二十年前の神影〜第一部 いつか見たあの月空へ

常夜三月

第1話 幻想の序曲

失って初めて、価値がわかるものがある。

失った現実は、自分の幻想の礎となった。


第一話 幻想の序曲


「いってきまーす!」

返事はこない。でもいつもどおりの朝。

大空孤児院、それが俺たちの家の名前だった。

俺たちの名前は、常夜三月とこよ みつき常昼太陽とこひる たいよう常夕日暮とこせき ひぐれ夜野光やの ひかり。俺たちは日暮を除いて12歳で、日暮はいっこ下の11だ。血の繋がりは多分ない。

みんな特徴的な髪色をしているからと、日暮の元々の名字の常夕と合わせて、黒髪の俺は常夜三月、青髪の今の親友は常昼太陽と名付けられた。それも、俺と太陽の元の名がわからないからなのだが。ちなみに、日暮は夕暮れのようなオレンジ、光は暗めの緑の髪をしている。ついでに、光は金色の目、日暮と太陽は赤色の目、俺は黒目だ。

例えば俺は右目を前髪で頑なに隠していて、自分ですら右目は見たことがなかったり、ここらへんで黒髪黒目以外はあまり見なかったりという理由からはたから見ると個性的な家だが、俺、太陽、日暮の三人は、ある時ポストに入っていた太陽、三日月、沈みかけの夕日をかたどった髪飾りをそれぞれ左の前髪に付けている、大の仲良しだ。髪飾りのない光は少し可哀そうだが。もちろん、俺が三日月、太陽が太陽、日暮が沈みかけの夕日の髪飾りをつけている。

今は孤児院にはこの四人しかいなくて、もともと働いてた人も病気だとかで溜め込んでた生活費と維持費をおいて病院に行ってしまった。

基本四人で遊んでたし、年下の世話に忙しいとかで、最近は話したりはしていなかったから、いなくなっても

「別に…」

みたいなテンションである。

ここに来る前の記憶は、ぼんやり覚えている程度で、あまり気にしていないし、何より大事な3人がいるから、今の生活はとてもいいものだと思っている。


「そういえばさぁ、光ってもうすぐ誕生日だったよな?」

太陽が話題をふる。光の誕生日は9月22日で、今日から2日後となる。

「あー。そうだな、誕生日プレゼントとか考えとかないとな。」

「えー?別にいいよ?今はおねえさん(※働いてた人のこと)いなくてお金も大変なんじゃないの?」

ひかりは照れたような、くすぐったそうな顔をしてそう言った。

「ひかり姉、こういうのは黙って受け取っておくものなんだよ?」

からかうように日暮が言う。

「日暮ちゃん…。そうは言うけどね、私達が引き取ってもらえるかもわからない、というか引き取ってもらいたくない今、生活費とかさ、いろんな問題があるわけなのだよ。」

「それについては問題ないと思うぞ。生活費も維持費も五年分あるって言ってたろ。11+5は?」

三月は小馬鹿にしたように言った。

「バカにしてるのか貴様ぁ!16だ!」

「その年ならバイトできるだろ?」

「あっ…」

光は敗北した。

「い、いやでも、それでも負担は大きいでしょ?」

光は焦ってそう言う。

「じゃあ欲しくないんだな?」

「いや、そういうわけじゃないけど…。あーもう!三月兄ぃのいじわる!」

「ほんと二人は仲いいな。」

「たいようぅー。三月兄ぃがいじめるぅ。」

「はいはい、ひかり姉離れて、太陽が困ってるでしょ。」

「日暮〜。ひかりだけじゃなくて俺もお兄ちゃんとかって呼んでくれてもい「太陽キモイ」

「ひどい」

太陽は泣きそうになりながら訴えた。


「はいはい、学校につきましたよー。」

靴を履き替え、学校の中に入る。朝の会話とかの、騒がしい学校。

日暮と別れ、教室に入る。

クラスメイトもちらほらいるが、仲がいいわけでもないので別に気にしていない。

「で、だ。」

「どしたの三月兄ぃ」

「どしたのじゃないよ、お前の話だ。プレゼント何がほしい?」

「おいおい三月、こういうのはサプライズでだな。」

「太陽、俺はいま光に聞いてるんだ。」

「えぇ…」

太陽はしょんぼりしつつも自分の席に戻ってしまった。

「三月兄ぃ、聞いてあげても良かったんじゃないの?」

「そうかあ?」

三月は何も気にしていない様子を見せる。

「ほんとに三月兄ぃはそういう所あるよね。」

「そういうとこって?」

「無自覚なのが本当に信じられないんだけど。」

呆れた口調で光は言う。

ガラガラガラ…と教室のドアが開く。

「はい皆さん、おはようございます!」

担任の佐野明さの あき先生。まだ若そうに見える、女性の教師だ。

「えーと今日は最初の歴史ですね。忘れたりはしてませんか〜?」

「あっやば」

となりから声が聞こえる。ちなみに隣は…光だ。

「光さん忘れ物ですか。まあいいですよ、今日は地理とか絡めて、世界を揺るがした大事件の話をしたいと思ってましたから。」

そうして授業が始まった。

概要をまとめると、この世界の名前はアフといい、この国の名前はペインという。

この世界にはかつて魔法が普及していたし、同時に科学も発展していたものの、

20年前、ある大事件により、魔法に関する記憶をもつものがほとんどいなくなり、さらに、おそらくこの場所を中心に戦いが起こったとされ、その戦いでは世界の人口の10分の1が死ぬ事となったという。

何があったのか、事件の存在すら曖昧になっており、当時を生きていたものにこの事件を聞いても、

「え、なにそれ聞いたことない何言ってんのこの人頭逝っちゃってんの?」

レベルのことを言われるだけらしい。

この地区を中心として起こったおかげかは知らないが、この地区だけは魔法の記憶が消えることなく残っているらしい。

「じゃあ、事件の真相についてはどうなんですか?」

光が質問した。

「ああ、それはね。やっぱりここにいた人も忘れてしまったみたいですね。

それでも、事件はあった。ここにいる人たちは魔法が使えるので、魔法の存在を他の地区に秘匿してはいますが、事件の再来の可能性を憂いながら魔法を鍛え備えているんです。

それと、明日は祝日でしょう?当時の記憶がなくても、この地区の人達がみんなの魔法についての記憶が抜け落ちた時あたりから推測したのが、明日の世界魔法消失記念日というわけです。今年で20年目。この地区だけの休日となります。」

そんなふうに時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。

「はい、じゃあ次の授業ですね。実技やるよ〜。グラウンド移動してー」


グラウンド。基本的には魔法用の的が点在していて、魔力の暴走などのために、対魔法結界を何重にもして張ってある。

ここでの実技とは、魔法の行使についての授業であり、なにより重要な魔力の操作を鍛えるためのものだ。

その技術が足りないと、先の魔力暴走というものが起こってしまうのだ。

「はい、じゃあまずは水で球作り出すところからやって下さーい。」

先生がそう言うと、みんなが水球を作り始める。

水球は、魔力操作の練習に最も効果的なのだとか。

魔力操作というのは、簡単に言えば精神の修行のようなものである。落ち着いていないと、魔力は操作しづらいものなのだ。

「きゃっ!」

光が失敗したようだ。光は最下級魔法のはずのウォーターボールすらうまく扱えない。

「つめた〜。」

「あーもう光さん!また失敗ですか?ずぶ濡れじゃないですか。」

光のミスに佐野先生が駆けつけた。

「おかしいですねぇ。あまり変なこと考えてでもいない限りは失敗しないはずなんですが。」

「変なこと、ですか。考えてはいませんが。」

「まあいいでしょう、いつものことですし。皆さん!的に向かって全力!」

多くの生徒が的に向き合い、何度も魔法を放つ。

「フレアボム!」

太陽の声とともに、放たれた魔法が爆発音を鳴らしつつ的を破壊する。

「おおー!やっぱりいつ見てもすごいですね!齢12にして火系統上級を使えるのは、やっぱり才能ですかねえ。」

これには先生も称賛の言葉を送る。傍らで、三月が魔法を準備し始める。

「アイスランス×陰属性付与、ダークアイスランス!」

氷の槍と、闇の力が相乗し、的を貫く。

それを見ていた佐野先生も、

「すごいですね、君のはいつ見ても。この的、低級魔法で壊せるようにできてないんですがね…」

と、言うぐらいだった。

「さて、と。はーい、実技終わり!部屋で座学です!」

そうしてグラウンドから人が去り始めた。

「ふう、太陽、今日ずっとフレアボム撃ってたな?」

「まあね。結構疲れた。」

「ここまでずっと上級魔法使ってて、顔色一つ変えてないのは才能だな。」

「三月もすごいよ!複合魔法ってなかなかに難しいはずなのに、連発しちゃってるし。」

「あれくらいお前にも使えるだろ?」

「得意系統が結構違うからな〜。わからん。」

「うそつけ」

「二人ともやっぱすごいんだね〜。」

光も会話に混ざる。

「俺は何故か昔から魔力量が多くて、制御するのが大変だった思い出もあるんだ。そのおかげか魔法は結構得意だからな。」

「三月にそんな過去が、ねえ。5歳から孤児院にいたんだったか。」

「三月って結構後釜だよね。私は赤ちゃんの頃からいたし。」

「俺はいつ孤児院入りしたかとか覚えてないんだよ。思い出せない。」

「そりゃなんでさ。」

「そんなの俺がわかるわけ無いだろ。戻るぞ。」


教室に戻り、再び座学の授業が始まる。

「えーと、今回は…。」

佐野先生が黒板に文字を書き始める。

「『魔法と科学の歴史、魔法病、体質について』ですね。ながったらしぃタイトルですが、順を追って話しましょう。」


魔法…。いわば未知の力。行使することができても、原理がわからない。

そんな未知の力は、魔力という摩訶不思議な力によって行使できる。

魔力はこの世界全域に満たされており、呼吸や食事により体内にストックされるか、肉体が魔力を作ることによって、体内に魔力が存在する状態となる。

この体内の魔力のことを残存魔力といい、人間は基本残存魔力によってしか魔法は行使できない。

だが、残存魔力量にも上限があり、上限に達すると魔力飽和という状態になる。

魔力飽和が起こった状態で魔法を行使すると、魔力が暴走し、大規模な魔力暴走が発生する。

そして逆に魔力がなくなった状態を魔力枯渇といい、定期的に起こすことで、魔力回復の効率が高められる。


「つまりですね、魔法を使い続ける→魔力が枯渇する→魔力回復効率が上がり飽和しやすくなる→暴走する

という流れが頻繁に起きたために、世界は魔法のみに頼ることはできず、科学を発展させてきたのです。ですが、ここでは違う。飽和した魔力を制御できるように、実技で訓練しているのです。

次は、魔法の種類について。最下級、下級、低級、中級、高級、上級、最上級のカテゴリが存在していて、さらに、火、空気、水、土の四元素、火、土、金、木、水の五行、陰陽など、さまざまな種類があり、魔法の種類が似通ったものをまとめて系統と呼びます。魔法の名前もそれに準じたものになります。火系統ならば、フレアボムとか、ファイアボールとかですね。フレアボムはカテゴリ上級に当たります。上級魔法が使えるのは、この学校では、私、学校長、三月くん、日暮さん、太陽くんくらいですね。

が、実際は分かりやすく、もしくは連想するためだけにカテゴライズしているだけなので、魔法自体はもっともっと様々なものがあります。例えば、精神干渉や、治癒だったり。いま出した2つは、あまり使い勝手がよくありません。洗脳はやりづらいし、治癒は終わる前に死ぬことが多いし…。」

「先生」

一人の生徒が手を上げ、こう質問した。

「魔法は作り出せないのですか」

と。それに対し、彼女は

「新しい魔法というのは、作り出すことはできないとされています。ですが、できないことは死者蘇生とかのごくごく限られたことだけなので、あまり重要視されていません。」

と答えた。

「それでは次に、代表的な魔法病などを見ていきましょうか。魔法病、魔法症というのは、魔法に関連している病気、症状のことです。例えるなら、呪いが魔法病に当たり、才能が魔法症に当たると考えればわかりやすいでしょうか。外から影響を受けたか、中からそう変わったのかで呼び方が変わるというわけです。

では、例を見てみましょう。魔法病の代表格は、やはり洗脳状態でしょうか。精神干渉魔法によって引き起こる、常識の改変、酩酊状態などを引き起こす、とても恐ろしいものです。抵抗する手段は、自我を強く保つことだけという、非常に危険なのに対策がしづらいものですね。

ですが、悪いものだけではなく、例えば『crime recoil』という病気は、刑務所にてあまりにも重い罪を犯したものにのみ使われ、危険な思想を利他的な性格に変えることができます。このように用途を絞ることによって、魔法病をうまいこと活用していったわけですね。

次は魔法症ですね。代表例は…そうだなぁ、『魔眼』とかでしょうか。魔眼では、自分じゃ制御できないよな魔法を放ち続けるものから、しょっぼぉい魔法までピンきりです。生まれつきのことが多いですね。ほとんどいません。

このように、いろいろな魔法病、魔法症が存在し、その危険度もまちまち。この授業をまとめるとするなら、どんな力を持っても、その危険性をしっかりと理解して活用することが重要になり、間違っても暴走させないようにしましょう、ということです。」

キーーーンコーーーンカーーーンコーーーン…

ちょうどよくチャイムが鳴る。学校終了の合図だ。

「じゃあ、今日はここまでですね。明日は休みなので、明後日までの課題として、自分の力をどう振るうべきか、自分で考えてきてください。それでは、さようなら。」

教室はとたんに騒々しくなり、下校する人たちで溢れかえり始めた。

「三月〜!ひかり姉〜!太陽〜!かえろ〜!」

日暮が教室に来て呼びかけてきた。

「お〜いまいく〜。」

「三月、光の誕プレ思い「うおびっくりした」いに行こうぜ」

音もなく太陽が三月の後ろにいたものだから、三月はびっくりしてしまった。

「太陽、音もなく三月兄ぃのうしろに行くのやめといたほうがいいよ。」

「わかりましたすいませんでした(圧倒的棒読み)。それにしてもさ、声出すくらいびっくりしたのか。そっか〜。」

「うぜぇ。」

「で、だ。もう一度言うが、明日誕生日プレゼントを買いに行かないか?」

「うーん。それ自体はいいんだが、光はどうするよ。」

「別にひかり姉も居ていいんじゃないの?サプライズとかじゃないんでしょ?」

「三月の野郎が言いやがったからな。」

「で、ひかり。お前の意見が一番重要だ。どうする?」

ひかりは、一瞬悩む素振りを見せ、こう答えた。

「やっぱり、みんなが選んでくれたものは、当日まで楽しみにしてたいから、ついていかないよ。誕生日パーティーのときにもらうからね。」

「だとよ、太陽。」

「よし、じゃあ明日は三人で街に繰り出そうか。」

「日暮もそれでいいか?」

「もちろん。」

そうして会話を終えた四人たちは教室をあとにした。


「ただいま〜!」

やはり返事は来ない。

「さて、ゲームでもしますか。」

ひかりが、即座にゲームに電源をつけようとする。

「ちょいちょい、宿題とかやんないとだろ?」

「えー?三月兄ぃのけちー。」

「ひかり、こればかりは三月が正しいぞ。」

「ひかり姉、宿題さえ終わればいいんだよ?」

「あー。今日の宿題は…力の使い方だっけ?」

「ああそうだ。ちなみに日暮は?」

「二次関数のプリント。なんかこの地区って勉強の進みが異常に早いらしいんだけどさ。さすがに早すぎてきつい。」

「あー。でも俺たち何でもできたしなあ。子供の頃のほうが記憶力も集中力も高いから、今のうちに魔法以外全部叩き込もうって感じらしいぞ」

「三月とひかりは成績いいよな。三月の右に出る成績保持者はおそらく居ない。魔法なしなら光がトップだね。日暮も俺も三月も魔法トップだけど。」

「光は今何だっけ?俺らが三次関数にいるところを…」

「いやもう高校の数学全部終わってるけど。」

「やべぇな。俺たち小学生だよな?」

他愛ない(?)会話をして、時間を過ごす。ゲームすら忘れ、宿題を忘れ、ベットインしたのは言うまでもあるまい。

そうして、光の誕生日二日前が終わった。


「よしじゃあ行ってくるわ。」

「いってらっしゃい。」

光に見送られながら、街へ出かける。

「んでなんだが、どこへ行く?いつもどおりの商店街か、地下鉄乗ってでかいとこ行くか…」

「三月、お前決めてなかったのかよ。」

「じゃあ、とりま大きいところ行ってさ、帰りに商店街よらない?」

「お、それで行くか。」

「…にしても、何買おうかな…」

三月が困った顔をしていった。

「考えるの着いてからで良くない?」

「いやまあそうなんだけどさあ、ジャンルやら何やらは決めておきたいし。」

「まあ、いいだろ。今日は時間はたっっっっっっっっぷりあるんだから。」


地下鉄の改札にて…

「お、大空四兄弟じゃんか、光ちゃんはどうしたの?」

この地区のチケット売り場は、魔法の存在の流出を防ぐために、街から出るときは目的やらを駅員に教えなくてはならない。だから、駅員さんはこの地区の人の多くと顔見知りだ。

「ああ、光は今日は家にいるよ。というか大空兄弟って。この地区自体大空市だろ。」

「今日は明日の光姉の誕生日のために、誕生日プレゼントを買いに行くの。」

「ほお、それはいいね。いいプレゼント見つけてくるんだよ。」

駅員さんはそう言い、腕輪を渡す。

魔法の存在を人に伝えようとしたとき、もしくは魔法を使おうとしたときに、この地区へ強制的に返される仕組みだ。しかも、外すときにも発動する。認識阻害付きだから、別に急に消えても問題ないというスグレモノ。会話中でも、常人相手なら記憶改変を起こせるため、情報管理は徹底されていると言える。

「じゃあ、行って来い。」

そうして、地下鉄に乗った。

「まじでどうするよ」

「三月、まだ決めてなかったのかよ。」

「去年の私の誕プレはマフラーだったっけ」

「ああそう、俺たち三人の誕生日がわからないとかで全員3月27日にされたし、その上で毎年冬物だもんな。」

「じゃあひかりには夏物を送ろうか」

「いや流石に可哀想だろ」


次は、エサニア〜。エサニア駅です〜。


地下鉄のアナウンスが鳴る。

「よし、降りるか。」

地下鉄の駅から出て、あたりを見渡す。現代ペインの、都会的な風景が広がっ…て…

「いつみてもうちの地区とあんま変わんねえよな。」

「太陽、そういう事は言うもんじゃないぞ。」

「まあ私達の大空市も都会ではあるしね。」

そんなこんなでここらで一番大きい店に入る。

「よし、じゃあ方向性を決めよう。」

「服とかアクセとか食べ物、おもちゃって感じか?」

「ゲームだったらみんなで遊ぶし特別感ないよね。」

「だからといって食べ物はな…」

「まあねぇ…」

「じゃあつまるところ服かアクセがいいってことだな?」

「そうだな、よしじゃあ見て回ろうか。」


以下、ダイジェストである。

「この服はどうだ?ひかりに合いそうじゃないか?」

「この髪留めいいね!」

「お、これいいな…」

「なーなーこのゲーム楽しいぞ」

「お、これは光の髪の色と対照の色でいいかも」

「おいこのメダルタワー崩れねえぞどうなってんだ従業員!!」

「パンケーキうまー」


そして、長い時が流れ…


「…と、言うわけで、女子だからとアドバイサー兼試着役になってもらった、日暮さんがダウンしてしまったために、店から出たわけだけども。」

「どうしようかね。まじで。」

「服が一着、アクセが百個…」

「あちゃ…これはやっぱやりすぎたな。」

「…つーかさ、言おうか迷ってたことあるんだけどさ。」

「どうした、三月。」

「いや、今更なんだけど、ひかりは緑髪でロングヘアだけど、日暮はオレンジでショートヘアだろ?比較対象になるわけがないんだよな…」

「お、お前…言ってはいけないことを…」

「お前…」

そう言い放った般若は三月の後ろに居た。

「ヒッ」

その形相を見た太陽が思わず声を上げる。

「どうした、太陽。後ろには日暮以外いな…あ、あ、あの…」

三月の態度が一変したのは三月が後ろを振り返りその形相を目に入れた瞬間だった。

「あの…日暮…さま?一体、どうなさったので?」

「どうもこうもないわ!ふざけるのもいい加減にしなs」

パシュ…

「あ」

「あ」

「…日暮、魔法使おうとしたんだな。」

「転送されてったね。」

「めちゃくちゃ怖かったわ…まじで…」

そう言いながら二人は緊張の糸を緩める。

「でもさ、あれは三月が悪いぞ。」

「はぁ!?」

「だってさ、きせかえ人形のようにされた挙げ句『意味がない』だもんなあ。」

「ああ、たしかにそれはひどいな。自覚したわ。」

「だろ?」

「ああ、帰りたくねえわ…でも謝んねえとな。」

そう言いながら三月は腕輪を外した。

「おいおい、目的まだ果たしてねえっつうのに…」

どうしようもないので太陽も腕輪を外した。


「なにか言い訳はありますか?」

「すいませんでした日暮様」

「なあ、いつまでそうしてるつもりだよ。帰ってきたの三時なのにもう五時だぞ?」

「そうだぞ、早く帰んnお願いです反省してますから結界に閉じ込めるのだけはもうやめてください」

「おいおい日暮、こいつの言うとおりだぞ。結界を納めろ。誕プレもケーキも買ってないんだから。」

太陽が仲介しにいった瞬間、三月の目が輝いた。

「え?ケーキ買うの?毎年みんなで焼くじゃん。」

「たまには買ったほうがいいだろ。」

「えぇ?魔法のほうが安上がりじゃん。」

急な話だが、魔法には適正が存在している。三月の場合はだいたい使えるが、陰陽では陰が得意だが、陽が苦手。太陽はその逆。日暮は、三月と太陽を足して二で割ったのに加え、結界の魔法が得意である。

適性があれば、魔法が扱いやすく、且つ強くなる。

「でも光の誕生日に魔法とか、魔法適正がない事への嫌味みたいじゃないか?」

「太陽、ひかりはそういうの気にするほうじゃないし、どっちかっていうと手作りのほうが喜ぶと思うぞ。」

「三月、いいこといったので許します。」

「そりゃよかった」

「プレゼントどうするんだよ、結局。」

「あー…」

「帰りに商店街よるか?」

「そうするとしますか。」


この都市は二十年前にボロボロにはなったが、それでも残っている場所はある。

それが大空商店街である。

「お、大空兄弟じゃないか。」

昔懐かしの精肉店の店主が声をかけてきた。

「あ、肉屋の人。こんにちは。」

「おい、三月。いくらなんでも肉屋の人って本人の前で…」

「ははは。いいよいいよ。まだ十二だろ。ところでだが、今日はどうしてここに来たんだ?」

「ひかり姉の誕生日プレゼントを買いに来たんですよ。」

「なるほどねえ。そうだな、あそこにあるアクセサリーの店な、昔ひかりちゃんが一人で入っていった事があってな。出てきたときには3つアクセサリーを持ってたんだよ。まあ、そのアクセサリーってのはお前らがつけてるやつだけどな。」

「「「え!?」」」

三人は驚いた表情を浮かべる。

「なんでえ、三人とも知らなかったのかい?」

「いや、これは郵便受けに入ってて…」

「『三月だから三日月ね!』なんて俺に渡してきたりしてはいたけど…」

「あー。なるほどね。だからひかり姉の分がなかったのかぁ。」

「あ、誕プレそれにすればいいんじゃないか?」

「お、三月、それいいな。」

「いい感じに話がまとまったみたいだな。早く行って来い。もう少しで18時になるぞ。暗くもなってきた。」

「うん。わかった。おじさんありがと。」

「おう!じゃあな。」


そうして三人はアクセサリーの店に入った。

「ひゃあー。いっぱいあるなあ。」

「どれにしようか。」

「お、日暮、ドクロみたいなのあるぞ。」

「太陽…真面目に選べよ。」

「わーてるって。お、これなんか良くないか?」

「どれどれ?」

「おぉ。星型かぁ。いいんじゃないか?三日月、太陽、沈みかけの夕日、星。」

「大空市の四兄弟ってね。」

「ひかり、喜んでくれるといいな。」

「そうだな。」


会計を済ませ、家に帰った一同だったが…

「遅い。」

「すみませんでした…」

ひかりは頬を膨らませながら、一同を叱りつける。

「みんなのことだし滅多なことはないとはわかってたけどさあ。心配させないでよね。わかった?」

「すいませんでした…」

そうして、誕生日一日前は終わりを迎えたのだった。


「いってきまーす。」

返事は来ない。でもそれでいい。四人の朝だから。

「ひかり、誕生日おめでとう。」

「たしか拾われた日らしいけどな。」

「もう、三月。せっかくの私の誕生日に水を差す気?」

「そうだよ!ひかり姉可哀そうだよ?」

「うっ…」

「しかし、誕生日なのに誕生日パーティーまでプレゼント渡さないままでいいのか?」

「いいよ。楽しみにしてるからね?」

「見たくなったら言えよ?いつでも渡してやる。」

「太陽持ちかあ。」

ひかりは気持ち顔を引き攣らせた。

「何その反応。」


「よし、ついたな。」

学校につき、それぞれで別れて教室に入ろうとしたときだった。


ジリリリリリリリリリリ…


「は?え?これなんの音!?」

「おい、三月!見ろよあれ!」

「どれだよ!?」

そして三月は太陽の指差す先を見た。見た…のだが…

「は!?なんで”あれ”が…しかも”あれ”うちに落ちるんじゃないか?」

「うっせぇ!三月、騒いでる暇あるあらせめて”あれ”の動きを遅らせろ!」

「お、おう!」

ひかりは、腰を抜かしているが、三月と太陽は、遅速魔法を”それ”にかけた。

ひかりがそんな反応をするのも無理はなかった。なぜなら、”それ”とはすなわち…

「なんで、ミサイルがここに打たれてんだよ…」

タッタッタッタ…

「みなさん!日暮さんが結界を張ってくれました!三階です!入りに行ってください!」

ものすごく焦った佐野先生がそう言いながら避難誘導を進める。

「おい、太陽。」

「どうした?」

「日暮の結界だけじゃ不安があるし、何よりこの量だ。」

「街が無事じゃなくなるってこと…か…」

「ああ、そういうわけだから俺は落としに行ってくるぞ。」

「じゃあ俺も行く。ひかり、お前は避難しろ。」

「いや、避難誘導するよ。あと何分猶予ある?」

「3分だな。」

「それまでに入っておくから。」

「わかった。じゃあ行くぞ!」

「おう!」


はるか上空にて…

「おらおらおら!」

空を飛びながら、三月と太陽は無数の炎の刃を以てミサイルを撃ち落とす。

「うわっ。」

ただ、飛翔系の魔法は、コントロールがききづらく、二人は苦戦していた。

「何個あるんだよこれ…」

二人が撃ち落とした個数はすでに300を超えていた。

「おい、ミサイルの国旗見てみろよ…」

「国旗がどうした?」

太陽はちらりとミサイルを見た。

「ーーーーーーーッ!サコルと…ペイン…だと…」

太陽は少し諦めたような複雑な顔を浮かべる。

五百近くあったミサイルは、もうすでに大体が撃ち落とされてはいたが、

それでもそのスキは、ミサイルひとつを見逃すのには十分な時間だった。


一方、その頃。

「はあ、はあ、はあ。」

(よかった。殆どの生徒が避難を終えてる…私も避難しよう。)

「うわああああああん!こわいよう!!!」

ひかりが聞いたその叫び声は明らかに小さい子供のものだった。

「大丈夫?」

ひかりはすぐその少女にかけよった。

「うう…たすけて、おねえちゃん…」

「大丈夫、三階に行けば大丈夫だから…いこ?」

そういってひかりは少女を抱き上げて三階へ向かった。

奇しくも、それは太陽がミサイルを見逃したタイミングだった。


「おい太陽!お前ミサイル見逃してるぞ!」

「は!?マジか!?早くやんねえと!?」

三月と太陽は、何度も何度も炎をぶつけようとした。

「くそ、当たらねえ…」

というのも、動揺によって飛翔魔法がうまく使えなかったためであり、当たらないのも当たり前なのだが。


「よし、見えてきた。もう大丈夫だからね。」

少女を抱きかかえた少女は言った。だが…


ガッ…


「うわっ」

ひかりは転んでしまった。

とっさに起き上がり、少女を抱え、ひかりは結界の中に、少女を先頭として頭から滑り込んだ。


ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


その瞬間、”それ”は、火を上げ、光と化し、そうして、大空市は廃墟と化した。

肉屋の店長も、地下鉄の駅員も、その光に巻き込まれた。

そして、頭から滑り込んだ彼女は、上半身を残し、即死した。


「ひかり姉!嘘でしょ!?ねえ、起きてよ!」

ひかりの上半身を抱え、日暮が叫ぶ。

「みなさん、大丈夫でしたか?」

役目を一旦終えた二人は言う。

「太陽、三月!来てよ!ひかり姉が、ひかり姉が、目を開けないの!!!」

「は?」

このとき、太陽は

(俺が見逃したからだ。そのせいで死なせてしまった。)

と感じて動けずに居たが、三月は日暮から遺体を見せてもらい、

一瞬、この世の終わりのような顔を浮かべた。

だが、すぐいつもの顔に戻り、こう言ったのだ。

「なあ、ふたりとも。この遺体、日暮が大事そうに持ってるけど、」


ーーーいったい、誰のものなんだーーーーーーーーーーーーーーー。


と。

                         第一話終

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