第9話 冒険者ギルド:フルード支店

 俺はまず冒険者ギルドを目指した。

 兎にも角にも、1日経ったとは言え冒険者ギルドには顔を出しておきたい。

 フルードは王都よりも随分マイルドな様子だが、ダンジョンは比較的多い。

 狩場には困らないだろう。


「にしても、こんな長閑な町にランク8冒険者とは……絶対ありえない」


 とは言え俺がそのランク8冒険者なので完全に否定しきれない。

 そんな俺の横を新米冒険者がすれ違う。


「なあ、今日は何狩りに行く!」

「そうね。いつも通りスライムでいいんじゃない?」

「そうだな。まずは金を稼がねえと」


 本当に殺伐とした雰囲気とは縁遠い場所だった。

 俺は心の中で「頑張れよ」と優しい一言を掛けてやる。

 口に出さないのは恥ずかしいからだ。


「さてと、冒険者ギルドは……めちゃくちゃ綺麗だな!」


 俺は腰を抜かしそうになった。

 その原因は目の前の冒険者ギルドがありえない程綺麗だったからだ。

 こんなきれいな冒険者ギルドはそうない。明らかに戦闘とは縁遠い過ぎて、花壇には花が植えられていた。


「いや、マジか」


 俺は愕然とした。流石に期待していた以上過ぎてビビる。

 けれどギルド前で立ち尽くしても悪いのでいざ扉を引いて、中を覗き込む。

 


「お邪魔します。あっ、意外に普通だ」


中はいつも通りだった。ただし騒がしくない。

入って右手には大きな木のボードが飾られていてたくさんの依頼書が貼られている。

目の前の受付カウンターには受付嬢がいた。さらに左手には休息をとる冒険者の姿がある。

粗暴そうな相手はおらずみんな呑気だ。

とは言え中には歴戦の猛者のような雰囲気を醸し出す影もある。以外にも上級冒険者も在籍していそうだ。


「なるほど。これは良い」


 俺は胸を撫で下ろした。これだけ静かだと王都の喧騒からも解放されそうだ。

 そう思い受付まで歩いていくと、俺は顔を売ることにした。

 まずは挨拶だ。


「すみません。冒険者ですが、右手のボードから依頼書を剥いでくればいいですか?」

「はいそうですよ。もしかして、冒険者ギルドは初めてですか?」

「いえ。ただ冒険者ギルドによっては勝手が違うそうなので」

「そうですね。でもフルード支店は他とそこまで変わりませんよ。あっ、私はパフィと言います。冒険者カードを拝見してもよろしいですか?」

「わかりました」


 俺は冒険者カードを差し出した。

 するとパフィは驚いた顔をして、俺の顔を見比べる。


「どうかしました?」

「あっ、いえ。久しぶりの上級冒険者様でしたのでつい……ブキヤ・カイさんですね。あの……フルード支店にはあまり上級冒険者様向きの依頼は取り揃えておりませんよ?」

「大丈夫です。周りと同じなので」


 俺は周囲の冒険者達の顔色を窺う。上級冒険者風の気配を醸し出す彼らは依頼に興味を示さない。

 どうやらダンジョンに行くか指名依頼を待っているらしい。

 流石にプライドでもあるんだろうか。くだらない。


(それにしても……武器なってないなー)


 俺の視線は武器に向いていた。かなり杜撰な扱いをしている。

 どうやらこの町のぬるい空気に当てられて、その本質を見失っているらしい。

 俺は溜息を尽きそうになるも、まずはこの近くのダンジョン情報を洗うことを優先した。


「あのパフィさん。この近くに手ごろなダンジョンは……」

「パフィさーん! 依頼こなしてきましたよ。サインくださーい」


 俺は何処かで聞いたことのある声にピクリとした。

 隣に気配を感じる。やっぱりあいつだ。


「早いですねエクレアさん。はい、納品アイテムは確認しました」

「ありがとうございます。じゃあ次……って、カイ君!」

「やっぱりか」


 俺は溜息をつく。するとエクレアは頬を膨らませて、怒ってきた。


「何でため息つくの!」

「騒がしいからだ」


 俺は周囲からの視線で釘付けになって嫌だった。

 エクレアは目立つ。だから好きじゃなかった。

 俺は王都での喧騒からやっと解放されたのだから、できればもっと静かにやり過ごしたい。

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