第三章 2話 白衣の白と裏の黒


 二人は秘書から届いた電報に導かれる様にソートハウル街の中央にある噴水広場から北へ歩いて行く、地図に記された場所を見るとそこには大きな病院がそびえ立っていた。

白を基調とした清潔感漂うこの建物は、今日も住民の大小様々な身体の悩みを解決するために奔走していた。中へと入り受付に要件を伝えると、しばらく経ってから一人の女性がやってきた。



「お待ちしておりました、私が今回秘書より紹介を預かられました、案内をさせていただく者です。」



そう言って名刺を渡してきた女を探偵は一瞥する。

ゆるりと垂れ下がった目に泣き黒子が目立つ女は、紺色のセーターと黒のタイツの上に白衣を着ていた。胸元のポケットには院長と名された名札がつけられていて、一目でこの病院の医者だということを主張している。ダークレッドの髪はウェーブがかって肩まで伸びていて、全体的に清潔感のある女だった。そんな彼女が二人の前で微笑みながら口を開いた。



「貴方が秘書さんの言っていた探偵さんで…すみませんが貴方は…?」


「あー、俺は…なんつうか、ダステルの有識者みたいなもんだ!こいつの手伝いみたいなもんだと思ってくれ、邪魔はしねぇからよ。」



ギャングボスが自身の職を濁しながら答える。今まで散々部下にギャングだと他人に言うなと説教され続けた成果である。



「そうですか…分かりました、それでは詳細を説明させていただきたいのでこちらへ着いてきてください。」


そう言うと彼女は通路へと歩き出していった。ボスはは前を歩く女医を見ながらひそひそと探偵にささやく。


「なんかえらい別嬪さんがお出迎えに来てくれたもんだなぁ…敏腕秘書さんは電報にゃぁなんて書いてたんだ?」


「『現地の私の知り合いが状況説明してくれるからここに行ってね』だと……国が表立って公表してない筈のこの事件を只の医者が関われるわけ無いだろう、大方あの女はあの敏腕秘書の手の者なんだろうな。」


「ガ!?俺此処にいて良いのか?一応外野みたいなもんだぞ?」


「…あの女だぞ?どうせ俺がお前を連れてくのなんざ計算内なんだろうよ。」



二人で静かに話していると関係者立ち入り禁止の看板が立てられた部屋へとたどり着く、女医は扉を開け、二人を中へと招き入れる。


「こちらが事件現場です。この病院ではこの部屋と向かいの部屋、合計で5人の入院患者が行方不明になってます。いづれも重症患者ではなかったんですが……安否が非常に心配ですね…」


「なるほど…確かに少し臭う。」



その入院部屋は三人部屋となっていて、寝ていた患者がしていたであろう点滴や荷物、着替えなどがそのままになっている。やはり秘書が言っていたように微かに腐臭の様なものが感じ取れた。



「廊下の監視カメラはどうだったか?」


「配線をバッサリ切られてました、映像にも何かの足音は聞こえるんですが何も映ってませんでした。」


二人は女医に入院していた患者の情報や行方不明になった日の警備などを聞きながら部屋を調べていた。そうすると何かを見つけたボスが声をかける。



「おい!こりゃあなんだ?」



ベットの手すりに擦れるようにして残っていたそれは泥であった、そしてその泥からは腐臭が漂っているのが分かる。



「ここ周辺で泥が付着しそうな場所って分かる?」


「ここ一帯は全て舗装済みですのでないかと思います…」



腐臭のする泥、次々と連続して増える行方不明者、目撃者のいない夜。謎は深まるばかりであった。

しばらくして一行は、病院の準備室にて情報を整理しつつ、会話をしていた。



「嬢ちゃん、そういやぁあんたは秘書さんとどういう関係なんだ?」


ボスが入れてもらったお茶を啜りながら尋ねる。


「そうですねぇ…昔にお世話になった人って感じですかね。」


しみじみと語る女医を探偵は


「……面倒くさいから聞いて良いか?」


「…?何をですか??」


「あんたのトップである秘書がこの街で何をしようとしてるかって話だ。」



探偵が発言した瞬間、部屋内に緊張が走り静寂が広がる。



「……何を言っているのですか?」



穏やかに微笑む女医だが、先程とは明らかに気配が違う。だが探偵は少し笑いを零すとあっけらかんと告げた。



「別に邪魔しようとか暴こうって訳じゃない。いずれ関わることになりそうだから、あんたの同業者達にコネを作りたいだけだ。俺は正義の味方じゃない。あの人が清純潔白じゃないのは俺らも承知だ。」



女医は少し考え、口を開いた。



「…秘書様とはどういう関係なのですか?」



「裏仕事の手伝い、関わり始めたのは割と最近だが良い関係を築かせてもらってる。あの人金払い良いしな。」



そして続け様に探偵は横でお茶を飲みながらら明後日を見ているボスを指差しながら答える。



「そんでコイツはあんたのトップが最近内情を探ってるギャングのボスだ。関わっといて損はないぞ。」



突然の暴露に女医は驚き、突然秘密を明かされたボスはお茶を噴き出した。



「!?!?おまっ!!何勝手にバラしてんだよ!!!」


「良いじゃん別に、捕まるわけでもないし。」


「そういうもんじゃ無くてだなぁ!!もっとこう、なんか…イメージがあるだろうが!!」


「お前地元じゃ有名人みたいなもんだろ、外で猫被んなよ。」


「部下にあんま外で言いふらすなって怒られてんの!!」



騒々しいやり取りが一息ついた後、改めて女医に話しかける。


「って事で今後とも裏同士関わる機会はありそうだからなんとなく聞いただけ。」



探偵の言葉に女医は少しため息を吐くと、緊張が解けたように語り出した。



「はぁ…まぁ秘書様が信頼してるなら大丈夫なんでしょう…この街にはあと6人私と同じ者がいます、くれぐれも今回みたいに聞かないようにしてくださいね?スパイかと思いますよぉ…」



何はともあれ互いの探り合いが終わった所で女医と探偵の携帯がほとんど同時に振動した。二人は画面を見て、お互いの顔を見合わせる。


「あんたも?」


「ええ、貴方方に付いていくようにと。」


「監視か?何かあっても助けないぞ?」


「ご心配なく、足手まといにはなりませんので。」


「次は何処で発覚したんだよ?もう結構な距離動いたもんだぜ。」



探偵は画面を見ながら答える。


「娯楽の都マンガン王国、今回の事件は随分と長旅になりそうだ。」


三人は次なる事件場、マンガン王国へと向かうのであった。


to be continued…

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