職 (最終章)
第93話
白い白張を持って来てくれた明里さんを、佐藤は直視できずに受け取って、それでも宮部が言うように、物凄くラブレターなんかもらっていたらどうしようと、心中穏やかではいられない。
「あ、あの明里さん………」
「………はい」
「こ、此処ではその……貴族男子は、恋の歌を送ってくるそうですよね?」
すると明里は、少し間を置いて
「高貴な姫様方は、そういう事がございます」
と、当たり障りのない返答をする。
「………じゃなくて、使用人にもその……来ますよね?」
すると明里は、黙ってしまった。
………マジかーそういう相手いるのか………
「あーーーそういうのって、俺解らないんすが、明里さんは嬉しいすか?」
「はい?」
「………いや、そういう相手いるんだったら………」
「わ、私はそういう事は、されると戸惑ってしまいます。身分が違うお相手は………それに……私は、北の方様がお選びくださると、仰ってくださいましたから………」
「えっ?好きな
北の方様って、宮部の奥さんの延登子さんの事だ。
主人が決めるという事なのかな?此処の習慣は解らないけど………。
「北の方様は、私の事を考えて決めてくださいます。それに………」
明里は、 その先を呑み込む様にした。
延登子が佐藤の世話をする様に、明里に命じた時から、明里は主人である延登子の思惑は察していた。
だって延登子も、主人が此処に来た時に、世話をしていて妻に迎えられた。
その前の主人の奥方もそうだったと、噂に聞いている。
そしてその女性達は、大事に愛されて幸せになっているから、日本人の妻になる事は、女性使用人の憧れだ。どの高貴な貴族の、妻と呼ばれるより………。そして佐藤の世話を任された時、明里はとても嬉しかった。延登子の様な北の方になれるかも?とか、今上帝お気に入りの、日本人の妻になれるかも?とか、そんな事より佐藤の素朴さと純朴さに、安堵と安らぎを覚えたからだ。そして佐藤はとても優しい………此処の貴族の公達達より、ずっと優しくてそして明里を、使用人としてではなくて、何というか高尚な何かを相手にする様に、物凄く意識してくれる。それが何かは解らないけど、明里はソレがとても嬉しい。
「あーーー明里さん」
佐藤は白張をグッと握りしめて、明里を直視して言った。
「はい」
「あの……今度、何処かに行きませんか?」
「はい?何処にお伴致すのでしょう?」
明里は佐藤の世話係だから、佐藤が外出すれば伴をする事もある。
「あーーーそういうんじゃなくて………」
佐藤はドギマギしながら、渾身の力を込めて言った。
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