水晶のかけら

Adeli

彼女

「なあ一織、俺、彼女できたんだっ!」


 一瞬、祐が何を言っているのか分からなかった。


「三年生の先輩で、お前も知ってるかもしれないけど美穂さんって人で、昨日告られてそれで」


 三年の先輩。美穂さん。告られて。――告、られて!? つまり、祐に、彼女……? 

 嘘、だろ。そんな。冗談だって言って。どうせ冗談なんだろ?

 目を輝かせてまくしたてる祐に、一織はなんとか言葉を絞り出した。


「冗談、言うなよ……」

「はあ? 冗談なんかじゃないって。どうせお前だってすぐできるよ。じゃあな、今日美穂さんと帰るからっ」


 もう、名前呼びなんだ。浮かない顔をしている一織に彼は背中を軽く叩いて言う。違う、そんなことじゃない。そんなことじゃないのに……。


「分かった。じゃあな……」


 始終ハイテンションだった祐と逃げるように別れ、一織は一人きりの家路についた。金曜日の委員会終わり。部活はないけれど、すでに日は沈みかけている。


「祐が、彼女かあ――」


 空しく宙に溶けていく言葉が吹いてきた風にさらわれた。

 ――帰りたくない……

 家に帰っても、一織の居場所はない。今日も少し帰りが遅いというだけで殴られるのだろう。足は自然と近くの海へ向いていた。


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