チート能力で世界を救ってから2年後…。

ちびまるフォイ

必要不可欠なもの

「あなたは手違いで死んでしまったんです」


「そうなんですか! じゃあチートください!」


「いやあの……」

「チートですよね!」


「世界を救うため……」


「この展開もゼミでやったところだ! だから知ってます!」


「もういいです……はい」


女神はぐいぐいくる転生希望者にチートを与え、

こいつは社会に出しちゃいけないと異世界に放逐した。


「女神様、やほーー」


「ああ神様。ここに来るなんて珍しいですね」


「さっきのは転生者?」


「ええ、最近マンガや小説の影響で希望者が多くって」


「チートも毎回与えてるの?」


「じゃないとしつこいんですよ」


「大変だねぇ」


「それじゃ私、これから異世界の視察してきます」


「はーーい。おつかれさまーー」


神に見送られて女神は異世界へとおもむいた。

この異世界はとくに敵が強力なので、いくつものチート持ち転生者を送り込んでいる。


「さて、そろそろ平和になってるころかな」


女神だと気づかれれば大混乱はまぬがれないので、

一般の人に擬態して異世界の村へとやってきた。


「こんにちは。ちょっと聞きたいことが……」


「誰だ!! 手を地面について後ろを向け!!!」


「え、え?」


「早くしろ!! 少しでも動いたら俺のチート魔法で焼き尽くしてやる!!!」


「なっ、なんなんですかぁ!?」


女神は言われたとおりにひざまずく。

ただ、ちょっと挨拶しただけなのに。


「お前は俺を殺しにきたのか!? 俺のチートを脅威に感じて殺しに来たんだろう!!」


「ちがいます! 私はただ大魔王ダイゾルデが倒されたのか聞きにきただけです」


「ダイゾルデなんてとっくに倒されたよ!」


「じゃあなんでそんなに怯えてるんですか。平和になったはずでしょう」


「バカ言え! この世界、この村にもチート能力者が何人もいるんだ。

 自分だけ俺TUEEEEしたくて、俺を殺したいと思ってるにちがいない!

 こんなのが平和なわけないだろう!」


「そんなこと思ってるのあなただけですよ」


「チートを持っている俺がこんなに怯えてるんだぞ!

 他のチート能力者も同じことを思ってるに決まってる!」


「それは考え過ぎで……」


女神が話を続けようとしたとき。

ぴゅうと風が吹いて、木から1枚の木の葉が落ちた。


木の葉はちょうど怯える男の鼻先を過ぎていった。


「うああああ!?」


男は驚いて女神に向けていた手のひらを鼻先の木の葉に向けた。

そして強力な魔法を木の葉に向けて放った。


手のひらから放たれた魔法は、その直線上にある家屋や生物すべてをケシズミにしてしまった。


魔法を放ってからそれが木の葉だと気づいた男だったが、

えぐられた地面や、ガレキになった我が家を見た人たちはブチ切れた。


「てめぇ! なにしやがる!」


「ちがう! 誤解だ!」


「なにがちがうんだ! こんなに強力な魔法をこっち向けて撃ちやがって!

 本当はチートを持ってるオレを殺そうとしたんだろう!」


「木の葉が落ちてきたんだよ!」


「そんなバレバレすぎる嘘にごまかされるか!! ぶっ殺してやる!」


「誤解で殺されてたまるか! そっちこそぶっ殺してやるーー!」


張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったように魔法合戦が始まる。

他のチート能力者たちも次は自分ではないかと怯えて、臨戦態勢を続けている。


もし火の粉のひとつでも飛んでくればあっという間に参戦してことが大きくなるだろう。


「みなさん落ち着いてください! 私は女神です!」


女神は変身を解いて暴徒と化した人々の前に現れた。


「話は聞きました! もう魔王ダイゾルデはいません!

 みなさんのチート能力は不要ですから、私が回収いたします。

 もうお互いのチート能力に怯えることもなくなりますよ!」


すると、人々は女神に向かって攻撃をしてきた。


「ちょっ、なんで!? なんで攻撃するんですかぁ!?」


「チートを奪うなんてさせないぞ!」

「これがなかったらどうやって自分の身を守るんだ!」


「だからもう魔物はいないって言ってるじゃないですか!」


「次にいつチート転生者がくるかわからないのに、

 こっちまでチート失ったら命を奪われるだけだ!!!」


「ひえええ! わかりました! チートは奪わないからもう撃たないでください~~!」


女神はチート転生者たちの猛攻に耐えきれず天界へと引っ込んだ。

転生待合室でしくしく泣いていると神様がやってきた。


「あれ、どうしたの? 下界でなんかあった?」


「実は転生者たちが……」


「そうか。それは大変だったねぇ」


「神様、私はどうすればいいんでしょう。

 チートを奪おうとすれば徹底的に反撃されます。

 でもこのままじゃみんな疑心暗鬼になって殺し合うだけです」


「うーーん。それじゃこうしたらどうかな」


神様は女神にアドバイスを送った。





「ここは……?」


「目が覚めましたか。ここは女神の部屋です」


「私は死んだはずでは」


「ええ確かに死にましたが生き返らせたのです。

 あなたには使命があります。なのでこのチートを与えましょう」


女神は慣れた進行でまた異世界に転生者を送り込んだ。

仕事を終えたタイミングで神様が遊びに来た。


「どう? ちゃんと転生させられた?」


「はい。でもこれで本当に良かったんですかね」


「道具は使い道がわかったほうがいいっしょ」


神は笑って答えた。




その後、異世界では死んだはずの大魔王ダイゾルデが強力なチートを有して復活。

それを知ったチート能力者たちは大魔王を倒すために立ち上がる。


「争ってる場合じゃない! みんなで協力して大魔王を倒そう!!」


村では疑心暗鬼になっている人はもう誰もいなくなった。

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