もうひとつ国 ( 中津國物語 ) ・ 召喚日本人佐藤

婭麟

第1話

 目を覚ますと老女が、真顔で除き込んでいたから、その恐ろしさで跳び起きてしまった。


「お目覚めでございますか?」


 老女は、顔面をシワシワにして笑った。


 ………ん?今歯が無かった様に見えた………


 知らぬ人間が侵入して来ているので、吃驚して跳び起きた割には、変な処は見落とさない。


 ………さすがだ自分………


「あ、あなたは?」


 お婆さんと言おうと思ったが、さすがに初対面だし、何やら自分のアパートではない事を察して、一応下手に出て気を遣っている。


「私はこの邸の、老女でございます」


「??????」


「貴方様は、この先の先の先の………遥かに先の、海辺で行き倒れておられまして、漁師が郡司様の元に連れて参りまして………」


「??????」


「ああ。この国には、度々異国の客人まろうど様が参られまして、その時には都にお連れ致すがしきたりでございますので………」


「まろうど?みやこ?」


「はい。客人まろうど様は、都の帝のまろうど様となられるお方でございます。と申せど、そこの処はよく知りません」


 老女が、少し顔容を傾げて言った。

 どう見ても同じ日本人の様だし、言葉もとても丁寧な日本語だ。つまり日本であるとは思うのだけど……?〝まろうど〟とか、知らない単語ばかりだ……方言か?………っというか、かなり着ている服も違うか?

 もしかして……中国?もの凄〜くド田舎で、仙人とか居る山の中の修行している人とか?……ってか中国語分からんし、どう聞いたって日本語だし、話してるし………ハッ!もしかして、今流行りの異世界転生ってヤツか?

 これってリアルに、あり得る現象なン?

 などと考えていると


「おお!お目覚めとな?」


 男が妙な帽子を被って、部屋の中に入って来た。


 ………やっぱり服が……ん?何処かで見た事ある様な?………


「よかった良かった。国司くにのつかさ様が使わしてくれた、医師くすしのお陰であろうか?」


 かなり喜んでくれているが、なんか教科書で見た事のある格好だが、なんだっけ?戦国武将だっけ?信長か?………いや違う。信長はもっとカッコいい。


「ならば国司様の元に、早速お連れ致そう」


「郡司様、まずは何やら食さねば……二日はゆうに食しておりません」


「おお!それもそうであったなぁ……」


「まずは粥を……良い鮑がございます」


 郡司様とか言われた男は、老女にいろいろ言われて納得して、チラチラとこちらを見て愛想笑いなど送ってくる。

 存外好いヤツかもしれない。


 ………おっ!聖徳太子………


 髭も尺もないが、そんな感じの服装だ。被っている帽子はちょっと違うが、まぁ似たり寄ったりという事で。

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