お泊り
「……アンタのせいで、色々大騒ぎなんですけど?」
ゲーム内で色々とやらかした、その日の夕方。
私は手土産のクッキーをぶら下げて、奏の家にお邪魔していた。
お母さんとお手伝いさんに挨拶をし、親友の部屋へ。
出迎えてくれた彼女の第一声が、これだ。
「あーいやー……えへ」
「えへ ちゃうわ! 全くもう、何をどうやったらあんなことになるんよ」
「……ノリと、勢い」
「ノリでこんなにガンガン行かれたら叶わんわほんま」
勢いよくベッドに背中から飛び込んだ奏が、大の字になる。
私も、なんとなくその隣に座った。
「なー深雪」
「ん、なに?」
「サービス開始してから、今まで何日経った?」
「え? うーん………………今日で、4日目?」
「そう、たったの4日や。未だ殆どのプレイヤーは一体もエリアボスなんか倒してへん。レベルも1桁や」
「そうなんだ?」
「そーいうもんや。まあ、私みたいにゲーム慣れしていて、かつ時間もそこそこ取れた輩はそうでもないけどな」
つまりや、と奏は続ける。
「いきなりアナウンスでワールドクエストがどーこー言われても、別世界の出来事としか思えん人が大半。とーぜん大パニックっちゅーわけ」
「ほえー」
「ま、ユキのリスナー……視聴者の人たちがあちこちに情報飛ばしてくれたから、大体落ち着いたけどな。
今は、如何にしてS4の街まで辿り着かせるかって話題になっとる。攻略も、より活発化するやろな」
「あー。いつもコメント投げてくれる人たち、そんな事までやってくれてたんだ。
わたしも手伝ったほうが良いのかな」
「いや。そういう情報を集めたり発信したりしてる人は、やりたくてやってるだけやから任せといてええのよ。
変に深雪がなにかするよりも早く情報は上がるし。
それになによりその人らにとっても、ユキが気にせずガンガン暴れてくれた方が新鮮な情報がより入ってありがたいってわけ」
「ほー……なるほどねぇ。
要するに、私は今まで通りって感じで?」
「結局そーいうことになるね。
ま。クエストの本番までまだ大分あるやろ? どこまで強くなれるかはさておき、行きたいモンはみんなドゥーバにはいけると思うで」
「ああ、そうだね。詳細メールには二週間後って書いてたっけ」
そう。突然のワールドクエスト開始というアナウンスだったけども、しばらくは準備期間みたいな扱いらしい。
あちこちにゴブリンの出没が盛んになって、それを退治した量に合わせて二週間後の大侵攻がちょっと楽になるとかなんとか。
主力はドゥーバに押し寄せてくるけど、アジーンの方にも幾らか攻めてくるから油断なきように……とメールは締めくくられていた。
「せやろ?だからまぁ、なんとかなると思う。
ま、最悪2人で全部片付けちゃえばOKよ」
「あはは。いいね。それくらいの気持ちで頑張っとこうか。
順調に、カナのサポートをできそうなスキルも増えているよ」
「え? 歩く災害凄女サマにサポートスキルとか、なんの冗談や?」
「あーー!! カナまでそんな呼ばわりする!! 魔王様のくせに!」
「はー。言ってはいけないことを言ったねぇ。この口か?」
不意に起き上がり、飛びかかって来た奏に、勢いよく押し倒される。
のしかかった上で両の頬をつまんできた手を、振り払った。
「ちょ、急に乗らないで、重いっ」
「かっちーーん。アンタ今、乙女に言ったら絶対許されないワード第一位を!」
「いや、だって、事実……っ! や、やめっ、あはははっ」
ツンツンと脇腹をつつかれ、思わず身をよじった。
くっ、奏、ズルすぎる。
運動能力で勝ち目が無いのと、私がくすぐりに弱いのを分かった上で……!
なんとか反撃に手を伸ばそうとするも、そのつど新しい攻撃が加えられ、手を引っ込めてしまう。
結局、晩御飯に呼ばれるまで、奏にはずっと弄ばれ続けることになった。
◇◇◇◇◇◇◇◇
晩御飯を食べた後は、奏のお母さんも交えた雑談。
こないだの期末は少し成績が良くなって安心したとか、感謝しているとか、そんな感じの話と、あとはお母さんのお仕事のこと。
若くしてデザイナーとして起業し、大成功を収めている彼女の話は、色々とためになるし面白い。
最後に、最近、私までもがゲームにハマっちゃっているという話をすると、珍しいこともあるものだと笑われた。
まだ内密ではあるけど、彼女の運営する会社とインクリがコラボする計画が持ち上がっているという話を聞いた時には、奏と揃って目を真ん丸にした。
まぁ、それについてはまた今度触れることにしよう。
お風呂に入った後は、さっきもはしゃいだベッドに二人並んで仰向けに寝転がる。
このベッド、どういう意図か知らないけど無駄に大きい。三人が横になってもまだ余裕あるくらい。
「なーユキ」
「ん、なに?」
「今のレベルは?」
「んーと。クエスト報酬で一気に上がって……28だったかな」
「はー、ぶっ飛んどるなぁ。そろそろ五千超えたところか?」
「あ、どうだろ。実はまだ割り振ってないんだよね。
でも、多分超えたと思うよ」
「ほー……。 じゃあ」
そろそろか? と奏がこちらを向いた。
暗がりの中、真っ直ぐな瞳が私に向けられている。
「…………そうだね。明日」
「……そっか」
どちらとも無く目を閉じる。
居心地の良い空間。私はあっという間に眠りに落ちた。
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