女性用の服や下着を作ります。採寸からやります
某日
『UEO』内のとある小規模コミュニティにて
『暗黒街の風俗通い過ぎて心が荒んだから神聖王都に癒されに行ったんだが、そうしたら清楚な白ワンピ着た女の子を発見。眼福だった』
『暗黒街の風俗って……お前いくら使ったんだよ』
『白ワンピとか戦闘する気ないなそのPC。いや、むしろハイエンドな一点もの装備か?』
『いや、たぶん初心者。一緒にいた女の子もクリエイター系っぽかったしリアル女子じゃねーかな。ちなみに結構可愛かった』
『スクショはよ』
『貼って良いのかこういうの? まあいいか、ほい』
{IMG104755}
『可愛いじゃねーか! 嘘乙って言う準備してたんだが?』
『マジで戦いに行く装備じゃないなこれ』
『待て。これひょっとしてノーブラじゃね?』
『>ノーブラ 詳しく』
『この服でブラ着けてないとか痴女じゃねーか』
『いや、でも確かにブラ線が見えない気が……? おい、もっとスクショないのか』
『何枚か撮ったけど……これで検証できるか?』
-中略-
『うん。これはノーブラだな。日頃からエロスクショ漁ってる俺が言うんだから間違いない』
『未だかつてこれほど信用できない知恵者がいただろうか』
『いいんだよ。ノーブラだったほうがエロいだろ、それが全てだ。ということで俺の中ではこの子はノーブラになりました』
『ノーブラか。ならワンチャン、さらにノーパンという可能性も?』
『さすがにないだろ』
『ないな。……ないけどちょっと神聖王都行ってくる』
『じゃあ俺も』
『俺も俺も』
『俺はスクショスレにこの画像転載してくるわ』
『やはりピンクは淫乱』
◇ ◇ ◇
「ねえミーナ。オーダーメイドの衣装を注文するのはどう?」
「オーダーメイド?」
あれから数日。
美奈は学校から帰ってきては『UEO』にログインする日々を送っていた。
拠点はラファエラのアトリエ。そこでくつろぎつつ宿題を終わらせてから絵のモデルをしたり王都を散策している。宿題は基本電子データで出されるのでゲーム内でこなしても問題ない。むしろ静かで集中できるくらいだった。
ラファエラはだいたいミーナより先にアトリエにいて絵を描いている。
スクリーンショットがあれば絵は描ける。
ただ、モデルがいた方がテンションが上がるということでアトリエではだいたい服を脱がされる。楽しいからいいのだが、そろそろこの環境に慣れてきたので興奮は薄れてきた。
「そ。職人PCに依頼して作ってもらうのよ。店で買うより高くつくけどデザインは思うがまま」
「いいね、それ。オーダーメイドなんて夢みたい」
次に買う服の参考に電子書籍のファッション誌を(全裸で)眺めていたミーナはウィンドウを消して顔を上げた。
ラファエラの絵がまた何枚か売れて懐は潤っている。二着目がそろそろ欲しいところだった(※さすがに下着は買い足した)のでちょうどいい。
「どうやって依頼するのかな?」
「コミュニティに出てる宣伝から依頼するとか、後は街で歩いているのを直接捕まえるとか」
「ああ、ラファエラがやったみたいに」
物を作るには材料費がかかるので職人PCは金欠になりやすい。作ったアイテムを出品して売れるか祈るよりはオーダーメイドの依頼を受ける方が安定する。
「問題は、腕のいい職人ほど順番待ちもあるし値段も高いって事ね」
「ラファエラみたいに腕がいいけどお客さんがいない人が見つかればいいんだけど」
「ふ、ふん。そんな都合のいい人材そうそう見つかるわけないじゃない……と言いたいところだけど、服飾系なら可能性はあるかもね」
現役の専門学校生等がデザインの勉強がてらゲーム内で職人をしているケースがあるらしい。
そういうPCはスキルが微妙でもプレイヤーのセンスで補えるし伸びしろもある。うまく繋がれればいい関係が築けるかもしれない。
「じゃあ手芸用品店で待ち伏せしてみよっか」
「あんたって本当こういう時アグレッシブよね」
コミュニティもチェックした方がいいとアドバイスされたので待ち伏せしながら眺めることに。
街で見かけた可愛い子みたいなスレッド名に「わたしも書き込まれてないかな……?」と心を惹かれるも「今の目的とは違うから」とぐっと堪えて。
依頼人募集の書き込みを片っ端から眺めると職人によって人気に差があることがわかった。主な要因はスキルの熟練度と価格、作れるアイテムの種類。武器や防具を作る腕のいい職人は値が張っても依頼がどんどん入る。
ファッションデザイナーもトップレベルになるとそこそこ人気だが、値段的にとても手が出ない。趣味の品だからこそ好きなだけ値を吊り上げられるのだ。
「あ、この人はどうかな?」
他の書き込みに紛れて全く反応されていない小さな書き込み。
『リリ:
女性用の服や下着を作ります。採寸からやります。依頼ください』
キャラ名は女子っぽい。不人気の原因はスキル熟練度が書いていない上に女性限定、しかもわざわざ採寸に限定しているところだろう。
壊滅的に人付き合いの下手な女子か中身おじさんの二つに一つとみた。
女子だったらねらい目である。
「ちょっと気になるなあ。メッセージ送ってみようかな。いちおうラファエラに相談してからの方がいいかな……?」
悩んでいると、ミーナの視界に人影が映った。
「あ」
灰色のローブを着た小柄な姿。フードを目深に被っているせいで表情さえ見えないその人物はミーナの隠れている建物(初級者向けの手芸用品店)へとまっすぐに向かってくる。
ここはいったん目の前の獲物──もとい職人に狙いを絞るべきだ。
思い切って飛び出し、ドアに手をかけようとしていた『彼女』に触れた。
「あの、服を作る方ですか? よかったらわたしの相談に乗ってくれませんか……っ!?」
「え……っ?」
振り返った拍子にフードが外れて顔が見える。
白い髪。
赤い瞳を持った女の子だった。彼女はミーナと目が合うとびくっと震え、逃げ場を探すように周囲へ視線を走らせてから口を開いた。
「どうして、服を作るって」
「このお店に入るみたいだったので。わたし、服を作ってくれる人を探していて、ここで待っていれば職人さんが来るかなって……」
すると少女は少しだけ警戒を解いてくれた。
ドア前から人一人ぶんだけズレてからミーナを見て「でも」と口にする。
「私、スキル低いから」
「誰だって最初は初心者です。わたしも始めたばかりなのであまりたくさんは払えませんけど、一緒に頑張ってみませんか?」
価格が安く抑えられるうえにのんびり依頼を詰められるのはこちら側にもメリットがある。
逃がしてなるものかと見つめていると、
「依頼も募集したけど冷やかししか来なかったのに」
「そういう時もあります。スキルを上げてもう一回募集すれば今度は依頼があるかもしれません」
「本当に、私でいいの?」
どこか縋るような視線が送られてきて、ミーナはなんだか年下の子を見ているような気分になった。実際身長も相手の方が少し低い。
抱きしめたくなるのを堪えながら笑顔で頷いて、
「はいっ。是非わたしのためにえっちな服──じゃない、可愛い服を作ってください」
「えっちな……?」
不思議そうな顔で首を傾げる少女だったが、やがてこくんと頷いて、
「わかり、ました。私で良ければ」
「やった! ありがとう!」
「わ」
勢い余って少女の手を両手で包み込んでしまった。目を丸くする彼女にミーナはそのまま名前を尋ねて、
「私はリリです。服飾職人見習いで……よろしくお願いします」
「あれ?」
まさかの、さっき見た職人さんだった。
◇ ◇ ◇
「こ、この方はどなたですか……?」
「ラファエラっていう、女の子の裸を描くのが好きな画家だよ」
「ちょっとは言い方考えなさいよ」
アトリエに連れていくとリリが怯えだした。
はっきりものを言うタイプのラファエラとはあまり相性が良くなさそうだ。
「大丈夫だよリリちゃん。たぶん裸描かせてあげれば大人しくなるから」
「あんた人をなんだと思ってるの? まあモデルになってくれるならだいたいの事は許すけど」
「は、裸でモデルってそんな恥ずかしいこと……」
「う」
ミーナに流れ弾が当たった。
ともあれ、リリに椅子を薦めて座ってもらう。椅子は二脚しかないのでミーナはベッドに腰かけた。
「お店の前で会ったからとりあえず来てもらったの」
「拉致したの間違いじゃなくて?」
「わたしの筋力じゃ無理矢理なんて連れてこられないもん」
「だ、大丈夫です。私もお客さんができるの嬉しいので」
「ありがとうリリちゃん」
ついでにラファエラとの関係も簡単に話した。
「絵を描く人……。でも、裸専門?」
「服着た絵も描けるわよ。ただ裸の方が好きだってだけ」
「少しわかります」
真顔の性癖暴露に意外にも頷きが返されて、
「私もただ服をデザインするんじゃなくて、着る人の姿も込みで描くのが好き、なので」
「へえ。案外気が合うかもしれないわね」
「リリちゃんはどんなデザインが好きなの?」
「こういうのです」
どこからともなくスケッチブックが取り出される。
中に描かれていたのは精緻なデッサンによる服やランジェリー。素人目ながらミーナはつい「可愛い!」と声を上げてしまった。
一方でラファエラは首を傾げて、
「でも、なんでモデルが全部アニメキャラなのよ」
彼女の言う通り、人物の顔が妙にデフォルメされている。
「私、顔まで描かないとうまくデザインできないので」
「オーダーメイド専門デザイナーってことか。で、今まで注文は?」
「……ゼロです」
ゲームの中だとじっくりデザインできるのは良いものの、どうやって客を捕まえていいのかわからず困っていたらしい。
そこにミーナが現れて「服を作って欲しい」と言ってきたと。
「わたし、ファインプレーだったんじゃない?」
「でも、あんたはそれでいいの? 言っておくけどこいつ変態よ?」
「あ、ラファエラそれは言わなくても──」
「こいつは自分のエロい格好見られるのが大好きな露出魔なの」
「言わなくていいって言ってるのに……」
せっかく見つけた職人が逃げてしまったらどうするのか。
恐る恐る様子を窺うと、リリは数回瞬きを繰り返した後でミーナを見て、
「露出の多い服が好きなんですか?」
「う、うん。もちろん可愛い服も好きだよ? でもシースルーの服とかボンデージとかもいいよね。スカートめくって下着見せるのとか」
「ほらやっぱり変態じゃない」
「でも、わかります。下着もせっかくならいろんな人に見て欲しいです」
「わかってくれるの……!?」
勘は間違っていなかった。目を輝かせて少女の手を握る。
その横でラファエラは半眼になって、
「これ、変態が新しい変態を見つけてきただけじゃない?」
呟きの正否はこの後明らかになった。
「じゃあ、ミーナさん。採寸をするので服を脱いでください」
「うんっ。よろしくお願いします」
嬉々としてワンピースに手をかけ、肌を露わにしていくミーナ。脱いだ服と下着は綺麗に畳んで重ねて置き、リリに向けて一礼。
駆け出し少女デザイナーは既に集中モードに入っていて白い裸身へじっと視線を送ってくる。
「良いバランス……。いやらしさと美しさが同居している感じ。どっちに寄せるかで色んな服が似合いそう。体型に合わせたタイトな服とか、敢えて胸やお尻だけ生地を薄くした服も……ふふ、うふふ……♡」
「あの、リリちゃん? 大丈夫?」
「大丈夫です。採寸を始めますからそこに立ってください」
「う、うん」
大丈夫と言いつつリリは採寸が終わるまでトリップモードを継続していた。
測り終えた彼女は「良い服を作りましょう」と力強く言ってくれる。試作品についてはミーナが必要経費のみを支払い、お互いに満足のいく品ができあがった時はそれを作品として買い取るということで合意。
ラファエラもなんだかんだリリのことが気に入ったのか「ここは好きに使っていいわよ」と言ってくれた。絵が売れるようになったのでアトリエの維持費くらいは安定して払えるようになったらしい。
「ちなみにリリ。あんたの『魂のあり方』は?」
「私のデザインした服を人に着てもらうこと、です」
「OK。前に作った服があるなら全部出しなさい。ミーナが着るから」
「わたしなの!? もちろん着るけど……!」
「私の服を着てもらえる……? こんなの初めて……!」
習作を身に着けたミーナを見て、リリは「~っ♡」と身を震わせた。
響くファンファーレ。
「あ」
「レベル上がった?」
「うん。最近は何もない時にたまに経験値が入るから、リリちゃんじゃないかもだけど」
「ノーブラノーパンで街歩いてればそりゃね」
「ちゃんと下着つけてる時もあるもん!」
レベルアップしたせいで体型が微妙にズレたので念のために測り直した。リリのレベルも上がったので服の出来も地味に良くなるはずである。
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