生まれ変わったら雲になりたい。

椛島

第1話

小学生の頃に何となく憧れていた友人が一年浪人して京都大学に入学したと耳にしたのは22歳になった時だった。


彼は昔から特に優秀だったので、まあ大きくなったらそれくらいのレベルの大学に進学するだろうとは常々感じていたので特に驚く話でもない。



私が彼を意識するようになったのは小学校四年生くらいの頃だったか。


算数の時間、私は名前も知らない隣の席の男の子と自作迷路を紙に描いてあそんでいたのだが、そんな様子を見てか、男の子は黒板に書かれた全ての問題を解けと先生に当てられてしまったのだ。


ところがその男の子はとんでもない早さで問題たちを全て解いてしまった。

勿論彼のノートには黒板の問題なんて写されていない。


なんて格好良いんだ!とその一瞬で彼に興味を奪われてしまった。



私と彼はよく席が近くなることが多かったので授業中にこっそりおしゃべりをすることが増えた。


ある日、彼がふと私に「生まれ変わったら何になりたい?」と問いかけてきた。

私は暫く考えたあと、生まれ変わりたくない。と返した。彼は何故かとまた質問を投げかけてきたが、私は自分がとんでもなく怠惰な人間だから、と正直に返すのがなんだか恥ずかしくて何となく。とだけ返した。今思えば別に何も恥ずかしいことではないのだが、その頃の私は周りにいい顔をしなければならないという何かにずっと縛られていたのだ。

彼は物足りなさそうにふーん。と言ったあと、「俺は生まれ変わったら雲になりたい。」と言った。


彼のその言葉は幼い私によっぽど印象的だったのか、新鮮だったのか、なぜだかいつまでも私の中に残っている。

それは成人した今でも消えることなく私の中で何度も何度も反芻しているのだ。


何故彼が雲になりたかったのかは忘れてしまった。前半が強すぎた。


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