第2話 布の下の素顔

「さて、まずはこの布を取るか」


 俺は顔に巻いた布を取ることに決めた。

 ぶっちゃけこの布に意味はない。俺が顔を覆っていたのは、顔を見られないようにするためだ。

 正直に言おう。俺はあの女、マーリィが怪しくて仕方なかった。

 そもそもどうして俺が【勇者】パーティーにいたのか、未だにわかっていない。

 一説にはリオンに武器を売ったことがきっかけで、その際たまたま火山地帯に行ってきたので火山灰を防ぐためにこの布を巻いていただけだ。それが顔を隠すことに繋がったのは言うまでもない。


「おかげで素顔が晒されなくてよかった。名前だけなら同姓同名を当たるだろうが、顔まで回ると権力を振りかざして厄介だからな」


 路地裏に回り、顔に巻いた布を剥がす。

 久しぶりに表に顔を出せる。空気が旨い。味などあるかわからないが、布のせいで酸素が薄くなっていたのがようやく解放された。


「でも今思えば、確かに年中この格好の奴が隣にいたら嫌だな」


 俺の巻いていた布は洗っているとは言え火山灰が含まれている。

 こんなものを今までつけて歩いていたとは信じたくない。

 完全にヤバい奴の体を払拭ふっしょくするべく、ゴミ箱の中に叩き込んだ。


「となると次は活動拠点だけど……王都は1回離れようかな」


 リオン達の邪魔はしたくなかった。

 それにあいつらなら何とかしてマーリィの妨害も掻い潜るだろう。

 イライラしているが、精神がへなへなな訳じゃない。最悪フレアがどうにかこうにか回してくれると信じていた。あいつは最後の防衛ラインだからな。


「よし、とりあえずフルードに向かおう。あの町は王都からは遠いが、転移屋に任せれば一発のはずだ」


 俺はその足で宿を引き払い転移屋に向かった。

 しばらく王都に来ることもない。

 リオン達も拠点を移すだろうから、これで合うことはしばらくなさそうだ。


「すまない、転移を頼みたいんだけどいいかな?」

「あんっ? お前誰だ」


 転移屋に向かうと新聞片手にタバコを吸う腹の出た男がいた。

 彼の名前はデルン。王都でも有名な魔法使いの1人だ。

 こんな身なりなことが一番嘆かわしいとして、魔法使いたちが憐れんでいる。

それでも腕は本物で、世界でも指の数もいない転移魔法の使い手だった。


「名乗る必要はないよ。それより、フルードに行きたいんだ」

「フルード? 芽吹きの町に何の用だ」

「向こうで冒険者活動をしようと思ってね。知ってる? あの町にはいくつものダンジョンがあるそうだよ」

「知っているも何も言ったことぐらいはある。それに俺が心配してんのは、冒険者をやるのにどうして王都を去る必要があるんだ。怪しいな」


流石はデルンだ。俺は面と向かって言われ、一瞬たじろいでしまった。

けれどこんなところで引き下がる気はない。

そのことを目で伝えると、デルンは新聞をテーブルの上に投げ出した。


「付いてきな。飛ばしてやるよ」

「助かるよ」


 俺はデルンの後に続いた。そこに広がるのは巨大な空間に、6つの燭台しょくだいに飾られた部屋だった。

 全体的に暗く、青黒いカーテンで仕切られている。

 ここが転移質だ。


「いいか、フルードには転移屋はいねえ。もう一度ここに来たかったら」

「隣町のアクアランスに行くしかないんだろ。それか獣人国家アランダにでも行くしかないか」

「詳しいじゃねえか。さてはお前相当強い冒険者だな。顔もいいしな」

「あはは。まさか……俺はランク8なだけだよ」


 デルンは転移魔法を口ずさみながら俺の言ったことに驚いてみせた。

 しかしその目は知っているようだ。

 俺の実力もバレているんだろう。もっと気配を消すべきだな。

 いい経験ができたと満足し、転移魔法で飛ばしてもらった。

 目の前に広がるのは美しい景色と石造りの城壁だった。

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