第20話 陽だまりと陰どころ

 GWの家族旅行の間、俺と育実ちゃんは、あえてスマホの電源をオフにすることにした。


 そうしないと、お互いにまたメッセのやり取りで、ムラムラしちゃうから。


 この1週間は、とにかく溜める方向で。


 それも結局、エロ目的なんだけど。


 途中から、意外とお互いに、エロいことは忘れていて。


 家族と過ごす時間を楽しめていた。


 写真から、その様子が伝わって来る。


「へぇ~、育実ちゃん。こんなに食べたんだ」


「うふふ、美味しかったな~、高級バイキング」


「で、その結果が……これと」


 1週間で、そこまで劇的に変わることはないのだけど。


 でも、これは、何だか……


 たぷん。


 また色々と、育っている気が……


「はぁ~、美味しかったけど、お腹にお肉がついちゃった~」


 育実ちゃんは、悲しそうに言う。


「あの、育実ちゃん」


「なに?」


 ここは育実ちゃんの部屋で、今は他に誰もいない。


 学校帰りに、彼女の家に寄っていた。


「今日、GW明けの登校だった訳だけど……もう朝からずっと、たまらなかったよ」


「んっ?」


「元からすごく、そそるボディなのに。この1週間でまた……ドスケベさが増して」


「えへっ、そう言ってもらえると嬉しいな。ちなみに、体重も増したけど」


「可愛いよ、育実ちゃん」


「やだ、もう」


「ていうか、クラスの男子も、育実ちゃんのこと、エロい目で見ていなかったかな?」


「大丈夫でしょ、こんなデブ女に惚れるのなんて……よっくんくらいなものだよ」


「だと良いけど……育実ちゃん、自分が思っている以上に、魅力的だから」


「それはよっくんもだよ」


「いや、俺の方こそ、ただのザコ陰キャだし」


「でも、この子は、ザコじゃなかったよ?」


 育実ちゃんは、俺の股間を指差して言う。


「ていうか、制服の上からでも分かるくらい……もうすごいじゃん」


「育実ちゃんこそ、もう制服の上から見ても、パンパンだよ」


「うん、そうだね……1週間もオ◯ニーしなかったの、久しぶりだし」


「俺も……オ◯禁中は割と平気だったんだけど……今朝、学校で育実ちゃんを見た瞬間から……もう、我慢できないよ」


「わたしの方こそ……早く、よっくんが欲しい」


「育実ちゃん……」


 その後、ご近所迷惑を気にしつつも。


 1週間、溜めに溜めた分を、お互いに爆発させた。




      ◇




 チェーンのコーヒーショップで、2人して佇む。


「ねえ、あの2人、美男美女カップルじゃない?」


「本当だね~」


 否応なしに、周りに注目されてしまうのは、もうお互いに慣れている。


「……今日、GW明けだけど、ヤバかったな」


「ヤバイ、というと?」


「花梨、お前も気付いていただろ? 俵田さんの体つき……今までにも増して……すごかった」


「ええ、確かに……きっと、GW中にいっぱい、美味しいモノを食べたんでしょうね」


「ああ、そうだな……美味しいモノをいっぱい食べて……峰とも……」


 想像したら、自然と歯噛みをしてしまう。


「祐介くん、これは同じ女のカンだけど……たぶん、今朝の様子を見る限り、GW中はあの2人……エッチはしていないと思うわ」


「マジで?」


「ええ。たぶん、あえてこの1週間は溜めるって決めたのかも」


「溜める……ってことは、今日……」


「爆発しているでしょうね」


「ガッデム!」


 俺は強くテーブルを叩く。


 周りのお客さんがビクッとしたので、すぐに微笑みを浮かべると、場は収まった。


「祐介くん、そこまで……こんな風に荒れる人じゃないでしょ?」


「まあ、そうだね……今まではずっと、自分を押し殺して来たから」


「そう……私も、一緒よ」


 花梨はコーヒーを口にする。


 俺も同じように、コーヒーで気を落ち着ける。


「はぁ……それにしても、狂おしいほど、羨ましいよ」


「えぇ、そうね……俵田さんだけじゃなく、峰くんも今日、すごかったから」


「んっ?」


「気付かなかった? ズボンの上からでも……あ、すごいって思ったもん」


「すまん、俵田さんばかり見ていた」


「ゾッコンね……まあ、私もだけど」


「でも、花梨はちゃんと、俵田さんの方も見ていたし……協定関係を結んでいる身として、俺もちゃんとするよ」


「そんな肩ひじを張らないで。そもそも、私たちは……ひどいことをしようとしている訳だし」


「うっ、確かに、そうかもしれないけど……まだ学生で、結婚している訳じゃないし、あくまでも口説き落とすつもりだから……許されるだろ?」


「まあ、そうね。でも、きっと周りがうるさくなるわ」


「それは……もう、覚悟を決めたよ。花梨は、やっぱり怖いか?」


「ええ、怖いわね。でも……」


 彼女は、愛らしいツインテールを、大人びた所作でなびかせる。


「それでも、峰くんが欲しいの」


「お前……」


「ごめんなさい、ちょっと引いた?」


「いや、そんなの……お互いさまだからさ」


「ふふ……でも、ちょっと心配ね」


「何が?」


「もうすぐ中間テストでしょ? あの2人、爆発エッチに夢中になって、その辺がおろそかにならないかしら」


「ああ……何かそう聞いただけで、またムカムカとして来たよ」


「ごめんなさい」


「いや、謝ることじゃ……」


「ちなみに、ムラムラはしない?」


「はっ?」


「祐介くん、モテるから、彼女なんて作ろうと思えば、すぐでしょうけど。マジメで良い人だから、いわゆるセ◯レなんて、作らないでしょ?」


「ま、まあ、それは……そうか、俺は俵田さんを口説き落とすまで……自己処理をするしかないのか。まあ、それも仕方ないことだな……」


「……良ければ、私が相手をしましょうか?」


「……えっ?」


「もちろん、あなたの気が乗ればの話だけど」


 花梨は、何とも言えない瞳で、俺のことを見つめて来る。


「お、お前の方こそ……良いのかよ? 峰のことが好きなのに……」


「まあ、そうだけど……祐介くんって、経験済みなのよね?」


「そ、そうだな」


「私もそうだし……だったら、お互いに大丈夫かなって」


「ああ、うん……」


 花梨の言おうとしていることは、何となく理解できる。


 でも、それって、やっぱり……


「……たぶん、俵田さんって、性欲が強いと思うから」


「なぬっ」


「付き合うまでに、腕……いえ、腰をなまらせないためにも……しておく価値はあると思うわ」


「花梨、お前……何か、すごいな」


「そうかしら?」


「それに比べて、俺は……ちょっと、バカかも」


「男子はそれくらいの方が、ちょうど良いと思うわ」


「そうかなぁ?」


「ええ。少なくとも、私は……」


 言いかけて、花梨は押し黙る。


「花梨?」


「あ、いえ……今日、私の両親は、帰りが遅いから……良ければ、どう?」


「そ、そこまで言ってもらえるなら……お願いします」


「……はい」


 お互いに、少し敬語口調で、よそよそしくなりつつも。


 また同じように、ティーカップに口をつけた。




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