第25話

「あの……皆さんもお風呂、入って来てください」


 佐藤が言うと、残された二人は困惑気味で顔を見合わせる。


「私はここで待ってますから………」


 慣れない佐藤相手なので、きっとどうしたものかと考えたのだろう、二人は主人たる根入さんか諸福さんに、お伺いを立てに出て行った。


「はぁ………」


 温泉街のスーパー銭湯みたいな所に来て、温泉に入れないとは………。

 ちょっと悲しくなる佐藤だ。

 部屋の端にある窓?というか、木戸が木の棒で持ち上げられた感じの窓迄行って、外を見るともう暗かった。その暗くなった街並みに、赤い提灯みたいなのが、其処此処に揺ら揺らとして、とても幻想的で綺麗だ。


「やっぱ、あのアニメを彷彿させる世界観だ」


 日本と同じ様な国……と言っていたけど、やっぱり違う世界の様な気がする。パラレルワールド的なとか思ったけど、案外もっとヤバい世界………例えば死後の世界とか、その一歩手前の世界とかの……異世界だと佐藤は思った。

 ………今流行りの異世界転生ってヤツだが、どうやら特別な能力は得ていなくて、スキルもアップしてはいない……そんな異世界転生かもしれない。それってかなり淋しい……というか、悲しいヤツじゃん?そして佐藤は、死んでるってオチ?えっ?何時何処で?……分からないのも仕方ないか?………

 そんな事とか考えながら、日本では無いのにちょっと似たような景色が、懐かしかったりする。それはこの世の物とは思えない、幻想的で綺麗な情景に感慨深くしていると、根入さんと諸福さんが使用人達と帰って来た。

 なんか………。

 スーパー銭湯に置いてある、客が皆んな同じ部屋着を着るように、根入さんも諸福さんも使用人達も、同じ色の同じ格好になってて、ちょっと笑ってしまったが、もっと可笑しいのは、それでも帽子を被っている事だ。


「いやぁ申し訳ない……申し訳ない……」


 諸福さんは、しみじみと言ってくれるが、疲れが取れた感が羨ましい。

 二人はそんな感じで、またさっきの畳の上に座ったが、使用人達はいろいろと忙しそうに片付けをしている。そうそう、佐藤に言われて出て行った使用人も、同じ服装に着替えているから、風呂には入って来たんだろうな。

 着替えも許されない佐藤は、かなり悔しい気持ちでいっぱいになったが、直ぐに用意された夕食の豪華さに、けろっと機嫌を直してしまった。

 お気に入りの鮑を始め、今回は刺し身もあって、それが実に美味すぎる。

 ちょっと固めの白くないご飯も、もう馴染んでいるから、ばくばくと行けてしまう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る