第4話 マッチポンプ屋台を潰す
俺は高台を離れた。
流石にカップルが増えすぎて、あの場にいるのが居た堪れなくなったからだ。
すると早速町中にある冒険者ギルドに向かうことにした。
「この町の冒険者ギルドはどんな感じ何だろうか」
正直これだけ静かな町なら冒険者ギルドも騒がしくないはずだ。
フルードには王都とは対照的に、何処か田舎のようなイメージが湧いている。
俺はリオン達と過ごしてきて騒がしいのが好きじゃなくなった。だからだろうか。喧騒から離れるためにもこの町に来た意味がある。
だから体が弾むように軽かった。
「さてと、この町の冒険者ギルドは……っと?」
フルードの大通りを歩いていると、視界に入ったのは屋台のようだった。
若い男が1人でやっているようだが、何やら不穏だ。
店の前には買い物帰りの主婦のような女が捕まっている。
「何だあの店。しかもこんな路地裏で……」
俺は怪しいとは思いつつも、しらを切ってその場を後にしようとした。
しかし不意に聞こえてきたのは、男の声だった。
「ねえ奥さん。この包丁、とってもよく切れるんですよ!」
俺は足を止め、その場で立ち止まった。
視線を路地裏に向け、屋台の様子を睨みつける。
青い屋根の店だがいつでも逃げられるようにしている。ショーケースに入れられていたのは鍋やフライパンなどの調理器具がほとんどで、中には刃物のようなものもある。
「ねえ奥さん。最近包丁で困っているんじゃないですか」
「えーっと、確かに困っているけどどうして?」
「いやね、この町で最近包丁が品薄で困っているって噂を聞いてやって来たんですよ。そこでです! 今回は特別に王都で売られている最高品質の包丁をたった5万ユリスでお譲りいたしますよ!」
はっ? 俺は呆れてしまった。
包丁がそんな高値になるわけがない。しかもその価値で言うなら1ヶ月の一般家庭の生活費の約4分の1だ。あまりに高すぎる。そんなもの買うわけがない。
しかもあんなものを買う奴は馬鹿だ。
王都で武器屋と呼ばれていた俺の目が訴えかける。
「そうですねー。うーん、仕方ないですかね。包丁がないと、喫茶店も続けられませんし」
「そうですかそうですか。では……」
「ちょっと待て」
俺は屋台の男の前に出た。
すると屋台の男も主婦の女も俺の顔を見ると、突然すぎて困惑した。
特に男の方からは「余計な奴が来やがった」と訴えているのが知れる。
「な、何でしょうか?」
「その包丁、5万の価値もない。せいぜい2000ユリスだ」
「なっ、2000だと! 馬鹿言うんじゃねえ。こんな良いもんがそんなわけがねえだろ」
「だったら証明してみろ。マッチポンプでないならな」
「くっ……」
「証明もできないんだな。道理で杜撰な作りなわけだ。どうせお前が盗んだんだろ」
俺は男を挑発した。
すると否定するでもなく、男は屋台のショーケースの中から包丁を取りだすと俺に突き出した。
どうやら錯乱しているらしい。本当のことを言われてイラついているんだろう。
「うるせぇ! お前どうして知ってんだよ」
「自分で言うんだな。俺はまだ可能性の話をしていたんだぞ。それを自分からバラすとかとんでもない馬鹿だな」
「何だとぉ!」
男は逆上した。しかし俺は澄ました顔でいる。
男は怒りの矛先を俺に定めると、包丁を突き出して突撃してきた。
「死ねっ!」
「その程度で死んで勇者のお守が務まるかよ!」
俺は目をカッと見開いて、とてつもない気迫を放った。
すると俺に触れるよりも3メートル以上も手前で男はバランスを崩した。
「うわぁっ!」
「こんなしょうもないもん売ってんじゃねえよ。とっとと失せろ!」
俺は包丁の刃を折った。
すると男は恐怖して路地裏から這い出ると、その足で町の外に向かった。
どうやら本当に腰抜けのようだ。俺は溜息を吐きながら、路地裏を後にしようとした。
しかし背後から声を掛けられた。
「あのっ!」
「ん?」
そこにいたのは主婦の女。
手を前で組み、俺にぺこりと頭を下げる。どうやら感謝されているようだが、正直感謝されることでもないので困り果てて固まってしまった。
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