第一章 2話 ボーカルとギター



メカストル大陸内を走り主要都市を結ぶ蒸気機関車、通称『大陸横断列車』。巨大な鉄の塊に揺られてオルガムート帝国へとたどり着いた探偵一行は劇場へと向かっていた。

帝国劇場、それはオルガムート帝国建国時から存在し続ける帝国の娯楽のシンボルでありこの劇場で立つ事が世の芸人、役者、歌手、バンドマンの目標となるのだ。

劇場内は沢山の様々な大きさの舞台に区切られており、引っ切り無しに休む事なく、ジャンルを問わず様々な公演が行われている。その中でも劇場内中央の一際大きな舞台である7番ホール、この舞台に立つものは成功を約束されると言われる程の大舞台である。彼らはそんな舞台に立とうとした矢先の事件であった。



「…なるほどね、特にメンバー間の不和もトラブルも無いわけね。」


「そうなんだよ!それなのに急にいなくなっちゃって!!ライブも今日だってのにぃ…一体俺たちはどうすりゃいいんだよぉ…」


ここは劇場バックヤードにある控え室、探偵の前で頭を抱えて呻いているツンツン髪の男が一人いた。

彼は件の事件の被害者であるギターが所属しているバンド「Mol gonna」のボーカル担当。『爆裂シャウトマン』の愛称で親しまれている彼は凄まじい声量の持ち主で、彼から繰り出されるシャウトは人々を魅了してやまない。

彼がソロで行った24時間ぶっ通しライブはあまりの声量に劇場のスピーカーが爆発四散したり、熱狂し過ぎて救急搬送される者も出たぐらいのいろんな意味で伝説となった。



「失踪する前に彼に何か違和感とか無かった?」


「って言われてもなぁ…リハが終わって、明日は夢の舞台だから頑張るぞぉっ!って昔いつも俺らがよく溜まってた劇場裏の公園で一杯交わしてから、みんなホテルに戻ってたしなぁ…特に喧嘩とか愚痴とかも無かったぜ?むしろアイツが1番楽しそうにしてたしなぁ…」


がっくりとした顔を浮かべるボーカル、ライブ上での勇ましさが見る影も形もない。



「まぁ正直言って俺は身内の犯行で見てたんだ、特に…ボーカルさん、あんたみたいな人がね。」


「!!!はぁっ!?!?じょっ…冗談じゃない!!何で俺が!!そんなおかしな事しねぇよ!!」


突然の探偵の指摘に立ち上がって狼狽えるボーカル。彼のそんな姿を気にも止めずに探偵は話を進めていく。


「情報を集めてるとチラホラで聞くんだよな……最近ギター担当の人気のせいであんたが影が薄くなりつつあるのが怖いってボヤいているのを。」


「っっ!!!!」


そう、人気バンドとして急上昇中のMol gonnaだが特に人気なのはギターとボーカルの2人だった。しかしここ最近ギター担当の人気の上がり方が尋常ではなかったのだが、そうするとバンド関係からひそひそと人気格差や影が薄まっているなどと囁かれていた。

勿論それが本人の耳に届かないはずがなく、本人も気にしていた。


「…気にしていないと言ったら嘘になる。確かに!!最近ファンからのプレゼントとか出待ちの多さとか目に見えてアイツのが多かったさ…少しだけ羨ましいと思うよ……っでも!!でもだ!!俺はその程度の事でこんな事は絶っっ対にしない!!!俺とアイツはストリートライブの頃からずっとやってんだ!!アイツの気持ちも何よりも分かってるつもりだ!…何よりも昨日公園で飲みあったあん時の、あいつの…っあいつの横顔見て…こいつとバンドやってて良かったって思ったんだ!!!!俺はあいつとあの舞台に立ちたいんだ!!!!!!俺がそんな事絶対にあいつにするもんかよ!!!!!」


バンッッと楽屋の机を叩き探偵の胸ぐらを掴みながら叫んだ。しかし探偵は顔色一つ変えずに述べる。



「だろうね。分かってて言った。」


「…………はい?」


「実はあんたのアリバイは証明されてる。あんた、夜に買い物しに酒屋に行ったでしょ?そこの監視カメラにあんたが映ってたし、さっき楽屋入った時に置いてあったレシートで本当に買ってたの確認した。長文の熱弁感謝します。」


「……はぁぁ!?!?それじゃなんか俺がただ熱い奴みたいじゃん………まじかぁぁ…はっず…」


そういって先ほどの勢いが嘘かのように恥ずかしそうに縮こまり席につくボーカル。心なしか顔が赤い。


「で、ほんとうに何もおかしい事はなかった?小さい事でも良いんだけど。」


「つってもなぁ………あっ!!そういえばあいつ、いつもとは違う見たことないネックレスつけてた!なんか貰ったって言ってたわ!」


「!…それどんなのだったか分かる?」


「なんていうか…木製の…こうツノみたいなのが付いてる悪魔みたいなデザインだった…」


「悪魔か…なるほどねぇ…協力感謝。また何かあったらここに連絡しといて。」


そういうと探偵はおもむろに机に名刺を投げ置き、後ろで何か言おうとしているボーカルを無視して楽屋を後にした。


「何か分かったんですか?…っと!これ頼まれた菓子パンです。」


楽屋前で待機していた青年がパシられた菓子パンを渡しながら尋ねる。


「はい感謝。…概ね目星はついた、運がいいかもしれんな、意外と早く解決出来るかも。次行くぞ。」


「え?どこ行くんですか?」


「ガラクタ屋。」


「え??ガラクタ……??それって…って!ちょっと!待ってくださいよ!!」



慌ててついていく青年。彼らは次の手掛かりを求めるのだった。


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