第11話 脱出

 冬を越して、春になると私は大学4年生になった。

4年生になっても相変わらず私の精神状態は変わらなかったが、進級して少し経たころから徐々に回復していった。

 きっかけは、大学の先輩との会話だ。4年生になると、各学科ごとの研究室が始まる。この研究室に参加しないと卒業できないため、正直行くのが怖かったが、どうにか頑張り参加した。そして、ある実験を先輩と二人で行うことになり、その実験の待ち時間のときの会話だ。

 なぜこのような会話の流れになったのかは覚えていないが、内容は、お互いに過去の辛かった出来事を話していた。ここで私が話したのは、会食恐怖症とは別の過去にあった辛いことだが、それは先輩が話したことと少し境遇が似ていた。

 その先輩は、おそらくメンタルはそんなに強くないのだが、自分の信念を持っていて、どこか安心感があり、自立した大人という印象だった。そんな人でも過去につらい経験をしていてとても悩んだ時期があったようだ。しかし今では自分が憧れるような人物になっている。

 この会話をして、人はみんな何かしら悩みを抱えていて、辛い思いをしているのは自分だけではないのだと思うと何かが吹っ切れたような感覚があった。そして、ここから、会食恐怖症がよくなったわけではないが、廃人から徐々に普通の人を取り戻していった。

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