EP:07 新人教育 後半

日当たりの良い部屋は暖房がついておらずともそれなりにポカポカと暖かく、

ヒアの説教と治療関連の補修をなんとかやり過ごした俺は若干の精神的な疲労を感じながらプリントの裏面に奇石術の解説のための図を書き写していた。

机を隣り合わせにしたガードも同じように図を書いているがテルミシアは図を書かずにミニキャラのようなものを書いている。


アシャート「エッジは奇石術についてはどのくらい知ってる?」

エッジ「いや、あまり知らないな…そう言うものが魔法や呪術と言われるようなものの総括する言葉なのは知っている」

アシャート「じゃあ、奇石術っていうのから教えるね」


人体の図はそれなりに精巧に描かれており、心臓は左胸によっており、胸の中央部には菱形が置かれていた。


アシャート「これが奇石。第二の心臓って呼ばれたりしているもので、生命体の維持に必要なエネルギーを作り出したり、蓄えたりすることができるの。

そして、その奇石が創り出すエネルギーを『バドズィナミア』って名前よ。それを身体の中に巡回させたり、強く放出したり、何かにそれを通したりすること、まあ、バドズィナミアを使う技術全てをまとめて奇石術と呼ぶわ。スペルとも言うわね。


だけどね、人体にある奇石が創り出すエネルギーはとても乱れていて、不安定なの。それを制御できるように安定化させるアイテム、それがユニットよ」


彼女が説明や単語をホワイトボードに書き込み終えると腰のホルダーから短い杖を取り出す。どうやら、あれがユニットのようだ。以前見たことがあるユニットはもっと近代的で銃火器のような見た目をしていたが、ユニットの種類も千差万別のようだ。

実際その通りでユニットの外見だけならば好きなようにできる。規格化された軍隊で用いられる造りやすく丈夫なユニット、個人のために作られて調節されたユニット、暗器のようにごく小さいユニットなど、自由自在と言えるほどにユニットの外見は変えられる。

ユニットはそれを制御する中枢パーツさえあれば


アシャート「今回はユニットの話は省くわね。奇石術には大きく分けて四つの種類があるの。


一つは放出術関連のもの。アーツと呼ばれるわ。これらは奇石のエネルギーを制御して、外部に向かって強く放出することで対象に攻撃を与える技術のこととかなの。攻撃によった技術で扱いやすい反面、ちゃんと制御しきらないと本人に甚大なダメージが来るから気をつけないといけないわ。

攻撃型の技術ね。上手い人はアーツを利用して物を成形したりもできるらしいわ…私には信じられないけど。


二つ目は巡回術関連のものでこれはストレングと呼ばれていて、エネルギーを身体の中にくるくると巡回させることで人体の強化とかができるわ。けど、あくまで物理的な強度の強化とか、剣の鋭さ?を強化することが主ね。応用が効く技術ってことでみんな特訓してるわ」


彼女がそういえば、テミスやガード、セミターが深々と頷く。ヒアは医者だから、特訓していないのかもしれないがテルミシアも後方支援なのだろうか。


エッジ「テルミシアも特訓してるのか?」

テルミシア「私?いやぁ、私は肉弾戦しないからね。特訓してないよ。けど、アーツの特訓はしてるよ!」

セミター「自衛くらいできるように特訓させたいんだがな…こいつはバドズィナミアを放出する才能はあるが、身体の中で巡回させるのはからっきしダメなんだ」

テルミシア「だって、私は銃使いだもーん」

銃火器はただ鉛玉を放つだけでは鎧はもちろん、戦闘用の防弾服すらも射抜けない。スペルを弾丸に纏わせるか、内包させるか、はたまた弾丸を奇石に変えてしまうかなどと言った方法で銃火器はスペル主体の戦場でも残り続けてきたらしい。


奇石術、スペルとは一種の学問のような捉え方をされたり、戦術のように捉えられたりとその汎用性の高さから単語や用語が多くなってしまっているようだ。それら全てをアシャートはしっかりと解説できる事に感心する。

解説を真面目に聞きながら、プリントに単語をまとめていく。奇石術を描いた横に括弧を加えて、そこにスペルと。スペルの下に枝分かれするように矢印をいくつか書き、その下にアーツ、ストレングと書いてそれぞれの特徴をまとめる。


アシャート「他にもバドズィナミアを変換させるテクニカル、バドズィナミアで再生能力を高めるヒールもある。奇石術は戦場では必要不可欠なものなの。だから、ちゃんと特訓しておくこと!!わかった?」


一通りの解説を終える事には与えられたプリントの空いているページはすべて埋まりきってしまった。ここまで意識して奇石術、スペルを鍛えたことはなかったがエリクサーとして戦場に赴くことを考えれば特訓することも必要だろう。だが、自身がどう言ったスペルを鍛えるべきか、わからなかった。


エッジ「特訓は確かに必要だけど…何を鍛えればいいんだ?」

アシャート「だから、得意な…あ、もしかして、あんまり戦い方が確立していないのかしら?」

テミス「お前の戦闘は一回しか見たことないがストレングかアーツのどちらかだろう。二つとも特訓してもいいが…」


うーんと書き記したプリントをじっと睨みながら考える。ここまで剣と身体強化ばかりで戦ってきたということと、そもそも戦闘経験があまりないのだ。

旅をしている最中は戦闘なんて稀で合ったし、自分の得手、不得手なのかはっきりとしていない。

聞いてみた限り、ストレングを中心にして鍛えるべきなのだろうか…


そう悩んでいるとガードの明るく、陽気そうな声が部屋に通った。


ガード「模擬戦やりゃいいんじゃね?テミスと」


エッジ「え?」


ヒア「ナイスアイデアですね」

アシャート「確かに!テミスならスペル全般使いこなせるものね!」

セミター「ふむ…恐らく、第三訓練場なら空いているだろう」

テルミシア「サイコー!みんな観にくるよ!絶対!」

テミス「…面倒なんだが?」


テミス以外の面々がものすごく乗り気で模擬戦の話を進めてくるのを俺はあっけに取られたまま、思考がストップしてしまった。

が、すぐに思い直す。テミスは恐らく俺よりも強い、それも圧倒的に。スカルリカプカーと対峙した時、俺はそれなりに本気になっていたのだが、テミスとリカプカーはお互いに本気を出していなかったはずだ。

勝てる気は…正直しない。出来ることなら互角くらいの相手と戦いたい。


エッジ「ほ、ほら、テミスも面倒だって言っているし、取り敢えず模擬戦は…」

エッジ「ふむ、いいぞ。やろうか」

エッジ「えぇ?!」


俺の弱々しい否定にバッサリと割り込んで張本人がやる事を決定されてしまった。いや、まだ俺がやると言っていない…!


エッジ「あ、あー、いきなり模擬戦は俺はちょっときつ…」

ガード「よしっ!善は急げだ!訓練場の様子見てくるぜ!」


立ち上がったガードは颯爽と部屋を飛び出していき、


ヒア「怪我した時の医療箱と医療室のベッドを予約しておきます」


同じく立ち上がったヒアはスタスタと部屋を出ていく。

そしてセミターとアシャートは模擬戦評価のためのプリントをテキパキと作り出した。

ダメだ…この流れ止められない…


テミス「さて、エッジ。ついてこい」

エッジ「…はい」


俺は肩をぐったりと落とした後、気分を切り替える。何も負けが決まったわけではない、多少不安なだけだ。ならば、この模擬戦に挑んで見よう。

僅かな高揚感すらも感じながら、俺はテミスについて行く。




現在地:??? side:スカルリカプカー


薄暗い部屋を照らすのは一つの豆電球のみ。窓の先に広がるのは痩せた大地に耕された畑とそこで働く農民。

広がる荒野の先には天にまで届くような巨大な山脈。

その山脈の奥にあるであろう広大な大地。人が住めぬこの荒野よりはマシであろう土地がその奥に広がると思うと、彼の心には悔しさと共に怒りが込み上げてくる。

グラスの中に入った赤黒いドロリとした果実酒を揺らし、そして飲む。舌に残る安っぽい甘さと強いアルコールの香り。数少ない娯楽の品を片手にたった一日の休暇を彼は楽しんでいた。


スカルリカプカー、炎壊の髑髏という異名を誇るヴァニング・ウェルのエース。

特徴的な骸骨を真似たガスマスクや戦闘服を今は身につけておらず、死体のように痩せ干せた体つきと色素の抜けた髪、そして奇石と見間違えるほどに輝きを持っておりながら、光を一才映さない瞳が彼の素顔だった。


彼がいる談話室の扉がゆっくりと開き黒いロールを身に纏った男が部屋に入ってくる。


ネクロマンサー「よお、スカルリカプカー。休日は楽しめてるから?」


フードに隠れ顔は見えない彼はスカルレンジャー中隊所属の小隊、ブラックローズ小隊の隊長ネクロマンサー。

どうやら、彼の隊に言い渡されていた物資確保の任務を終えたようだ。

ゆっくりと果実酒を飲み干し、彼の問いかけに答える。


スカルリカプカー「それなりにはな。だが、お前が帰ってきたのなら、休暇は終わりだな。やって欲しいことがある」


その意図を告げれば、彼はため息を吐きながら持っていたマグカップの中に入っている白湯を飲みながら、彼は机に腰掛ける。


ネクロ「何をして欲しいんだ?いいぜ、やってやろう」


立案した計画を実行に移すのに必要な人材が確保できたことに彼は行われるであろう新たな火種に期待して、僅かに口角を上げ、その瞳がバドズィナミアによって輝き出した。

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