初戦闘 GAMANの力!

 





「おーー。みんな同じ反応だぁ」


『どういうこと』

『やばすぎ』

『極振り……?』

『しかも、VIT』

『これはやばい』


「えへ。どう? この体力!!」


 そう。なんと言っても、私の魅力は圧倒的なまでのHPの高さ。どう、見てよこれ! 千超えてるんだよ!

 レベル1で4桁なんて、世界広しと言えども私くらいなものだろう。



『たしかに体力はすごい』

『体力「は」』

『なおほかの能力』

『どうやって戦うのん……?』


「んーそれはねぇ。なんか面白そうなスキル見つけたのよ」


 いくらこの手のゲームに慣れていない私と言えども、流石に何も考えなかった訳では無い。

 とあるロマン溢れるスキルを見つけた。それが、これ。


◆◆◆◆◆◆◆◆

 技能:GAMAN

 効果:自身に移動不可回避不可を付与。任意のタイミングで『解放』でき、受けたダメージをそのまま返す聖属性のレーザービームを放つ。効果範囲は威力に比例する。この効果で1でもダメージを与えた時、自身のデバフを解除。戦闘不能になると蓄積はリセットされる。効果中は『解放』以外の行動はできない。

◆◆◆◆◆◆◆◆


 GAMAN。何故アルファベットなのかはわからない。けれど、大いなる可能性は感じた。

 早い話、相手の攻撃をすべて耐えきってしまって、最後にどでかいものをお返ししちゃえば。

 駆け引きもプレイヤースキルも介入する余地のない一撃で、なんでも倒せちゃうんじゃないのって。


 今の私の体力でさえ、ギリギリまで耐えれば1500ものダメージを与えることが出来る。敵がどれ位硬いのか知らないけど、流石にやれる…………と思いたい。


『なんやこれ』

『はえーこんなスキルもあるんか』

『いや、それ…………』

『「神の遺産」じゃん』


「……ん?「神の遺産」?皆知ってる?」


『初耳』

『いや』

『ネットスラングみたいなもんだね。皮肉というか揶揄というか』

『スラングっていうか、造語?』

『β経験者が言ってる』

『「神の遺産」は、創造神って設定になっている運営のお遊びスキルの通称。運営側が究極のネタスキルと公言している技能のことで、まずマトモに扱えない様な尖ったもののオンパレード。運営曰く、「使い方次第では化けるスペックはあるからお試しあれ」らしい』

『該当スキルは名前がわざとらしくローマ字表記だから、知ってる人にはすぐ分かる。別名 運営の玩具』


「ほえーー。だからこんな表記なのか!」


『へー』

『解説ニキ助かる』

『βにもいたなぁ……頑張ろうとするやつ』

『他にもいくつかスキルがあるよ。探してみても面白いかも』

『サンクス』


「ありがとー。話聞いてる感じでは、前評判は高くなさそうだねぇ。まぁ観てて!」


 なんとなく拾ったスキルが、特殊な類のものだったのはちょっと驚いた。けどまぁ、それで元々やりたかったことが変わるわけでもない。

 とにかくライフで受ける。その方針は変わらないわけだ。

 それに、この私の高いHP。活かすには最高の土台だろう。


 のんびりと歩いて、街を出る。

 特に意識をした訳では無いけど、出たのは北門。見渡す限りの平原が広がっていた。


 広大な草原にちらほらと見えるのが、エネミーである角の生えた兎と、それに相対するプレイヤー。

 みんな似たような装備に身を包んで、兎と一進一退…………いや、圧勝している人もちらほらいるね。


「みんなやってるーー。私もたたかってみようか!」


 門から離れ、適当な位置の兎に近づいてみる。

 向こうもこちらを認識したようで、意識が向いたのを感じた。


◆◆◆◆◆◆◆◆

 ホーンラビット

 レベル:1

 状態:通常

◆◆◆◆◆◆◆◆


 視界の端にウィンドウが浮かび上がる。なるほど。ホーンラビットっていうのね。

 レベル表記は1。まぁ、門のそばだもんね。いきなり高いのきたら詰んじゃう。


 貰った剣と盾を構えて、油断なく兎を見据える。

 ほんの数秒、私たちは見つめあって……


「えいっ!」


 一歩踏み込んで、剣を振るった。

 後ろに飛んであっさりと回避したホーンラビット。地面を蹴って真っ直ぐに私に向かってくる。

 落ち着いて盾を出し、受け止め…………られなかった。


「ぐえっ」


 鋭い一撃がお腹に突き刺さり、思わず呻いてしまう。

 けど、見た目程は痛くなかった。HPは2%ほど減っている。


「…………ま、そういう、わけ、で。私のPSが残念なことを、皆に見せとこうと、思って……ね」


『無理するなww』

『見事までのクリーンヒット』

『大丈夫なん?』


「だいじょーぶ。ほら、HPみて。ほんのちょっとしか減って……わわっ」


 当然ながら、魔物は待ってくれない。

 容赦のない再度の突撃。今度はギリギリで回避できた。


「……さてと。余興はこれくらいにして……使うよ『GAMAN』」


 戦闘が難しいことは充分に示せたので、お待ちかねのスキルを使う。

 余興w どう見ても必死w とかいうコメントが流れた気がするけど、知らないったら知らない。


 それはさておき。スキルを使った瞬間、身体全体が重くなったように感じる。脚を動かそうとしても、殆ど動かせない。

 剣も振れないので、これが例の行動制限というものだろう。


「うわぁ、ホントに何も動かせない……え、ちょっと待って待って私動けないんだよそんな容赦なくぎゃーー!!」


『草』

『効果分かってたんじゃないのw』

『無慈悲である』

『あ、でもちょっと白くなった?』


 動けない私が見逃されるわけもなく、またお腹にクリーンヒットを貰ってしまった。

 その瞬間、私の身体に薄くだけど白い膜のようなものが貼られる。


「動けないところに突進くるの、普通に怖いからね!?」


 コメントに煽られながらも、二度、三度とたいあたりを受ける。

 どうしようもないので全部お腹で受け止めているうちに、少しずつ気持ちも慣れてきた。


『剣と盾をもちながらも身体で受け止める図である』

『あまりにもシュールすぎる』

『周りの目が面白いw三度見くらいされてるww』

『その装備、要らなくね?』


「うぐっ……良いの!見ためも大事なんだから!」


『その見た目が酷いんだよなぁ』

『全部うけ止めてなお平然とたっている時点ですごいけどね』

『もういいんじゃないの?』


 5発目を貰った辺りで、周囲の膜が少しだけ濃くなったように感じる。

 確かに、受けたダメージ的にはもう充分かもしれない。


 改めて、兎を見据える。何度受け止められても、愚直に突進を続けるホーンラビット。

 その姿に思うところがない訳では無いけれど……さくっと、終わらせてしまおう。


「【#解放__リリース__#】」


 6度目の突撃に合わせるように、言葉を紡ぐ。

 その瞬間、蓄積されたエネルギーが解き放たれるかのように一筋の光が生み出され、兎を正面から貫いた。


 ホーンラビットの姿が消滅するとともに、身体が軽くなる。


【戦闘に勝利しました】

【只今の戦闘経験により『聖属性の心得』を獲得しました】

【只今の戦闘経験により『ジャストカウンター』を獲得しました】

【只今の戦闘経験により『致命の一撃』を獲得しました】

【只今の戦闘経験により『創造神の興味』を獲得しました】


「なんか色々来たけど……初勝利やったーってことで!」


『おー』

『一応活用できてるw』

『おめでとさん』

『8888』

『綺麗に脳天撃ち抜いたね』


 ふふん。いいぞもっと褒めろ。

 とりあえず、最初にギルドで支給された下級ポーションを飲む。回復量は25%なので、余裕で全回復。


 コスパ悪ってコメントが見えた気がするけど、気のせいだよね。

 さて、1戦で満足するわけにも行かないし……色々確認しつつ、次行こうか!




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る