第一章 5話 レンタルビデオ店
ここは10番ダステル電気街のbarの中、カウンターに集まる男たちは今、困惑と疑問の混ざる奇妙な空気に包まれていた。
「…で、君が渦中の本当にMol gonnaのギター君なんだとしたら…こりゃあダルい事になったなぁ…」
そう言って頭を額を揉んでいた探偵の目の前にいる少年は幼さが残るものの愛嬌たっぷりの顔を歪めながらサイズの合わない服に身を包んでいた。
「本当だよ…ギターでもあれば証明できるけど…とにかく!!ホテルで寝ようかなって時に後ろからこう、ガバッとやられて、眠らされて!、起きたら真っ暗なコンテナの中だったのよ!それでやっと出れたと思ったら縮んでたんだ!!何がどうだかもうさっぱりさ!!」
「まぁまぁ!落ち着けって、水と軽食やるから食っててくれや、閉じ込められて腹減ってんべ?」
グラスとホットドックを受け取った少年は困惑しながらも何も食べていなかったのかムシャムシャと食べ始めた。その光景を見た二人はどうするべきか迷っていた。誘拐され無事に見つけられたのは良かった。それも怪我も無く御体満足でだ。しかしまさか子供になっているとは思ってもいなかった。
「しくった…呪具用途は誘拐の為だと考えてたけどまさかこうなってるとは…古物商のカスにもっと話吐かせりゃよかったな…」
「肝心のネックレスも持ってないらしいしな…どうすんだこれ?このまま終わり!って訳にはいかねぇしなぁ。」
珍しく頭を悩ませる2人、その時、青年が何かに気がついたのか食べ続けている少年へ駆け寄った。
「よく見たら君、怪我しているじゃないか!!首のとこ!!血が出てるよ!」
「本当かい?…あっ本当だ、気がつかなかったなぁ。どっかで引っ掻いたのかなぁ?」
青年の指差した首の後ろを見てみると、確かに小さく何かを刺した跡があり、殆ど既に凝固しているものの、血の跡が付いていた。
そんな少年と青年のやりとりを眺めていた探偵が突如眼を見開いた。
「血…呪具……っ!!!…大将!8番街へ急ぐぞ!迷宮入りには早いかも知れんぞ!」
「8番街??彼処には………成る程なぁ!合点承知だ!!バイクで行くぞ!!」
突然慌ただしく動き出した2人の行動にポカンとしている少年と青年。店を出る間際、探偵が少年の腕を掴み上げた。そのままバイクの後部座席のギリギリに括りつけられる。
「へ!?ちょっと!?なんですか!?」
「悪いが我慢してくれ、青年!お前は後で連絡するからそれまでここで待ってろ!死にたくなかったらbarで大人しくするんだぞ!」
「そんじゃあかっ飛ばすぜ!!!!!!」
「ちょっと??こっちは何が何だかあぁぁぁぁぁ!!!!!!………」
「うん…きっと何か手がかりが分かったんだろう…僕は大人しくしているのが正解だ。きっと…」
嵐のように走り去った三人を見届けた青年は理解を諦めたかのような悟った顔でbarへと戻っていた。
しばらくしてから8番街。三人は乱雑にバイクから不時着を決めると、死にそうな顔をした少年を背中に抱えて店へと転がり込んだ。そうすると痩せ型の男がのれん奥から出てくる。黒髪をゴムで束ねた茶色のエプロンをした彼は両手に抱えていた商品を棚へと、置くとレジの前へと座る。
「8番通りレンタルビデオ店へいらっしゃい、今日はどんな……ってどうした2人とも?新作はまだだぞ?それにその小脇のキッズは?」
「詳しい話は後でする、こいつが血呪術にかかって縮んだ可能性がある、多分呪具絡みだ。ギャクタン出来るか?」
「あーお仕事ね、そういうことねぇ…そんじゃあちょいと失礼しますよ…」
そういうと店員は少年の袖をめくって、赤のサインペンで少年の腕に何かを書き出した。
「うぇっ!?あっあの!!ちょっと?一体何をしてるんですか??」
「ん〜?…あぁちょっとした隠し芸よ。呪いの性質調査と逆探知。」
「こいつは西の生まれでな、魔術の家系なんだ。しかもちょうど血呪術のな。」
「呪術…?」
聞き馴染みのないワードに首を傾げる少年。探偵は小さく頷いて答える。
「そうだ…お前が縮んだ原因がネックレスにあるとしたらそれに込められた呪術の内容を調べればどうにかなるんじゃないかと思ってな。」
「俺にはよく分からんが、このビデオオタク君は呪術に関しちゃ右に出るもんはいないんだぜ!もやしだけど。」
「こないだの呪いを解いてあげたのは誰だったか思い出してから発言するべきだぞ筋肉ダルマ!」
「んだと!?」
「五月蝿い。今は集中してくれ、それとお前はそういう無駄な事を言ってカウンターを受けるな筋肉バカギャング。」
「うごご……」
店内に少しの間静寂が訪れる。販売用のデモムービーのループする音と店内のチープなBGMだけがこだまする。5分ほど経った頃、ビデオ店員がパンッと手をひと叩きしてメモを探偵とギャングに手渡す。
「…はい出来た!!解除方は媒介となってる血液の消失か、よりしろの破壊。要は使った道具に込められてるからぶっ壊せってこと。逆探知は……今ここにあるっぽいからメモに書いといた。」
「マジ助かった!サンキュな!」
「感謝します。報酬は今日の夜barで一杯な。」
「えぇ〜…明日も早いから勘弁して欲しいんだど……行くけどさ。」
そう言って手を振るビデオ店員の元を後にした三人は、バイクにまたがり(少年はまた背中に括られている)街を爆走した。
ライブ開催時刻まで残り5時間。街の日は沈みかけていた。
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