死んだのは、

藤野ゆくえ

死んだのは、

 ボクは、太陽——と、ニンゲンたちが呼んでいる電球——を少し暗くした。空——と、ニンゲンたちが呼んでいる垂れ幕——がゆっくりと赤い色へ変わっていく。

 それから「太陽」を吊りさげている透明な糸を少しずつおろしていく。「空」はだんだんと暗くなる。

 次に月——と呼ばれている、これまた電球、ただし「太陽」と違ってでこぼこしている——を吊っている糸を引っぱりあげる。あとは「星」だ。こっちは豆電球。それをいくつか「空」へと引っぱってくる。


 面倒ったらありゃしない。とはいえ、もう何万回、いや何億回、いやもっともっともっと繰りかえしてきたことだから、慣れてしまった。

 それでも時折、嫌気がさす。たとえば今日みたいな日は。


 それにしても、もうずっと昔にどこかのニンゲンが言ったらしい。ボクはもう死んでいる、と。もしもそうだったとしたら、ニンゲンたちはいったい、どうしたのだろう。

 いや……。ずっと「朝」だろうが、「昼」だろうが、「夜」だろうが、案外すぐに慣れてしまっていたのかもしれない。


 それなら……。もう、こんなこと、やめてしまおうか。

 いやいや、いっそのこと、このいくつもの電球を吊る糸をすべて切ってしまって、この垂れ幕をびりびりに破ってしまって……。

 きっと落ちる電球と垂れ幕に潰されて、ニンゲンたちはひとたまりもないだろう。


 ボクはその思いつきに、胸を弾ませた。よし……。

 まずは糸を切って。それから垂れ幕を破って。落ちていく、落ちていく、落ちていく。


 死んだのは、ボクじゃない。

 死んだのは、ニンゲンたちだ。

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死んだのは、 藤野ゆくえ @srwnks

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