第三章 1話 新たな事件
ソウレス街、霧が立ち込め嫌に静かなこの街の一角に豪華な建物が一軒立っている。その建物の内部、派手に飾らず落ち着いた雰囲気のその一室にて男は寛いでいた。
最近手に入れたお気に入りの音楽をかけながらコーヒーとラズベリーケーキを嗜む。
コーヒーを飲むと苦味とほのかな甘味が広がり、酸味のあるラズベリーケーキを引き立てている。わざわざ海上都市ブクレストから豆を仕入れて正解だった。あそこの豆は品質が良く少々値は張るものの、価値に見合った良さがある。そう考えながら横のソファーで我が物顔で寝そべっている猫を撫でる、眠たげに欠伸をする彼女も探偵を始めてから出会ったがなかなかの付き合いになる。
そんな優雅な朝は突如一つの電報で悲しくも砕け散る。宛先はオルムガート帝国秘書からであった、ギター担当誘拐事件以降お得意先としてかなりグレーな事を頼んでくる彼女は、事件の内容がかなり国の中枢に食い込むヤバめの事件が多くキツめの調査になる事が多いものの、かなりの高額報酬な事から受けざるおえない状況になっていた。
思わぬところで邪魔が入った探偵は赤みがかった髪を掻きながらめんどくさそうに電報に目を通す。内容に目を通していると、大きく書かれた一文に目が止まった。
「帝国内にて多数の行方不明者発生、同様の手口とおもわれる事件がソウレス街、ダステル街にも数件発生している事が判明、至急城まで。」
探偵は最後の一切れのラズベリーケーキを口に放り込み、小さくため息を吐くと、コーヒーで流してから、コートに手を掛けるのであった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
場所は変わりオルムガート帝国内オルムガート城談話室、二人の男女が中で話をしていた。探偵と帝国秘書である。
「…と言うわけでこの1日で帝国内では5人も行方が分からなくなっているの。」
「で、調べてみたら同じ様なのがソウレス、ダステルでも起きてるって訳か…」
「そうなの…ソウレスでは3件、ダステルでは2件報告されているわ…」
「随分と数が多いな…行方不明者の詳細は何か分かるのか?」
秘書が持ってきた地図に赤ペンで丸を描きながら述べる。
「被害者は全員真夜中の就寝時に誘拐されたと考えられるわ、場所は全部自宅で荒らされた形跡は特になし…でも臭いらしいのよね。」
「何がだ?事件がか?」
「違うわ、現場よ。どの現場の家も嫌な臭いがしたらしいの…ゴミ捨て場みたいな臭いだって調査隊が言っていたわね。」
「ゴミ捨て場みたいな、腐敗臭か何かか…現場の家も地図の限りだと密集してるな…何の関連性だ?」
「年齢も職業も、生まれまでバラバラみたいよ?手当たり次第に攫ったとか?」
二人は持ち得る情報を使って推測を立てるがいかんせん情報が少ないために議論が進まなかった。探偵はこの硬直した状態に一つ小さなため息を吐くと、立ち上がった。
「とりあえず、ダステルの詳細を現地の仲間に聞いてみる、何かあったら電報を入れてくれ、通信でも構わん。」
「了解したわ、こっちでも引き続き帝国内の捜索は続けておくから。」
「感謝」
そういうと、探偵は汽車の時間を調べながら部屋を出た。頼りになる腕が必要だ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
乗り継いだ地下汽車から降りた探偵は10番街へと向かう、行き先はいつものbarだ。錆びれた両開きのドアを開けると、中央のカウンターによく見たデカイ背中があったため、探偵は適当に声を投げた。
「おい大将、お得意のパトロールはどうだったんだ?」
巨大な背中がくるりと向くとサングラスの強面の男がしかめっ面で酒を飲んでいた。だがこちらに気がつくとパッと顔を変える。
「おぉ?…おぉ!!探偵さんじゃねぇか!!ちょうどいい所に来たなぁ!それが困ったことになってんだよ…」
「行方不明者の事についてならば、今ちょうどそれについて聞きにきたんだが?」
「お!?探偵さんは随分とお耳が広ぇもんなんだな!そうなんだよ、チーム総出で路地裏から民家の机の引き出しまでひっくり返したんだがなぁ…誰一人として見つかりゃしねぇ…」
「それなんだが大将、どうやらこの街だけじゃなく他でも起きてるらしい。」
「マジか!?同時多発って奴?おいおいこいつぁ厄介な話になりそうだなマジで…」
しばらく二人はこの街での行方不明者について話し合ったが、こちらもオルムガート同様、関連性や共通点が見出せず操作は難航を極めていた。そうこうしていると、携帯から着信がなる。探偵は内容を見るなり横で部下に指揮を出しているギャングのボスに声をかけた。
「おい、また新しい街で行方不明者がいることが分かったらしい、俺は向かうがそっちはどうするよ?」
「勿論俺も行くぜ!!街の奴が消えちまってんだ、元凶を見つけてぶっ潰さなきゃ気が済まねぇってもんよ!!」
「それじゃぁ行くぞ。」
「合点承知だぜ!!」
こうして二人は新たな手がかりを求めて街を後にする。次なる目的地、ソートハウル街へと汽車に乗り込むのであった。
to be continued…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます