『才能の重さ』
やましん(テンパー)
『才能の重さ』
『これは、フィクションです。』
某CEO
『みなさん。社員の採用には、ご苦労が多いことと推察いたします。そこで、このたび、わが社が開発したのが、こちら、『才能計測機システム』であります。文字通り、個人の才能を、分野、部門、また、様々なステージごとに計測し、表示、記録、活用いたします。コンピューターが、常に、管理し、確実な人事の運用により、御社の発展を支えます。』
某社長
『適性検査は、いままでも、いろいろ、やったずら。あんまし、ぱっと、しないべ。』
某CEO
『これは、本人にやってもらうことは、ほとんどありません。検査を了承したら、検査装置の椅子に座ってもらうだけです。あとは、コンピューターが、脳や身体機能を、直に測定いたします。正確無比。隠れた才能も見逃しません。確実に、必要な人材を選びます。採用担当による、誤った判断は、起こりませんし、不平等な選考もありません。まさに、公正、公平であります。』
某副社長
『基準の設定は、任意にできるの? また、行政からは、突っ込まれないですかな。個人情報の扱いは?』
某CEO
『もちろん、できます。また、個人情報の保護には、最高のセキュリティを掛けます。また、そうした不測の事態にならないよう、総理及び担当閣僚、次官クラスには、綿密な相談をしております。ただし、あくまでも、公正な採用選考、総合判断の一助でありますぞ。また、高卒では、当面は、使用しないでください。まだ、才能が固まらないため、誤差が大きくなりますゆえ。大卒、中途採用には、極めて、有効です。』
etc.
なんだかんだと、確かに、トラブルもあったのだが、共用開始から15年。
このシステムによる採用者が増加し、さらに、多くが、急速に出世した。
利用した企業の収益は、うなぎ、いや、おろち登りになった。
そうして、そのかなり多数の企業が、このシステムによる採用者によって、合法的に、事実上、乗っ取られていったのである。
てなわけで、やがて、このシステムが、採用だけではなく、あらゆる人事の中心となっていった。
しかし、社会的には、採用されなかった人や、中途採用者、落伍してしまった人、転落した経営者などの援助が、必要となったのだ。
さらに、心配された個人情報の扱いが問題化した。個人の根幹に関わる情報が、企業内に蓄積されていたのである。
そうなった責任を巡り、国会は、激しく紛糾した。
ところが、やがて、このシステムにより見出だされた、若い天才的政治家が台頭し、古い時代の人たちは、いつしか、時間の中に、消えていったのだ。
まさしく、このシステムの、このシステムによる、このシステムの生んだ、このシステムのための、世の中になった。
それは、さらに進化して、市民は細分化され、階層化し、一種の恐怖社会になったのである。
😱
ある夕方、もう、90歳になろうという、朽ち果て、ぼろぼろの住まいに、やっとこさ生きている、5級市民やましんを、一人の老人が訪ねてきた。老人は、やましんより年下だが、栄誉ある、地方では最高レベルの上層部である2級市民だったし、かつてはやましんの上司でもあった。
『やましんさん、あんたあ、死んだはずだぜ。生きていたなんて、システムさまさえ、知らぬがほとけの、お釈迦様だあ。』
あ、よ〰️〰️〰️〰️、べべん、
『あっちは、かつて、我が世の春よと、あんたを、うやむやに、職場から追放したが、やがて、あんたあ、システムさまにも追い落とされた。しかし、あっちも、今は落ちぶれて、2級市民は名ばかりの、放浪の身だあ。いいざまだろ。』
よっ、べんべん
『ああ、それにつけても、なんとしたことか、このように、歳もとり、この虚しい世の中に、もはや、居場所さえも無くなりましたが、ふと、通りがかりにみやれば、あんたの姿だ。5級市民に落ちたあんたが、まだ、ぼろぼろとはいえ、家持ちで、まさか、まだ、ここに生きていようとは。あり得ない。許されない。あっちの才能の重さは、あんたの比較にもならないものだ。それとも、これは、昔の怨みに現れた、魑魅魍魎なのか。』
よっ、べべべん、べん
『魑魅魍魎かと? はははははは。なるほど、あれ以来、世の中からは追われ、地位も未来も、なにもかも失ったが、失ったことが幸いしたのか、ここだけは、なぜか残った。失うことは、あんたみたいな名門出には、耐えがたいことかもしれないが、人には、地位だけでは得られないこともあるものさ。たまたま、というものだ。なりゆきだ。意味はない。』
やや。べん。べん。おっ、
『なんと、地位も未来も、収入も、あっちに、かなわぬものなど、あるわけもなし。そりゃ、あんたの負け惜しみだな。いや、さては、すでに、とうに、乱心したのか。ふふん、哀れなものよ。早く、消え去れ。目障りだ。』
ひゅ〰️〰️〰️〰️!
『あ、いまや、一陣の風吹きわたり、あったとおぼしき、古い館は、跡形もなく、吹き消され、消え去りし。』
『消え去りし。』
『消え去りし、あとに残るは、』
『あとに残るは、』
『にこやかに、わらう、されこうべのみ。されこうべのみよ。とかく、この世は、無慈悲なもの。すべては、一時の幻に過ぎず。見るまに消え去る定めなり。その笑いに見送られ、一時は、城の主ともなったが、システムさまに見放されたその人は、いまや深き霧に包まれて、やがて消えて去りて行く。消え去りて行く。消え去りて行く。やるまいぞ、やるまいぞ、やるまいぞ、やるまいぞ、……………』
いやあ〰️〰️〰️〰️、べべべべべ、
べんべんべんべんべん。
あやあ〰️〰️
べべん。
『芸能今昔アラカルト。今日は、新型ドラマ狂言、【されこうべ】、でした。また、次回をお楽しみに。』
😌🌃💤
『ニュースです。いわゆる、コバルト型水爆により、居住不能となった西日本地域について、政府は、志願者による、チャレンジ生活プログラムを、来春から開始すると、発表しました。政府は………』
ヘルパーさん
『やましんさん、ほら、そんなカッコで、ラジオ聞いて寝ていたら、風邪引きますよ。やましん、さん、ほら、………… あら。死んでるわ。にこにこしてる。』
end
『才能の重さ』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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