おばあちゃん 再び
「はいはーいこんにちは。ユキですよーっと」
午前の部を終えてログアウトした私は、手早く昼食を済ませ。
家事など含む1時間の休息を挟み、またログイン。配信を開始した。
ふよふよと飛び始めるカメラに手を振りながら、冒頭の挨拶。
みんながこぞって打ってくれたコメントを眺めると、恵まれているなぁって実感する。
「みんなありがとう。こんにちは~。 今日は東か西の方に行ってみようと思うんだけどどうかな?」
『ええやん』
『おー』
『いいね』
『ポーションは?』
「…………あ」
『草』
『忘れてたな』
『ポンコツ炸裂』
『このドポンコツ』
「わ、忘れてたわけじゃないよ! 探索の前に補充するつもりではあったもん」
『絶対ウソだw』
『嘘が下手すぎるw』
『カメラを見ろww』
うぐぐ。あいも変わらず皆が厳しい。
いやまぁ、たしかに忘れていたから何も言い返せないんだけどさ!
「あ、でも、補充するなら一回最初の町……アジーンだっけ。そこに戻りたい気もするよ」
『なして?』
『ああ』
『その辺じゃ駄目なん?』
『あのおばちゃんか』
「そうそう。せっかく良さげな出会いがあったから、どうせならそこで調達したいなーって」
南通りの、何気なく入った店で出会ったおばあちゃん。
なんとなくだけど、毎回あそこでポーション類は調達したいという気持ちがある。
実際、性能も段違いだしね!
「そうと決まれば、さっそく街までマラソンかなー」
そういえば、貰った身分証、もらった時から確認してなかったね。
アイテムとしての説明も見ておこうか。
「えーと。身分しょ…………あれ?」
『ん』
『どした?』
「いや、いつの間にかインフォ来てたみたいで」
履歴をみてみると、今日のお昼前といったところ。
ああ、この街についたタイミングかな?
「えっと、色々と気を取られて気付いていなかったんだけど、この街に来るとなんかチュートリアルが有るらしい」
『ほう?』
『ほほう』
『ほーー』
「なんかナビゲーションがあるみたいだから、ちょっとそれに従ってみるね」
んーと。中央広場に行けって書いてある。
今いるところが北通りだから……もう暫く、町の中心の方に向かっていけば良いのかな。
少し歩くと、かなり遠くのところに巨大な建造物が見えてきた。
昔ながらのRPG作品やアニメでもみられるような、西洋風のお城。
聖都って言ってたっけ。 じゃあ、あそこに国のトップがいるんだろうか。
ちょっと気になる気もするけど、とりあえず保留。
目的の中央広場とやらについたわけだけど……ふむ。噴水にいけと。
街中央の大きな広場。そこの中心には噴水が建っていた。
奇しくも、最初の街アジーンと同じような立地。
噴水に近づいてみると、ポーン、とインフォが鳴り響く。
『聖都ドゥーバの噴水に到達しました』
『ワープ地点[聖都ドゥーバ]が開放されました』
『[エリア転移]が開放されました』
……エリア転移?
ウィンドウを開いてみると、ログアウトの一つ上に[エリア転移]という項目が出来上がっていた。
説明を見る感じだと、転移可能地点にいるとき限定で使えるコマンドみたい。
「えーーと……みんな、わたしにちゅうもーーく」
『お?』
『どした』
『??』
ちょっとした、いたずら心。
ポチポチとウィンドウを操作する。 えーと。転移先……【始まりの街アジーン】っと。
ブゥウンという音とともに、視界がぶれる。
気づけば、目の前にある噴水はもう何度も見たものに変わっていた。
『は?』
『え?』
『アジーンじゃん』
『え』
『見慣れた飾りがあるね』
『ほんとだ』
「えっと、なんかね。始まりの街と、さっきの街の噴水とでワープできるようになったみたい」
『はえー』
『くっそ便利じゃん』
『相変わらずぽんぽんと革命的な情報をw』
『まあマップ間だいぶ広いもんね』
『助かるなぁ』
「マラソンしないといけないかなーって思ってたからすごく助かる」
『せやねw』
『おばあちゃん通いが楽になるw』
『移動楽になるのは助かる』
『なお街につくまでが遠い模様』
『それな((』
「あはは。まあS2とS3のエリアボスさえ倒せば……あれ? 私のS3のエリアボスの扱いってどうなってるの? 」
S3のエリアボスに挑もうとした瞬間の、特殊クエストの発生。
流されるままに受領して、聖女になって、S4にいって……うん。エリアボス倒していない気がする。
ボス倒すまでは先にいけないシステムになっていたはずだけど、どういうことなんだろう。
ポーション屋さんまでの道すがら、視聴者さんたちとちょっと考察した結論。
それは、『結局よくわからないけど、なにか問題有ればアナウンスあるだろう』というものだった。
今のところはとくに大事には至っていないのだから、まあ良いんじゃないかってね。
運営さんの意図は私達にはわからないわけだし。
さて。そんなこんなで着いたわけです。
「ごめんくださ~い」
元気よくお店に乗り込む。
店員はもちろん、前回と同じおばあちゃん。
……の、はずなんだけど。
「いらっしゃい、お嬢さん。また来てくれたんだね」
「はい! 前回はとても良いものをありがとうございます」
貫禄ある人だなとは思った記憶があるけど。ここまで圧というか、オーラを感じる方だったっけ?
人の良さそうな笑顔の奥に、なにか強烈なものが視える気がする。
「しっかり全部使ってくれたみたいね。コチラとしても売ったかいがあるってものよ」
「えへへ。大活躍でした! あれがなければ勝てない戦いもありました」
クールタイム1分の、35%回復。
どちらが少し足りなくとも、ジャイアントスケルトンは倒せなかっただろう。
「そうかいそうかい。どうやら、早くも死線を超えて一皮剥けたみたいじゃないか」
ふっと目を細めたおばあちゃんから、そんな言葉が飛んでくる。
え。そんなのわかるもの!?
「あたしくらい無駄に長く生きていると、わかるものなんだよ。色々とね」
しみじみとした口調で語るおばあちゃん。
台詞とは裏腹に、ただご高齢というだけにはとても思えない何かがそこにはあった。
「お嬢さんを観ていると、若い頃を思い出すよ」
「若い頃、ですか」
「ああ。あたしにもあったのさ。お嬢さんみたいに、キラキラした目をしてね。
口うるさく感じるかもしれないけれど、今の気持ちは絶対に忘れないでおくれよ」
「……はい!」
キラキラした目、かぁ。くすぐったいものがあるね。
大丈夫だよ。わたし、今がとっても楽しいから。
「歳をとるとすぐに余計な話をしてしまうからいけないねぇ。ポーションだろう? ちょいと待ちな」
柔らかな微笑みを浮かべたお婆ちゃん。思い出したかのように、戸棚に向かう。
そして、カウンターの上に2つの薬を置いた。
一つは、前と同じ初級ポーション。
もう一つは、これまた凄い。
◆◆◆◆◆◆◆◆
名前;中級HPポーション
品質;A
説明;超高品質の中級HPポーション。HPを50%回復する。クールタイムは90秒。
製造;ミランダ
◆◆◆◆◆◆◆◆
「今のお嬢さんなら、これも良いんじゃないかと思ってね」
「ご、ごじゅっぱーせんと」
効果がすごい。一回で半分も回復できちゃうなんて。
今の私なら、2000以上も回復するよ!
「10本ずつ出せるけど、どうだい?」
「お金が足りるだけ買いたいです。あんまり持ち合わせがなくて……」
「素材の引き取りもやってあげるよ。スライムの素材とか、いい薬の素材になるからね」
「あ、スライムなら丁度たくさんありますよ!」
エリアボスであるキングスライム。そいつの高速周回もした。スライムの素材は潤沢にある。
そこからは、ちょっとした商談。と言っても、どっちかというと色々と便宜を図ってもらったって感じだけど。
10本ずつのポーションと、あとオマケに解毒薬を5つ。計25本の薬を購入。
こちらからは、キングスライムの素材を全部提供した。
「ポーションを全部使い切ったら、またおいで。
また一皮剥けた姿をみせにきておくれ」
「はい! がんばります!」
ありがとうございました。とお礼を言って、お店を出る。
いい買い物をさせてもらっちゃった。期待してくれているみたいだし、頑張っていかないと。
ポーション20本使い切ったら、またおいでってことだったよね。
そのときには、また一回り二回りも大きくなった姿を見せるぞー!
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