引っ込んでいく。
部屋の隅に投げ捨てられたカイニに、チョウがとてとてと駆け寄っていった。
「あの、カイニ様……チョウは今回が初めての参加になるので詳しくは知らないのですが……時間に矛盾などは起こらないのですか……? 未来のことを知った人が、何年か後に歴史を変えてしまうということは?」
「冒険の書が誘導して世界が修正すれば、記憶も修正されるから大丈夫。一人二人死んだくらいでも修正力が辻褄を合わせられる。修正が効かないのは、決定的な改変とか、途方も無い数の人が死ぬ大虐殺とか、その辺だね」
「決定的な改変と、大虐殺……」
「今回の事案なら、ロコロガの生存か、この村の人間の全滅か……その辺りが起きちゃったら時間が壊れて、魔王が復活して、人類は消え去るだろう」
「……」
「腹を括りなよ。ボクと、お兄さんと、キミしかいないんだ」
チョウは苦い顔をする。
それは、虐殺に嫌な思い出があるからか。
あるいは、自分のせいで殺された父親を思い出すからか。
チョウは運命が残酷であることを知っている。
カイニもあまり明るい表情はしていない。
彼女は、時間改変と関係なく多くの仲間が虐殺されるのを見てきた。
特に大きな陰謀と関係なく、その辺の獣が親を食い殺していったのを見てきた。
カイニは世界が残酷であることを知っている。
二人は悲劇慣れしているが、『慣れ方』のカラーはまるで違う。
近いのはおそらく、男の趣味くらいのものだろう。
カイニとチョウの視線が向く先で、ロコロガが笑って、ロウナを抱き上げたまま、大きな手でキタの頭をくしゃくしゃに撫でている。
そこだけ見ていると、ロコロガとキタは本当に兄弟のようだった。
年の離れた、戦士の兄弟。
同じ流派を修めた二人には、佇まいからして似た空気が見て取れた。
「おう弟弟子! 今から頼まれてくれんか!
「よ、嫁!? いや僕はそういうのまだ早いかと思ってて……」
「よ、嫁!? 駄目! お兄さんにはもう少し……ふわついた所に居てほしい!」
「よ、嫁!? やめ……い、いえ、チョウには何も言う資格がないので……」
「なんや息ピッタリなのか息合っとらんのか分からんの、お前さんら」
キタ、カイニ、チョウのチームが息ピッタリに息が合っていないのを見て、ロコロガはうはははっと笑う。
ロコロガは、自分がこの先死ぬらしいという話を受け入れた。
それを娘が覆した結果、未来が滅びたという話も。
その滅びを阻止し、世界を救うために、この三人が来たという話も。
あるがまま受け入れた。
だからこそ、彼は誰よりも先に、『終わった後』の話を始められる男だった。
「言うてな弟弟子よ。いい感じの関係の女の子がおって、こんな魔王の時代に十代半ば過ぎて子供作っとらんちゅうのは次世代が……ああ、違うんやな。せやった。お前さんらの時代には、世界は平和になってるんやったな。そないなら、結婚や子作りだって急がなくてええんか……ゆっくり、好きな人を探したってええんやな……」
ロコロガが、僅かな驚きと、確かな納得と、形容し難い感慨と共に発したその言葉は、この世界に生きる大人達皆の気持ちの代弁でもあった。
数え切れないほど失い、憶えきれないほどに別れ、途方も無いほどに悲しみ、それでもなお子供を作って、次代に繋ごうとしてきた、この世界に何十年と生きてきた大人だけが抱く、感情のうねりがあった。
「はい。世界は平和になりました。ここに居るカイニが平和にしてくれました。カイニは俺の誇りです。これまでも、これからも」
「ちょっ、お兄さん、唐突に持ち上げられるとっ……」
「そんな赤くなってないで、堂々としてなさい、カイニ。お兄さんからの助言だ」
「それは助言じゃなくて要望でしょ!?」
「ははっ」
キタ達は、平和になった未来から来た。
つまり、これまでの戦いも、犠牲も、全ては無駄ではなかったということ。
これまでの全ては、優しい未来に繋がっていたということ。
そして、優しくなった世界で、ロコロガの娘は生きていけるのだということだ。
ロコロガの胸の奥から、熱いものがこみ上げてきて、一瞬だけ泣きそうな顔をしたロコロガは、すぐに嬉しそうな表情で、娘ロウナを抱き締める。
「はは。そうか。そうか」
「……おとうさん?」
「平和、来るんやなあ。400年以上、ずっと魔王ズキシに脅かされ続け、誰もが安心して夜を眠れず、知り合いがどんどん死んでって、ダチばっか先に死んでいくこの世界も、平和になるんやなぁ。
「はい。僕も、カイニも、チョウも、そこから来たんです」
「そうかぁ、最高やなあ。
「……あんま笑えないジョークですよ、ロコロガ兄さん」
「うはははっ! はははっ! たまらんのうっ! 最高やっ!」
バンバンと機嫌良さそうにキタの背中を叩くロコロガ。
「あなた、お客様に失礼ですよ」
「おっとと、すまんすまん!」
料理中の妻にたしなめられ、ロコロガは勢い良くキタに頭を下げる。
「平気です。僕も冒険者なので、こういうのは慣れてます。どんと来いです」
「うはははっ! それでこそ我が弟弟子やのっ!」
けれどまたバンバンとキタの背中を叩き始めたので、こういう形で親愛を示す在り方は、中々直るものでもないようだ。
しょうがないなぁ、といった風な顔で、ノオンが苦笑する。
ロコロガとノオンの仲睦まじい夫婦らしさに、各々は個別の反応を見せている。
ロウナは、これから失われる家族の幸福を思い、恐れを滲ませている。
ディープニードルクラブは、まだ娘をちゃんと愛しているロウナの両親を見て、『親心』を持つ
キタは、世界と夫婦の幸福を天秤にかける苦しみを懸命に飲み込んでいる。
チョウは『我が子を愛する両親』という物自体に、眩しさを感じている。それでいて、『愛し合う男女が結ばれるのは素晴らしいことだ』という憧れを感じながら、『チョウにそれは許されない』という諦めも抱いていた。
カイニは、父と母と娘の3人家族、というもの自体に懐かしさを感じているようだった。愛し合った男と女の行き着く先にある『家族』を見て、『ボクもいつかは』と考えてもいるのは、彼女が乙女であることの証左だろう。だがそれと並行して、『お兄さんに罪悪感を背負わせないためにこの家族を壊すのはボクでなければ』という強い責任感も胸に抱いていた。
ロコロガが、ロウナを抱きかかえたまま、キタに頭を下げる。
「な、弟弟子。繰り返しになるんやけども、娘のこと、頼まれてくれんか? ノオンは、
「……」
「
「……おとうさん」
ロウナの瞳がロコロガの真剣な横顔を見つめ、娘の小さな手が、父の服の胸元をぎゅっと握った。
父の手は、娘の髪を優しく撫でている。
ロコロガの真剣な視線を受け止め、キタは深く頷いた。
「分かりました。正直、僕達とディープニードルクラブの戦いがどう決着するかも分かってませんが……もし、時間を修正して、僕達とロウナさんが元の時代に帰ったら、その後のロウナさんの人生には、僕が責任を持ちます」
「……感謝や。ほんま、感謝しかないで」
「いえ、お気になさらず。師匠に言われていたことでしょう? 弟子同士、仲良くして、助け合えと。僕は師匠の言いつけを守る素直な弟子らしいですからね」
「うはははっ! 若いのに口が達者やな!」
台所から、差し込むように声が届く。
「あなたー、配膳手伝ってー。あ、ロウナはいいわよ。ゆっくりしていってね。ここはあなたの家だけど、今のあなたはお客さんでもあるんだから」
「あ……うん、ありがとう、おかあさん」
『……』
「おう、ちょい待ちやマイハニー! 今行くで~」
ロコロガがロウナを割れ物でも扱うかのようにそっとソファーに置き、台所へ向かう。親が娘に接する手付きとしては、おそらく最上位に丁寧なものだっただろう。
ロウナが父の愛を噛み締めていると、噛み締めているロウナからディープニードルクラブが体の主導権を奪い、立ち上がる。
移動先はキタの隣、ソファーの右側。
見かけは幼女だが、その中身は
少年のような足取りで、
『フン』
ディープニードルクラブは、敵意を滲ませた瞳で──されど敵意だけではない瞳で──刻の勇者を睨みつける。
『ぼくは
「僕は当たり前のことをしてるだけだよ。子供より年上の人間が、子供の幸福を願って、何かをして、何かをしない。当たり前のことだ」
『……その当たり前をしない人間が、世の中にどんだけ居ると……ちっ』
ディープニードルクラブは、複雑な気持ちを噛み殺し、キタに背を向ける。
「……」
残酷な世界と残酷な人類だけが相手なら、
けれど、もし。
優しい人達と、優しい世界と、今を生きる人達の幸福を知ってしまったら。
優しい宿主の未来の幸福を、本当に心から望んでしまったら。
愛した種族の復活のために、好ましく思ってしまった人間を、滅ぼせるのか?
『刻の勇者。ぼくとお前の使命、忘れるなよ。5日後に、殺し合いだ』
「……ああ」
そう言って、ディープニードルクラブがロウナに体を返すと、ロウナは俯き、服の胸元をぎゅっと握り締めると、台所の方へと小走りに去って行った。
その背中を見送るキタの横に、今度はチョウが腰を下ろす。
チョウは獣人であるので、人の隣に腰を下ろす時、上品に尻尾を上に上げ、上品にスカートを下に撫でつけるようにして腰を下ろす。
そういう何気ない所作に『チョウらしさ』を感じられるので、キタはチョウが無意識にやっている色んな動きが好きだった。
「キタさま」
「なんだい」
「キタさまがキタさまのままで居てくださること、時々、とても嬉しく感じます。浮足立ったような気持ちにもなってしまうというものです」
「え、今の僕のどの辺にそういう感想を?」
チョウは、自分の手を見やる。
指先に生え揃う獣人の爪を見て、首を傾げるキタの顔を見上げる。
崖に一輪で咲く気高い華を見上げるように。
「自分に牙を剥いてくる相手にも、ずっと気を使っているところです」
キタとチョウが初めて出会った時、チョウが深々とキタの背中に刺し抉った爪の跡が、ずっと背中に残っているのを、チョウは知っている。
キタの肩に牙を突き立て、背中に爪を刺し抉ったチョウを、キタが優しく抱きしめてくれた時の体温を、チョウは憶えている。
「そうかな」
「そうです」
もしも、チョウが人生において最初に救われた時を誰かに聞かれたら、迷いなくあの時だと答えるだろう。
あの瞬間から、チョウの人生は始まったのだ。
なんか二人がいい感じの空気じゃん、と察知したカイニが、キタとチョウの間に割って入るように、二人の間あたりの背もたれに肘を乗せて前のめりに寄り掛かる。
カイニの視線が向かう先は、ロコロガ、ノオン、ロウナの家族が並ぶ台所。
そこには、三人分の笑顔があった。
「いい家族だよね」
「ああいうのが、『普通の父親』というものなんですね……暖かくて、愛していて、大切にしていて、娘と心が繋がっていて……」
しみじみ言うチョウに、キタは何か思う所があったようだ。
キタは腕を組み、真剣に考え込み始める。
そしてチョウに向かって、両腕を広げ、口を開いた。
「ほーら、パパだぞ、チョウ」
「……」
「……」
「……何か反応してくれないと、恥ずかしいんだけどな……」
「いえ……あの……チョウは……キタさまにこの上ないほどの感謝をしていますが、キタさまを父親だと思ったことはないので……」
「うん、知ってた。ごめん。なんか本当ごめんね、父親代わり気取りで」
「もーお兄さんはこれだからーうりうりー」
広げた腕を畳んで照れているキタの頬を、カイニの人差し指がぐりぐりと押す。
照れているキタを見て、チョウは愛おしげに微笑んだ。
けれどその『愛おしげな表情』は、ロコロガがロウナに向けていたものとは、明らかに何かが違っていて。
「父親代わりだなんて、思えるはずがないじゃないですか」
その表情の奥に在る、それが。
チョウとキタの『これまで』が積み重ねてきたものを、如実に示していた。
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