第6話

   

「ジャックはどうなの? 冒険者じゃなくて、やっぱり騎士になりたいの?」

 キラキラした瞳をこちらに向けながら、レジーナが尋ねてくる。「私が話したのだから次はあなたの番」と言わんばかりの目だった。

「うん、それが普通だからね……」

「あら、そういう意味じゃないわ。ジャックには騎士が似合ってると思ったから、それで『やっぱり』と言ったのよ」

「えっ、僕が?」

 目を丸くして聞き返すと、彼女はにっこりと笑っていた。お世辞や社交辞令ではなく、本心を語っている。そう思わせる表情だった。

「だってジャックは、ここまでずっと、私をきちんと守ってくれているでしょう? それって、まさに騎士の役割ですもの」

 そう思うのであれば、僕をレジーナの家の騎士として雇ってほしいものだ。

 しかし、素直に頼み込むことは出来なかった。

 僕が今、彼女の身分に気づいていると口にしたら、気まずくなるに違いない。モンスターが出てくる森の中で、パートナーとの関係が悪くなるのは、自分の身の安全を脅かすことにも繋がる。

 だから「気づかないふり」を続けるしかなく……。


「ちょうど王宮騎士団で、そろそろ新規募集があるんじゃないかしら?」

 こちらの葛藤も知らずに、レジーナは無邪気な態度で話を続けていた。

 僕は再び、目を丸くしてしまう。

「王宮騎士団!?」

「ほら、他国へ留学していた王女が近々帰国する、という噂があるでしょう? その王女に仕える騎士として、王宮騎士団も増員されるはずよ」

 王様には一人娘がいる。その程度は広く知れ渡っているけれど、留学中とか近々帰国とか、そこまで詳しい話は、僕たち庶民の耳には届いていなかった。

 でも貴族同士の付き合いの中では、王家の噂も頻出するのだろう。やはりレジーナは、それなりの家柄の娘のようだ。

「そうだねえ。王宮騎士団に入れたら、それこそ夢のようだけど……。僕には無理な話だよ」

「あら、どうして? 夢なら実現させるために、努力するべきじゃないかしら?」

「うん、そうだけどね。でも僕には、コネも何もないからなあ」

 貴族のレジーナとは違うのだ。

 その言葉を飲み込みながら、僕は作り笑いを浮かべるのだった。

   

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