第2話 鳳凰の羽根を拾う

 あれは私が小学生の頃。

 友だちと一緒に、温水プール施設で遊んだ帰りだった。

 私たちは駐車場を通って、隣にあるお店に行こうとしていた。けれども駐車場のなかほどで、私は足を止めた。友だちを置いて、気になった場所へ行き、落ちている物を拾い上げた。


 見つけたのは、一枚の大きな鳥の羽根だった。


 三十センチはあっただろうか。全体に緑色をしていて、羽根の先には目玉模様があったのを記憶している。クジャクの飾り羽根のようだった。持った手を軽く振ると、フワフワと羽枝が揺れた。


「これはきっと、鳳凰の羽根だ!」


 幼かった私は、確信した。

 しかし、ハッと我に返った。友だちは私を置いて、お店に向かって歩いていたのだ。


 焦った。この羽根を持って行きたいが、大きくてカバンに入らない。でも手で持ってお店に行くのは、恥ずかしい。

 迷ったあげく、私は羽根をその場に置いて、友だちの後を追ったのだった。


 後日そこへ行ったが、もう、羽根は見当たらなかった。


 あの時のことを思い出すと、どうして羽根を持って帰らなかったのか、今でも後悔してしまう。鳳凰の羽根。きっと宝物になっていたはずなのに。


 ところで、なぜあんな場所に、羽根が落ちていたのだろうか?


 田舎の小さなプール施設で、周辺は、前に道路があり、隣にいくつかのお店があって、裏には田んぼが広がっていた。もちろん動物園など近くにない。駐車場は車二十台ほどが置ける、ごく普通のアスファルトの地面だった。


 だれかが車でクジャクを運んでいて、あそこで逃げ出したのだろうか。それとも、なにかクジャクの羽根を使った装飾品を運んでいて、うっかり抜け落ちてしまったのだろうか。


 ……いやいや! あれはクジャクじゃなくて、鳳凰だったはず。幼い私はそう直感した。盲信だ!


 実をいうと、遊びに行ったプール施設というのは、当時オープンしたばかりの新しい施設だった。おそらく、クジャクの羽根を使ったオープン記念品があったのかもしれない。いやいや、きっと、オープン記念に鳳凰が現れたに違いない。


 ほんとに、あの羽根はなんだったんだろう……。

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