第三章 5話 バケモノとバケモノ
突如目の前に現れた緑の化け物は一言で言えば異様であった。自動車ほどの大きさの全身は緑がかった体毛に覆われており、丸太のような4本足からは泥とゴミを蹴散らしながら進む太く鋭い爪が生えている。獲物を喰らいつかんとするバックリと開いた口からは、びっしりと牙が生え、不快な臭いと涎を撒き散らしながらなりふり構わず向かってきている。撒き散らされた涎は地面や壁にへばりついては、泡を出しながら対象物を融解させているのが分かる。
そんな地獄の暴走機関車のような突撃を前にして意外にも一行は冷静であった。
「どーすんだあのバケモン、俺今日武器ねぇぞ。」
「接近戦はちと具合悪いな。」
「あのサイズじゃあ、殴る蹴るだけじゃあ時間かかりそうだよな…」
ギャングボス、探偵、万屋の三人が戦闘体勢を取りつつも話し合っていると後ろからふと何かが通り過ぎた。
その風はそのまま前方で死にものぐるいで走ってこちらに逃げてきていた男の頭上を越え、今にも飛びかからんとする化け物に向かっていった。
シュイィィィィンと金属の擦れる音が通路に響き渡ると、男を喰らい付かんとするために大口を開けて飛びかかっていた化け物は綺麗に左右に真っ二つに分かれて一行を避けるように転がり、壁にぶつかってグチャッという音を立てて動かなくなった。
振り返って見ると化け物は中心から真っ二つに分かれており、断面図は黒く焦げてタンパク質の焦げる不快な臭いを放ちながら白い煙を放出させていた。
突然の出来事に三人はこの惨状を作り出した元凶の方向を見やると、身長と同じほどのサイズはあろうかという大鎌をバトントワリングのように鮮やかに回していた。蛍光ピンクに薄ぼんやりと光る刀身はペンライトを振るかのように薄暗い通路に円形状の軌跡を残している。
全員の視線が自分に向いている事に気がついた彼女は、構え直し微笑しながら問いかけた。
「ねぇ?足手まといにはならないって言ったでしょう?」
そこには大鎌を携えた女医が立っていたのだ。
「ヒュー!!!やるじゃねーか嬢ちゃん!!!coolだぜ!!」
「ふーん…」
「マジか!?…すげぇな…」
女医の鮮やかな一連の動きに対する反応は三者一様であった。口笛を吹き拍手で讃える者、腕を組み静観する者、目を見開き驚き唖然とする者。そして足元でヘッドスライディングのごとき勢いで泥に突っ込んだ先程まで命の危機に会っていた者、地主が安否を気にしていた男である国一番の看板屋、電光師である。
「死ぬかとおもったぁああああああああ……」
電光師はつかの間にほっと息を降ろすのもすぐ終わり、急いで万屋の元に駆け寄り話しかける。
「万屋君!!大変なんだ!!あっちにみんな閉じ込められてるんだ!!助けてくれ!」
「お!?おう、あんたはどうしてあんなのに追われてたんだよ?」
「みんな閉じ込められてたんだけど隙を見て脱出したんだ、だけど出入口を探していたら化け物とばったり鉢合わせて…」
「今に至るか、道は把握してるか?」
「大丈夫、なんとか覚えてると思う。でも中には歩けない人もいるから誰か手伝って欲しいんだ。」
「じゃあ俺が手伝おう、あんた達は元凶をぶっ潰しに行ってくれ。」
そういうと万屋は何かをギャングボスに向かって放り投げた。難なく受け取ったギャングボスはまじまじと手元の小型機械を見つめる。
「なんだこりゃ?」
「そいつは小型通信機だ。スイッチを入れれば端末の居場所が分かるからあとで合流するのに使わせてくれ。」
ボスは手の中の四角い鉄の塊を起動する。側部に着いた小さなランプが赤く点滅しているのがわかる。それをポッケにしまいながら、一同は二手に別れる事にしたのであった。
救出組と別れを告げた三人は入り組んだ地下通路を進み続けていく。地面に散らばっていたゴミが少し増えたように感じ、鼻につく匂いが更に強さを増しているように感じる。
「観てみろ、この缶詰は賞味期限が一週間前だ、誰かが此処で生活していた形跡と見ていいだろうな。」
探偵は落ちている空き缶を軽く蹴飛ばしながら答える。確かに奥に進むにつれて、空になった食べ物の容器や、何者かが最近までいたような生活感が見受けられる。グネグネと入り乱れる通路を歩いていると、先の曲がり角過ぎていく影を発見した。
「おい!今なんかいたぞ!」
そう言って駆け出すボス。慌てたように追いかける一行。影はなかなかに素早く、追いつくことができずそのまま影に導かれるように道を突き進んでいくと、突如真っ暗な広い空間に出た。
「なんだここ!?なんも見えねぇぞ!」
「灯は…えっと…持ってたかな…」
「チッ…こりゃ罠か…誘導されたって訳か。」
しばらくすると突如として眩い光が当てられる。急な閃光に目を細める一行は気がつけば辺りが見渡せるようになっていた。
そして気がつく。自分たちが円形に広がった空間の真ん中にいて、周りを囲むように金網と鉄格子が展開している。まるで闘技場の見世物になった様な気分であった。
「ギャーシャッシャッシャァ!!よくぞたどり着いた人間どもよ!!!我らが王国の洗礼を受けてもらうぞ!!」
目の慣れてきた三人は声の聞こえる方へ視線を向け、己が置かれている奇妙な状況を否応にも知らされる事になった。
「…あれは…どういうことでしょうか…」
「意味わからんな…」
「どういうことなんだありゃあ!?」
その光景を見て思わず驚く三人、愕然とする一同の前には、
「貴様らなんだその面は!!我輩に対して無礼であるぞ!!」
煌びやかな衣装に身を包んだ巨大なドブネズミが大声で喚いていたのだった。
to be continued…
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