『ライフで受けてライフで殴る』これぞ私の必勝法
こまるん
(書籍一巻該当分)HP特化の脳筋配信
プロローグ
「それじゃー、次にみんな集まるのは夏休み明けになるが、怪我やら病気やらには充分にきをつけるんだぞ。はい、号令」
起立、礼。力強い号令でもって、一学期最後の日が終わった。
これから迎えるのは長い夏休み。
部活に所属しておらず、特にこれといった習い事のない私は、今年の休暇も読書に費やす……はずだったんだけど。
「ユキー!いよいよ今日からだかんね!」
終業と同時にそう言って駆けて来たのは、親友の奏。
生粋のゲーマーってやつで、やたらゲームに詳しい。
「うん、わかってる。13時からだっけ?」
「そう!まぁ、13時からキャラメイクが解禁されて、サーバーの解放自体は15時やけどね」
「2時間って、そんなに早くからどうするんだろ」
「初期に取れるスキルだけでも相当な数があるから。ステータスと合わせて、じっくり悩んでくれってことやないかな?」
「ふーん……そういうものなんだ」
「昨日も言ったけど、私を待つ必要なんてないから。むしろ先始めて! そしてどんな感じだったか教えるんよっ」
「わかった、わかったから」
奏は、用事があるので夜までログインすることができない。だから、私も夜まで待とうかとも思ったのだけど……何故かそれは嫌らしい。
まあ、待ちぼうけよりは良いか。私はゲーム慣れしてないし、合流する前に少しでも慣れる時間があって損は無いね。
「そうや、配信の件、結局どうするん?準備だけは終わっとるんやろ?」
「あーうん。一応」
奏が言っているのは、プレイ中の配信をどうするのかということ。このご時世、簡単にゲームを配信できる訳だけど、これから私達がやることになるそのゲームも、例に違わず配信は自由らしい。
むしろ、いろいろと機能も充実していて推奨されているんだったかな?
「どうせ私の方では配信することになるんやし、ユキもやってみれば?」
「うーん……そう、だね。試しに待ってる間やってみようかな」
「ええやん。私の方でも軽く宣伝しとくわ。どれくらい効果あるか知らんけど。大丈夫、ユキならすぐに人気出るって!」
「ありがと。んーまぁ、私はのんびり楽しめれば良いよ」
遅くなってしまったけど、先程からそもそもなんの話をしているかについて触れよう。
世界的有名企業である、株式会社トライアングル。そこが手がける新作ゲーム、『infinite creation』通称『インクリ』のことだ。
もはや一大ゲームジャンルとして確立した、VRMMO。今作品にも当然それが採用されていて、実際に自分がゲームの世界にいるような感覚で遊ぶことが出来る。
一年も前から大々的に広告され続けているこのゲームは、その宣伝文句に違わず、凄まじいクオリティーを誇るらしい。
先立って行われたβテストでの反響も後押しし、予約も膨大な母数からの抽選になってしまったほどだ。
そんな凄いもの、本来私はやるような性格じゃないんだけど……いつになく奏が推してくるから、断りきれなかった。
仕方ない。『どうしてもユキとこれをやりたいんよ!』と拝みまでされたら、悪い気はしない。
私が断ったとしても、かなりの人気配信者でもある奏は格好の題材としてインクリをやるんだろうけど……折角誘ってくれたし、奇跡的にゲーム自体手に入ってしまったんだ。やるしかないだろう。
一応、合わなかったらすぐにやめて良いとは言ってくれているけど、出来れば長く一緒に遊べたらなって思う。
そのためにも、私なりに色々とリサーチはしてみているけれど……どうなるかな。
話しているうちに家に着いたので、奏と別れる。
ただいま、と声をかけてから家に入り、荷物を置いた。
同居している家族には両親がいるけど、二人とも仕事で海外出張中。
取り敢えずご飯を用意して食べ、時計を見る。
丁度一時で、都合が良い。
ひとまずログインして、キャラメイクとやらをやってみることにしよう。
自分の部屋のベッドに横たわり、専用のヘッドセットを装着。
ちゃんとトイレは済ませたし、戸締まりもした。万が一の時には警報がなるようにもなっているし、抜かりはない。
なんだかんだで未知の世界にワクワクとするのを感じながら、装置を起動。 すっと意識が抜けていくような感覚がし──
私は、バーチャルリアリティの世界に身を投じた。
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