オペレッタ・〈モンテクリスト〉
倉沢トモエ
第1話
「ヨネや」
いつもの神無月家令嬢、
本日はお屋敷のご自室でおくつろぎです。今、珈琲と茶菓が運ばれました。運んだのは私ですが。
お召し物は、
「こちらに覚えはありますか?」
手元には白レースのハンケチ包み。
ひろげますと、葉巻の吸殻がございます。
「失礼」
私は吸殻をつまみ上げると、鼻先に持っていきます。
「ハバナですね。〈モンテクリスト〉」
何を隠しましょう、私は煙草をいくらか嗅ぎわけることができるのです。いくらか、ですが。
なんのことはない、このお屋敷の以前、煙草屋に奉公していたことがあるものですから。
「さすがね、ヨネ」
「こちらが、いかがされましたのです?」
私は煙草なんぞやりませんので、吸殻の疑いとなれば濡れ衣を晴らさねばなりません。
すると摩耶お嬢様は嘆息なさるのです。
「やっぱりハバナなのね。それはともかくたいそうお行儀の悪いおはなしなのよ、ヨネ」
「はあ」
「
鷹野丸様。
私は首をかしげます。
「あの鷹野丸様ですか」
「あの鷹野丸様よ」
先日、摩耶お嬢様が反古になされたお見合い相手は、鷹野丸家長男、
ええ、もちろん存じ上げております。それだけではありません。
「今朝ほど警察の自動車が何台も鷹野丸様のお屋敷に向かっていたようでしたが」
「そうよ。事件ですもの」
「何があったんでしょうねえ」
言いながら私は、イヤな予感がしておりました。
「時にお嬢様」
私は控えめにお訊ねします。
「昨夜は私を早々に下がらせて、そのあとどのようにお過ごしだったのか、存じ上げないのですが」
「ええ」
「その。どうしたわけでございましょうか」
「なんのことかしら、ヨネ」
そらきた。
ここで下がってはいけないのです。
「早朝に事件ではないにせよ、なにかあったとお察しできる、お気の毒な鷹野丸様のお屋敷ですけれども」
「ええ。お気の毒ねえ」
「そのお庭に捨てられていた葉巻を、どうしてお嬢様がお持ちなのです? 先日のお見合いの記念ですか?」
「記念ですって? そんなばからしいこと。あの日のことは思い出にしたいようなものではなかったじゃないの。一番ヨネが知っているでしょう」
「では、いつからそれをお持ちなのです?」
「今朝よ。ひとりで散歩に参りましたから」
ほら。
私はそのご予定、まったく存じ上げておりません。
「困ります、お嬢様」
「ほんの少し、表の空気を吸って戻っただけだわ。知らせるまでもないと考えました」
ひとこと小言を申し上げようとしたところ、ばあやのおマサさんが参りました。
「なあに、ばあや」
「お二方の殿方がお嬢様に、ご面会をとのことでございます」
「どなたかしら?」
「
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