第17話

 諸福さんはわざと小声で言うと、根入さんと顔を見合わせて笑った。

 何処でも、気の合わない相手と仕事をするのは憂鬱だし、どうやら国司という役職は、何年かで配置換えがあるらしい………。そんなシステムは、佐藤の知ってる処だから、何となく共感したりできた。

 牛車はガラガラとのんびり進んでいるが、街並みは諸福さんの屋敷が在った所より、根入さんの屋敷が在った所より賑やかだった。


「かなり人が多いですね」


「市場がありますからな……近隣の者達が、集まっておるのでしょう」


 今迄ここでは見た事の無い、ちょっと大きめな建物の前で牛車は止まった。

 すると牛の世話係は牛を車から放して、踏み台を置いた。


「ここからは、駅路を通って参ると致すゆえ、そなた達は屋敷に戻ってよいぞ」


 根入さんは牛の世話係と、数人の使用人と護衛を指して言った。


「えっ?駅路ってなんすか?」


 使用人に、小さな包みを渡している根入さんを尻目に、佐藤は諸福さんにこっそりと聞く。


「駅路とは、使者が使用する道でございますが、我らの様な地方官人も上京の折には許されておりまして……まして客人様をお連れ致すとなれば、これ程安心な道はございません」


 諸福さんが熱く語っているが、佐藤にしてみれば、二人が官人だという事が初耳だ。官人って……たぶん公務員って事で、二人は地方公務員って事?

 安泰の公務員………羨ましい。

 とか羨ましげに、ちょっと二人の見る目なども変えたりしている佐藤だが、そんな事すら考えてもいない、公務員二人はにこやかに笑っている。


「先ずは、腹拵えを致しましょう」


「えっ?もう昼っすか?」


「そのはずでございます。それよりも、駅路には店がございませんので、駅路に入る前に腹拵えをせねばなりません」


 ん?それって、高速道路的な?

 佐藤の脳裏には、ビュンビュン飛ばす、馬の姿が………。

 なぜ馬のイメージが浮かんだかというと、大きな建物の中に佐藤のイメージの馬より、ちょっと小ぶりな馬が何頭も柵に繋がれている。

 根入さんが、馬に乗って使用人に引かせると言っていたから、どうやらこの事かと想像したわけで、実は根入さんはそういうつもりではなかったのだが、この世界を知らない佐藤の、早合点ってヤツだった事が分かるのはずっと後の事。


「ではこちらに………」


 諸福さんが、何やら使用人に囁かれて言った。


「この先の食事処に、致しましょう」


 諸福さんの使用人に案内されて、何だかんだ賑わいをみせる街並みの、異世界の食事処に一行は向かった。

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