第18話 祐介視点

 小さい頃から、恐れ多くも、みんなの人気者で、チヤホヤされて来た。


『祐介くんは、本当にイケメンね~』


『将来はアイドルかしら?』


『それとも俳優とか?』


 周りのみんなが、俺に対して夢を抱いていた。


 期待してくれることは嬉しいけど、でも……


 果たして、それが俺の望むことなのか、ずっと疑問だった。


 みんなして、俺に良くしてくれるのは、ありがたいことだけど。


 その分、常にずっしりと、重しを載せられているようで。


 あるいは、牢獄か何かに閉じ込められているようで。


 ずっと、息苦しい。


 もっと、軽やかに生きたいのに。


 でも、結局は、己の性質、運命に抗えぬまま。


 流されて、流されて、周りの期待に応えるように生きて。


 中学時代は、同学年でみんな憧れる可愛い子と付き合った。


 周りのくっつけという空気感、後押しも大いにあったと思う。


 もちろん、俺はちゃんと彼女のことが好きだと思ったから、付き合った。


 交際は順調に続いて、少し早いと思いつつも、お互いに初体験も済ませた。


 その後は、週1くらいでエッチをしていたけど。


 3年生になって、受験シーズンになると、エッチはもちろん、デートも控えるようになった。


 そんな時……


『なぁ、祐介ぇ』


 クラスのチャラ男が声をかけて来た。


『オレさ、週末に女とヤ◯まくったわ♪』


『はぁ? お前、受験は大丈夫なのかよ?」』


『まぁ、オレは別にバカ底辺校で構わんし』


『親が泣くぞ』


『大丈夫だよ、お前みたいに期待されていないから』


『……そうか』


『それよりもさ~、オレの今イチオシの女、見る?』


『いや、別に良いよ。どうせ、お前のことだから、ギャルだろ?』


『チッチッチ、甘いな、祐介くんよ』


『じゃあ、まさかの清楚系? お前、口が達者だから、騙したな?』


『ぶっぶ~』


『じゃあ、どんな女子だよ?』


 気付けば、俺は苛立ちつつも、前のめりになって聞いていた。


 すると、やつはスマホをタップして、画面を俺に見せる。


『コレ♪』


『……これは』


 そこに映っていたのは、オレも知っている女子。


 クラスの中で、ポチャ子と言われている女子だ。


 決してブスじゃない、愛嬌のある感じの子だけど……


『……意外すぎるな』


『まぁ、ちょっと前までは、俺も可愛くてイケてる女しか興味なかったんだけど……こいつ、たまらんぞ』


『たまらんぞって……』


『まず、カラダがクソほどエロい。デブだから、おっぱいが分かりやすく突き出てはいないけど……ちゃんと、デカいし』


『へ、へぇ~』


『あと、尻もデカいし』


『ふぅ~ん……』


『極めつけに、性欲が強い』


『……はっ?』


『だから、しこたまエッチしまくり♪』


『し、しこたまとか……』


『まあ、見た目はきれいな体じゃないかもしれないけど……中坊にして、オレは気付いたよ。結局、男はこういう女が、一番エロく感じるんだって』


『……性欲ばっかりじゃないか』


『当たり前だろ。男はみんなエロザルよ』


『お前と一緒にするな』


『じゃあ、お前も一度、試してみるか?』


『えっ?』


『こいつ、別に彼女じゃなくてセ◯レだからさ。特別だぞ♪』


 スマホ画面のぽっちゃり女子を、ついつい見つめてしまう。


 確かに、得も言われぬ存在感というか……ゴクリ。


 しかも、同じクラスの女子と言うのが……


『……ダ、ダメだろ、そんなの』


 俺は絞り出すように言う。


『だいたい、俺は彼女がいるし』


『知ってるよ。確かに、お前の彼女は美少女だし、オレも勝手にオ◯ペットにしていた』


『おい』


『でもさ、ぶっちゃけ、飽きて来ないか? 物足りなくないか?』


『そんなことは……』


 俺は言葉に詰まってしまう。


 確かに、俺の彼女はすごく可愛いが……


 エッチに対して、そこまで積極的じゃない。


 体も、決して貧相ではないが……華奢だ。


 そんな彼女と、この写真のクラスメイトを比べると……


 確かに、後者の方が、そそられる。


 ついつい、エッチな姿を想像してしまう。


 きっと、俺が想像もしないくらいに、ダイナミックな動きを見せてくれる……のだろうか?


 そんな期待が胸に内に湧いてしまう。


『おーい、祐介ぇ』


『ハッ……』


『で、どうする?』


 チャラ男は、ニヤついた顔のまま言う。


 この時、俺のメンタルはグラグラだった。


『……や、やっぱり、やめておくよ』


 そして、ギリギリのところで、理性が勝ってくれる。


『あっそ……お前、後悔しても知らねーぞ?』


 チャラ男はそう言って、俺の下から去って行く。


 けど、後日。


 受験勉強に勤しむ俺に対して、やつからメッセが来た。


 画像&動画つきで。


 そのせいで、俺は危うく、人生が転落するところだった。


 意地とプライドで、何とか持ち堪えて、ちゃんとした高校に合格できた。


 ちなみに、彼女とは別れた。


 あえて、違う高校を選んだ。


 決して、浮気はしていないけど。


 でも実質、したようなものだと罪悪感に苛まれていたから。


 そして、そこで俺は出会う。


 あのチャラ男に見せつけられた、ポチャ子。


 彼女を彷彿とさせるような……いや、それよりもずっと、可愛らしくて。


 そそるような体型の女子……


 俵田育実たわらだいくみ


 恐れ多くも、俺の周りには、入学早々、可愛い女子たちが寄って来る。


 けど、その誰よりも、クラスのアイドルで、俺とお似合いとか言われる松林花梨まつばやしかりんよりも……


 俵田さんのことを、意識してしまう。


 あの一件で、俺はどこか歪んでしまったのかもしれない。


 いや、もしかしたら、ただ本能が目覚めただけかもしれない。


 確かに、付き合うなら、花梨みたいな子が自慢できる。


 でも、本当に満足できるのは、俵田さんみたいな子だって。


 もう、知っているんだ。


 でも、実感は出来ていない。


 あの時は、我慢していたから。


 今もまだ、立場上、我慢しなければいけないかもしれない。


 それでも、俺は……


「え~と、誰か美化委員の希望はいるか~?」


 先生が言う。


 先ほどまで、元気よく手を上げていたみんなは、急に押し黙る。


 まあ、仕方がない。


 美化委員も、立派な仕事だけど。


 どうしても、地味というか……


「……あ、じゃあ、わたしがやりまーす」


 瞬間、俺はピクッと反応した。


「おお。俵田、ありがとう。じゃあ、あと1人だけど……」


 瞬間、俺は葛藤というか、言いようのない切迫感に捕らわれる。


 俺はもう、既に体育祭実行委員に決まっていた。


 立候補ではなく、みんなに後押しされて。


 花梨もそうだった。


 お互いに、正直ちょっと、戸惑いつつも。


 もし、出来ることなら、俺は今この場で元気よく手を上げたい。


 俺が密かにゾッコンになっている、俵田さんと2人きりになりたい。


 それなのに……


「……あ、あの。じゃあ、俺が」


 俺はまた、ハッと振り向く。


「おお、峰か。じゃあ、頼むな」


「は、はい……」


 この一連のやりとり。


 クラスのみんなは、さして気にも留めていない様子。


 けど、俺だけが、ひどくザワついている。


 峰善和みねよしかず……だったか。


 失礼ながら、俺とは違う人種……


 言うなれば、ボッチ……陰キャ。


 そんな彼が、俵田さんと、2人きり。


 ていうか、美化委員を選んだのは、自分と気質が合うからか?


 それとも、まさか……


 いや、落ち着け。


 別に同じ委員になったからって、そのままくっつくとは限らないし。


 あくまでも、ビジネスライクとか、そんな関係になるかもしれないし。


 ていうか、きっと恋愛経験がないであろう、彼が俵田さんにアピールするとも思えないし。


 うん、だから、大丈夫だ。


 俺はひっそり、水面下でジワジワと、俵田さんをモノにしよう。


 みんなの期待としては、俺と花梨がくっつくことなんだろうけど。


 それは、すまない。


 だいたい、俺以外にもカッコイイ男子なんていくらでもいるから。


 花梨なら、すぐどうとでもなるだろう。


 そして、俺は……俵田さんと付き合って……エッチしまくる。


 高校受験の時、ずっと我慢していたからな。


 まあ、次は大学受験が控えているけど。


 それも、2年先のこと。


 今の内は、まだまだ遊べる。


 その内に、あの愛らしくてたまらない、豊満ぽっちゃり女子と、しこたま……


『ああああああああぁん! 祐介くん、すごぃ!』


『育実のカラダもすごいよ!』


 ……やばい。


 想像、いや妄想しただけで、たぎる。


 俵田さん、君も付き合うなら、イケメンの方が良いだろ?


 ていうか、俺ってば、自画自賛とか。


 昔は、胸の内でもそんなにしなかったのに。


 やっぱり、少し歪んでしまったのかもしれない。


 だから、この高校生活こそ、自分に正直になろう。


 今のところ、半分も出来ていないけど。


 大丈夫。


 俵田育実をモノにして、俺は本当の自分の人生を行く。


 とりあえず、夏休み前には確実に付き合っておきたい。


 夏休みに、しこたま……シたいから。


 なんて、堕落するのは御免だけどな。


 あくまでも、やることはちゃんとやって……だ。


 ふふ、今から彼女とのアバンチュールを妄想、想像するのが楽しみだ。


 いや、俺は必ず、現実のモノにしてみせる。


 とは言ったものの、実際にはリア充グループとの付き合いが忙しくて。


 なかなか、俵田さんにアプローチ出来ない。


 今日もまた、カラオケに付き合わされた。


 正直、疲れる。


「じゃ、メシ行くか~」


「良いね~」


「ファミレス~」


 もう俺たち、良い歳なんだからさ。


 メシくらい、1人で食えるだろ。


 いつも、どんな時も、群がりやがって。


 これだから、リア充っていう種族は……


 いや、俺もそこに所属している訳だけどさ……


「……んっ?」


 休日、雑踏が多い。


 ただそんな中でも、鮮明に見えた。


 少なくとも、俺だけには。


 だって、入学当初から、俺が密かにずっと、狙い続けている彼女。


 俵田さんがいた。


 私服姿、初めて見た、可愛い。


 とか、のんきな感想を言っている余裕はない。


 なぜなら、そこにはもう1人いたから。


 峰が……何だか、真剣な眼差しを向けている。


 俵田さんも。


 お互いに、見つめ合って……


 直後、峰が、俵田さんの胸に……触れた。


 いや、俵田さんの方が、誘導したようにも見えた。


 照れたように笑ってから。


 そのまま、2人して、歩いて行く。


 手を繋いで、ゆっくりと。


 夕暮れの街を――


「祐介ぇ~?」


 呼ばれて、ハッとする。


「どした~?」


「誰か、可愛い子でもいたか?」


「いやいや、祐介には花梨がいるじゃん」


「だよな~。何なら、このあと2人きりになるか?」


 言われて、俺はおもむろに、花梨を見た。


 彼女もまた、俺を見ている。


 瞬間、お互いに、何かを悟った。


 そうか、花梨……お前もだったのか。


 お前が、そこまで俺を見ていないことは分かっていた。


 その視線は……あいつに向いていたのか。


 峰、お前は……罪深い男だな。


 もちろん、何も悪いことはしていない。


 だから、このままそっとしておくのが、正解。


 でも……俺はもう、我慢できない。


 俵田さんと……エッチしたい。


 いや、そこは付き合いたいじゃないのかよ、と自分に対してツッコむ。


 けど、これが今の、俺の本当の気持ちだ。


 何としても、彼女を手に入れたい。


 花梨、お前もそうだろ?


 峰が欲しくてたまらないんだろ?


 だったら、さ……


 お互いに、口元で笑みを浮かべている。


 彼女のそれは、今まで見たことないほど、嫌らしく。


 俺もまた、きっと嫌らしい。







*ようやく、下ごしらえ完了です。


 次回より、本番スタートです。


 よろしくお願いします。




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