好きな人――陸玖side
「ねえこれどうやったら解けるんだよー……。どう考えたっておかしいじゃん」
「だから、分配法則使うでしょ? それでかっこ外して計算して……」
「もう無理い。二学期は方程式もやるんでしょ。一年でこれなんだから、中三になったら死んじゃうよ」
中学に入って最初の夏休み。数学の課題と悪戦苦闘していた俺は、隣に住んでいる中三の幼馴染の家で勉強を教えてもらっていた。
彼は王
生まれた時から日本で生活しているので、母語は日本語だ。いつか父とは台湾語や中国語の普通話で会話しているという話を聞いたから、中国語も話すことはできるのだろう。
「まだ二年があるじゃん。そんなに難しい問題が出てるわけでもないし」
「えー……。――そうだ、皓也ってさあ、好きな人とかいないの?」
問題に行き詰った俺は、シャーペンを置いて何気なく訊いた。
「……いない…………」
なぜか二つ上の幼馴染は視線を落として、ボソッと呟いた。かすかに耳のあたりが赤く染まっている。しかし、え、と思った時には、もういつもの優しそうな表情に戻っていた。
――何だったんだろ、今の。もしかして、ほんとは好きな人いるのかな。
「ね、それでここが求めれるでしょ」
皓也は無理やり笑顔を作っていたというのは単純で能天気バカな俺でもわかった。
「……そうだね」
――でも、なんで。いるならいると言えばいいのに。もし皓也が告白したら断る人なんていないだろう。親切ですごく優しくて、おまけに成績まで良い。顔立ちだって整っている。
「……できた!」
そんなことを考えながら適当に数式を並べていたら、思ったよりするすると解けて答えが出た。細い優しそうな一重の目をちらりと見て、俺は正誤の判断を求める。
「ん。合ってる。今日も、どうせ泊まってくんでしょ?」
「いいの?」
「いつも勝手に窓から入ってくるくせに」
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