聖女の恩恵



「……コホン。ということで、聖女とやらで軽く戦ってみようと思うよ」


 咳払いを一つ。とりあえずセーフティエリアの外に出た。

 慣らしの面もあるし、新エリアに行く時間はなさそうなのでs3方面だけどね。


『お、おう』

『切り替えたww』

『凄女は切り替えが早い』


「ちょっとまったあんたらそれ定着させるつもりじゃないだろうな!?」


 凄惨な女ってことでしょ。いくらなんでもそれはないんじゃないか。

 こちとらごくごくふっつーーの女の子だぞ!


『え』

『完璧だと思うんだけど』

『殴られて』

『刺されて』

『ふっ飛ばされて』

『ダメージチャージしてカウンター』

『凄惨だなw』

『↑やばいw』

『……ドM聖女? 』

『それだ』

『わろた』

『生贄の少女』

『草』


 ほんっと好き放題言ってくれちゃって。怒るよ? わたし。

 だけど、100%否定しきれない自分がいる。よけいに辛い。


 もやもやとしたものを抱えながら歩いていると、案の定、スケルトンたちがわらわらと湧いてきていた。

 

「ああもう。早く天に還んなさい。 【浄化】【浄化】【浄化】」


『笑うんだが』

『雑いw』

『こなれたもんだなぁ』

『HPがゴリッゴリ減ってくw』


 数体のスケルトンを片っ端から浄化していく。ポーンポーンとインフォがなった。

 なんだろう。レベルアップには早いとおもうけど。


『只今の戦闘経験により【浄化】が強化されました』

『只今の戦闘経験により【聖女の歩み】を修得しました』


 ほほう? 強化。これは初めてのものかな。

 もう一つは技能。 早速観てみよう。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 技能:浄化☆

 効果:任意の量のHPもしくはMPを利用して発動。威力がHPを上回っていた場合、対象を浄化する。不死属性を持っている相手にのみ効果があるが、一部の存在には効果が無い。聖属性。☆威力は消費分の二倍。

 条件:聖女見習いとして初めて【浄化】を成功させる

 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 星が付いた! 効果としてはシンプルに威力が二倍……え? 強くない?

 とりあえず、これも可視化しておこう。


『ファ!?』

『超強化じゃんw』

『寧ろ今までが弱すぎたまである』

『あーたしかに』

『見習い?』

『聖女じゃないんや』


「あれ?ほんとだ。見習いってなんだろう。今の私が見習いってこと?」


 考えられるとしたらそれくらいだろうけども。

 あれ。でも、神に一人前として認められる云々って書いてなかったっけ。


『あれじゃない? クエストのほう』

『終 ってなってたもんね』

『あー』

『序とか中みたいなのをすっ飛ばしたせいでバグってる的な』

『バグとまでは言わないけど、本来は見習い段階があった』

『ありそう』


「あーにゃるほどね。 たしかにそういうのはあるかも~」


 唐突に生えてきたし、そのままボス戦になっちゃったから忘れていたけど、そういえばクエスト名からして違和感あったんだっけ。

 元々は段階を踏むはずだったものをすっ飛ばしちゃった分、今それが来ている……みたいなことはありそう。


「ん!? じゃあ、本来は浄化の威力二倍でやれたかもしれないってこと!? やけにむちゃな設定だと思ったんだよ~~!!」


『わろた』

『あくまで可能性だから』

『事実っぽいんだよなぁ』

『本来の想定威力ぶっちぎってる説ある癖になにを』

『ほんそれw』

『威力半分にしたうえでなお想定の二倍くらいの火力だしてそうだよなw』


 うぐ。そう言われてしまうと何もいえぬ。

 たしかに、圧倒的ライフで殴った自信はあるもんね……


「つ、次のやつ共有するよ!!」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆

 技能:聖女の歩み

 効果:移動阻害効果を無効。精神攻撃に対して強耐性。 

 条件:職業【聖女】として戦闘に一回勝利する。 神の意思を継ぐ聖女の歩みを止めることは許されない

 ◆◆◆◆◆◆◆◆


 うわ。またなんか、御大層なものが生えてきている。

 これが特殊職業の恩恵ってやつなのかな。 移動阻害効果って、もしかして?


『逸(そら)したw』

『すぐ逃げるんだから』

『お?』

『おお』

『強くない?』

『普通に有用そう』

『凄女の歩みですし』

『↑お茶返せ』

『これGAMANも歩けるのかな』


「わかる! 私もそれ気になった。なんとなく行けそうな気がしない?」


『どうだろ』

『いけそう』

『行けたら強くね?』

『強いってか便利そう』


 使ってみれば早いかな。

 あ、でもこれ確か、ダメージ与えればデバフ解除とかそんなんだっけ。

 戦闘外の場合どういう扱いになるのかわからないけども、念のため解放までワンセットにしておこうか。


 てきとーにうろつく。昨日からわかっている通り、ここはあっという間にスケルトン達に囲まれる。

 特に変わった様子もない骨軍団が、剣を振りかざしてわらわらと歩み寄ってきた。


「【GAMAN】……やっぱり少なからず怖いものがあるんだけど」


『絵面がなぁ』

『ホラー映画顔負け』

『無抵抗で斬られて平気な感性はちょっとわからない』

『無抵抗で斬られて兵器な感性?』

『↑だれうまwww』


「平気ってわけでもないよー。 そして私はウェポンの方のヘイキではありません!」


 まあでも、こうしてコメントを拾えている時点で割と大丈夫なのかもしれない。

 兵器扱いは納得いかないが!


 あ、忘れるところだった。ここから移動できるかどうか試さなきゃ。

 身体の感覚からして、既になんとなく察してはいるけどね。


 そーと、一歩後ろに下がってみる。 うん。問題ない。


「移動、できるわこれ」


『おーー』

『つよつよじゃん』

『聖女になって一番の強化ポインツでは』

『移動できたところで感』

『立ち位置修正できるのはつよいね』


 元々大して速度があるわけじゃないので、そこまで状況が大きく変わるわけでは無いと思う。

 それでも、やっぱり移動できるっていう安心感は大きいね。


「行動は……流石に駄目か」


 斬りかかってくるスケルトンに対してぱんちを試みてみたものの、流石にそれは身体が重くて出来なかった。

 まあ、『行動不能』と言ってもこれまででわかっている通り、体勢を整えるとかはできるから充分かな。

 流石に、カウンター準備しながら他の行動まで可能だったら強すぎるもん。

 例えば、GAMANしながらポーション使い続けるとかを一人でできちゃうわけで。


「よいしょ。じゃあとりあえず君たちは……【解放】天に、還りなさい!」


 幾度となく斬られ、HPが残り少ないところまで減ってきたのを確認して──解放。


 ゆっくりと掲げられた手から、天に向かって力が放出されていく。

 手が振り下ろされた瞬間、光線が雨のように降りそそいで。

 それが止む頃には、地上に蠢いていたスケルトンたちは揃って姿を消していた。


「ふぃーーー。しんどい」


『おつ』

『相変わらず壮大』

『発動の瞬間はカッコ良いんだよな』

『まさに天の怒り』

『なお準備期間』


「もー。隙あらば、からかうんだから」


 カメラに向かって頬を膨らませ、ツンツンとつついて見る。

 不満ですと、露骨にアピール。

 あんまり揶揄ってるといつか本気で怒るかもだぞー。


『かわいい』

『かわいい』

『いやそれ反則』

『かわいいw』

『逆効果なんだよなぁ』

『可愛さ自覚して?』


「うえっ!? き、急に褒め出すのやめて!?」


『照れた』

『かわいいw』

『テレテレユキちゃん』


 ああもう、ホンット自由なんだから!

 ばっと、カメラに背を向ける。 顔が熱い。


「ほらもう、回復して次行くよッ!」


 インベントリを操作。ポーションを……あ。

 ポーション切らしてたんだーーー!!!!





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