第一章 4話 ダステル電気街の総大将


 ネオンがギラつき所狭しと並べられ、どこからともなく聞こえてくるアニソンと爆発音、発砲音、悲鳴怒号。5秒に一度銃撃音が聞こえ、10秒に一度誰かが道端に倒れている。人々は腰に銃をぶら下げて歩いており、荷物や背中には推しの缶バッチや痛シャツのようなプリントが施されている。

そうここはオタク文化と暴力と科学の街、カオスと娯楽を煮詰めて蛍光塗料をぶっかけたような街、ダステル電気街だ。

そんな危険が満ち満ちと込められたイカれた街を探偵は庭を歩くかのように平然と、青年はこの世の終わりを迎えるかのように恐れながら彼らはダステル電気街の大通りの一つ、10番街を歩いていた。



「なんでそんなに平然と歩けるんですか!?この街おかしくないですか!?人が今あそこで吹き飛びましたよ!?見ました!?あっまた!!!」


「五月蝿い、慣れろ。」



まるでホラー映画かのようにパニックに囃し立てる青年を無視して探偵はbarを目指していた。そのbarはダステル電気街でも有数の大きさを誇っており、他のカオスな通りとは違い不思議と店の前は静かであった。

カランコロンと音のなるドアを開け入店すると店内に満ちた空気に青年は息を飲んだ。陽気な音楽が流れている店内には厳ついファッションに身を包んだ男たちが大勢おり、酒を飲む手を止め、こちらをじっと見てきていた。先程までドア越しに聞こえていた楽しげな会話は消え失せ、数多の視線とBGMのみが反響しているしている。青年は思わず探偵の後ろに隠れて必死に囁いた。



「なんすかここ!!ヤバくないですか!!殺されますって!!」


しかし探偵は顔色ひとつ変えず呟く。



探偵「大丈夫だよ…みんな久しぶりだな。」



するとしばしの静寂の後、突如として溢れ出すかのように厳つい男たちは歓声を上げた。



「久しぶりだなダンナ!元気してたかい!」

「こないだのCD聴いたかい!!最高だったぜありゃぁ!!」

「こないだは助かったぜダンナ!ありがとな!」

「ダンナ来るってこたぁ仕事かい?腕がなるぜ!」


探偵を取り囲むようにわいわい騒ぎ立てる男衆。探偵は穏やかな顔で強面の皆と会話を楽しんでいた。

青年は何が起きているか理解できないようで目を白黒させている。そんな時間が5分ほど経過した後のことだろう、探偵は男衆に質問した。



「大将はまだ来てないかい?」


「ボス?たしか…昼飯食うってんでちょいと前に出て行ったかと…」


「そろそろ戻ってくんじゃねーですかねぇ?」


「ボスはまだ戻っては来てねぇって……おっと!噂をすりゃボスのおでましみたいだぜ…」


そう言ってドアの方を見ると1人の男が乱雑にドアを足で蹴り開け放ち入ってきた。



「うぃーす、オタクくんたち飲んでるかぁー」


「「「「お疲れ様です!!!ボス!!」」」」


「うぃ、お疲れ様。」


そう言って入って来たジャケットを羽織った大柄なピアスの男、彼の紹介をしよう。

彼はダステル電気街一帯を統括しているギャング組織「banGass」のボス。リーダーながら日々街を巡回して荒事を解決するため街人からは信頼されている粗暴ながらも熱い男である。路地裏育ちから拳一つで成り上がり、現在の地位に至ったこの街最強の男との呼び声が高い。

男衆の汚い声援受け続ける彼は入って来るなり探偵の前に立つと、酒瓶の蓋を飛ばしながら問いかけた。

「んで……さっき電話で言ってた今日の仕事はなんだ?探偵さんよぉ?」


「探し物だ、この街のどっかの倉庫に優男が閉じ込められてる可能性が高い。早い話が誘拐だ。報酬は全員に一杯でどうだ酒カス供?」


「ハハッ!そりゃあ最高だな……野郎ども!!!探しもんだ!!!対象は倉庫の中の男!!!範囲は街全体だ!!!!建物ひっくり返してでも見つけろ!!!ハゲとモヒカンは事務所で見取り図持ってこい!!陰キャ猿と童貞半袖は事務所行って寝てる奴叩き起こしてこい!!!仕事の時間だ!!!!!!!!」


「「「「合点承知!!!!!!!!!!」」」」


「何時間で済みそうか?」


「馬鹿野郎、俺らを誰だと思ってやがる?15分もありゃあ余裕だっての」


「そんじゃあ一杯行きますか。」


「報酬前払いとは気前がいいねぇ!」


外へと駆け出す男衆を尻目に、探偵とギャングはbarのカウンターへと向かっていった。怒涛の出来事に置いてかれた青年は1人ドアの前に取り残されるのだった。


それから15分後のこと、barにハゲの男が慌てた様子で入って来る。



「ボス!!!!コンテナの中から人が見つかりました!怪我は無いらしいです!」


「でかした!!でそいつは何処だ?」


「それがなんすけど…」


そう言ってハゲ男の背後から出て来たのは、10歳にも満たない可愛げのある少年だった。


「なんか……気がついたらガキになっちまったらしいです。」


「……はぁ!?!?」

「は?」

「ええええええええ!?!?」



どうやらこの事件は、一筋縄では行かなさそうだ。



             

             to be continued…

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