第4話 私には見えない

 私には霊感というものがまったくない。

 そういったたぐいのものはまったく見えず、感じない。けれどもなぜか、得体の知れないものに巻き込まれることはよくあった。


 あれは私が高校生の頃。


 兄と一緒に墓場で虫採りをしていた時のことだった。(高校生が墓場で虫採り……というところには、どうかツッコまないでほしい。そういう人間です。)


 近所には、墓場がある。自治体やお寺が管理しているものではなく、昔からそこにあったもので、林の中に大小のお墓が二十くらい建っている。きれいに並んでいるわけでもなく、道沿いに大きく立派なのがあったり、林の中にだれのかわからないような小さなのが並んでいたり、あるいはもう引っ越しされたのか土台だけが残っているのがあったり。ちなみに、我が家の墓もある。


 そんな場所が身近にあるものだから、私たちにとってそこは昔からの遊び場だった。林にはスギやケヤキやツバキなどの木が茂り、夏にはセミがたくさんついている。

 なので、とりあえず捕まえる。抜け殻も拾う。理由なんてない。本能のまま、キャッチアンドリリース。そしてスズメバチに見つかって、猛ダッシュで逃げる。

 そんな人間です。


 さて、ある日。いつものように私と兄は虫採り網を持って、墓場に来ていた。墓場の中には、ケヤキやタケの茂ったわりと明るめの小道と、スギやツバキの茂ったわりと暗めな小道がある。


 今日の私の気分は、スギ林。そう思って、暗めな小道へと足を進めた。


 と、その時。


 ガシッ!


 兄に腕を掴まれた。


「今、なんかいた……」


 どうやら虫ではないらしい。マジか。


 兄いわく、小道の脇にあるスギの木のそばで、がちらと見えたらしい。


「えっ、お前見えんかった?」


 私は見ていない。なにも感じない。だからとりあえず、確認したくて前へ進みたかった。

 だが、ビビった兄に引き留められ、今日の虫採りは引き上げとなってしまった。


 結局、兄の見たものがなんだったのかはわからない。兄も霊感がある人ではないので、見間違えだったのかもしれない。しかし、墓場で、夏のお盆頃だったから、そういうたぐいのものだったのかもしれない。


 それにしても、同じ場所にいたはずなのに、どうして兄には見えて、私には見えなかったのか……。


 ほんとに、兄の見たものはなんだったんだろう……。

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