第三章 4話 ああ泥臭きは罪の香り


 探偵、ボス、女医、万屋の4人はマンガン王国を出て少し歩いた所の岩石地帯に来ていた。元々炭鉱があった名残であるボロボロの搬送路近くに出来た人の手によって舗装されていない砂利道を歩いていく、切り出した岩肌や倒木が散見する道の果てに目的地はあった。万屋が手元の地図と見比べながらそれを指差す。


「着いたぞ探偵、此処が例の用水路だ、もっとも今はもう使われてないがな。なんつったってこの地域にはもう人なんざ住んでねぇしな。」


その古ぼけたコンクリートとむき出しの鉄板で作られたトンネルは不気味な雰囲気を醸し出していた。なぜ彼らがここに来るに至ったかは約一時間前に遡る。


〜〜〜回想開始〜〜〜


 ここは地主の大屋敷の一室、豪華絢爛な中央のテーブルには様々な地図が広げられていた。探偵はそれらを見比べては何やら書き記している。



「んでよ、こんなに地図集めて一体全体どこで分かったんだ?」


万屋が要領が掴めず探偵に問いかける。彼の答えは簡潔であった。


「あんたら、『東大陸地下水路統一計画』って知ってる?」


「ふむ…たしか20年ほど前にオルガムート先代皇帝が行なっていた政策だったかね。一大プロジェクトだった記憶があるね。」


「そう、地下水道設備を街全部で繋げて帝国で管理しやすくしようって壮大な計画だったけども…計画は途中で頓挫した。何故だ?」


探偵はすっと先生が生徒に答えを聞く様に女医を指差す。


「え!?…うーん…第4次防衛戦争が起きてしまった?」


「正解。それで有耶無耶そのままに現皇帝に変わって、結局計画は凍結したままになった。」



探偵は女医に差していた指を流れる様に地図へと落とす。



「だが工事は途中まで行われていた。事実、秘書から貰った地下水路の最新地図と計画前の地図には随分と区画に差がある。そしてその工事で新たに追加された通路の上が…」


「今回の行方不明者の家のすぐそばじゃねーか!」


探偵が地図を重ねると引いていた線がピッタリと重なりギャングボスが思わず叫ぶ。


「今回の被害者の共通点は『マンホールがすぐそばにある』だったらしい。どうりで接点が繋がらない訳だ。」


「なるほどなぁ…でも工事は途中で止まってたんだろ?だったら他の街とは繋がってないはずじゃないか?」


「計画凍結から少なくとも10年は経っている、それこそ魔物が住み着くほどにな。だったらコソコソと開通させられててもおかしくは無いだろ。」


「計画的な犯行ですかね…」


「となると相手は複数人で一斉にやったのかね?」


「いいや、少し違う。さっき秘書から連絡があったが、鑑識によるとソートハウル街病院の監視カメラが途絶えた時間と、オルガムートの現場に残った泥の乾き具合がズレてるらしい。すなわち、街を転々としながら移動している説が妥当だ。」


「そして最後に犯行が行われたと思われるのがこのマンガン王国、さっき言ってた用水路が怪しいだろうな。あんた、場所教えて貰えるか?」


探偵が万屋に尋ねると万屋は威勢良く立ち上がり答える。


「おう!!っていうか俺も着いてくぜ!街の人間がピンチなら俺の出番だしな!」


「助かる。」


地主が書類などを束ねながら何処かに連絡を飛ばしている。万が一に備えての何かバックアップを用意している事が分かった。一行は地主の連絡先を貰い支度を始める。


「何かあれば連絡してくれたまえ、出来る限りの支援は行おう。チミたちは手練れだろう事は見れば分かったが彼処には万屋君が言ったように魔物が住み着いている可能性が非常に高い。くれぐれも油断はしないでくれ。」


「あたぼうよ!!んで、嬢ちゃんはどうすんだ?何があるかわかんねぇぞ?魔物もいるかもしんねぇし…」


ボスの問いに対して女医は少し微笑むとさらりと返す。


「自衛ぐらいは出来ます、それに私の患者が消えている以上足踏みしている訳にはいかないのです。」


「うぉ…なんかやる気満々って感じだな。」


「無駄口は良い。足引っ張るなら置いてくだけだ。」


「探偵の彼、随分ドライなんだな。」


「いつもの事だぜ?しばらくすりゃ慣れるぜ。」


こうして4人は屋敷を後にして、用水路へと向かったのであった。



〜〜〜回想終了〜〜〜


 目の前に広がる大穴からは不快な臭いを纏う風が頬を撫で抜ける、一行はトンネルをくぐり、微かな電灯に照らされながら泥とゴミが散らばる通路を歩いて行く。



「…ぐへぇっ、マジで臭ぇなここ…足元は泥まみれだしよぇ…こりゃあクリーニングでもダメそうだな…」


ボスはこないだ買ったばかりのズボンに泥が跳ねるのを見て思わずげんなりとする。


「医者のねぇちゃんは白衣のままで良かったのか?明らかに汚れそうだが」


泥だろうが御構い無しにずんずんと進んでいく万屋はふと思い出した様に女医に問いかける。すると彼女は少しぽかんとした後、自身の足元を見て肩を落として落ち込む。


「そうだった…着替えればよかった…これじゃあもう捨てるしかないかしら…」


「いちいちそんな事気にしてると先が見えんぞ、気にするな。」



落ち込む女医を横目にバッサリと切り捨てる探偵。薄暗い反響する道を慎重に進んで行くと。前方から音が聞こえて来た、徐々に大きくなる音に一同は戦闘態勢をとる。

すると前方の突き当たりから曲がってきた一人の男が視認できた。男は必死の形相で此方へと全力疾走してきており、姿は泥などで汚れている。近づいてきて顔が明らかになると万屋が声をあげる。


「!?アイツは行方不明の地主のおっさんの所の電光師じゃねーかよ!!おーい!!大丈夫だったかー!!」


行方不明の発見に喜びと困惑の入り混じった声を上げる万屋、だがしかしその喜びは驚愕へと変わる。


「ほぎゃああああ!!!!助けてくれぇぇ〜

!!!」


「なんじゃありゃあ!!!」


彼が見えてしばらくすると彼の後方に巨大な四足歩行の緑の犬のような魔物が突撃してきたのであった。



to be continued…

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