第69話 決戦の地へ
「これから決戦の地へ向かうというのに寛ぎ過ぎじゃない?」
「アトム、お帰り。用は済んだの?」
ソファーに寝転んだエミリンが答えた。
エミリンにショートパンツを作ってあげたのが悪かったのか、行儀が悪いんだよね。
これはサラ母さんに怒ってもらうしかないね。
「ああ、終わったよ。それじゃこれから行くからすぐに準備してくれ。」
「「「トランスフォーム」」」
エミリン、カリン、オリビアの3人が戦闘装備に変身した。
「もうお昼ですし、ご飯を食べてからでどうですか?」
「それもそうだな。アリサ、よろしく。」
「「「トランスフォーム」」」
3人が部屋着に戻った。
新しい魔法に馴染むの早くない?
めっちゃ使いこなしてるじゃん。
「ねぇ、アトム。ブレスレットの魔石をハート形にしてくれない? その方が可愛いと思うの。」
愚姉のエミリンの戯言は無視。
今はファッション性よりも利便性重視だろうに。
おっと、今日のお昼はオークカツ丼だ。
縁起が良いな!
前世の受験前日の晩飯に母が勝負に勝つ!と言ってカツ丼を出してくれたのを思い出したよ。
丼を片手に上機嫌だった俺は思い出した。
「そうだ。冒険者ギルドに行ったらランクアップしてくれたよ。見てよ、この金色のカードを。格好良くない?」
「良いね。金色はSランク?」
「いや、Aランクだよ。南の世界樹を奪還したらSランクの白金にしてくれるそうだよ。」
「それは凄いですね。Sランクは過去に勇者様のみに与えられ英雄ランクですよ。アトム様がSランク・・・。」
ソフィアが遠い目をしている。
「オリビア、食べ終わったかい?」
「ちょっと待って。これ、めちゃくちゃおいしいわ。もっと食べたいけど、お腹いっぱいだし。どうしよう。」
「また作ってあげるから、旅の支度をしてくれ。」
「わかったわ。約束だからね!」
俺は庭に出て馬車を出した。
馬車にはサンドラ様に改良してもらったクーラーを設置してある。
さらに調整機能を追加した魔道コンロも作ってもらったのでそれも設置済みだ。
調整機能は、いろいろな魔道具に対応できそうだとサンドラ様の喜んでいた。
あいかわらず、ルビーは肩車状態で俺の頭にしがみ付いている。
3人が馬車に乗ったのを確認し、オリビアと出会った野営地へ転移した。
「ここはあの場所よね? サウザンカローナよね?」
「そうだよ。オリビアが昼寝しながら僕を待ち伏せしていた場所だよ。」
「昼寝はしてないから! しようかなとは思ってはいたけど。それに待ち伏せって野盗みたいじゃないの。」
「それじゃ、南に向かって出発!」
「ちょっと、無視なの? 泣くわよ?」
世界樹にはまだまだ遠いため、この辺りへの影響は無いようだ。
逆に世界樹へ向けて魔物が移動したので周囲に魔物の気配が全くない。
さらに人も安全な王都方面へ逃げたため、人の気配もない。
のんびりと馬車の旅を楽しむ。
馬車の中は涼しくて快適だ。
2日目、人の気配を感じた。
近づいてみると街道にバリケードが設置されており、兵士がたくさんいた。
「停まれ! この先は魔物が溢れている。引き返すのだ。」
兵士が大声で叫んだ。
仕方ないので説明するために馬車を降りた。
「僕たちはこの先にある世界樹に用事があります。ここを通してください。」
「おい、正気か? この先は何万もの魔物が溢れていて瘴気に覆われているんだぞ。死ぬ気か?」
「王様かギルドから聞いていませんか? 僕たちは魔物から世界樹を奪還するためのパーティです。とても強いので大丈夫ですよ。」
「お前みたいな子供が何を言っているんだ。それにそんな話聞いていないぞ。」
この人は本気で俺たちを心配してくれているようだ。
優しい人なのだな。
そうだ。俺の顔は知られていないけど、聖女のオリビアならこの国で知らない人は居ないだろう。
「オリビア! ちょっと説明してくれ。」
応答がない。
馬車に戻ってみるとオリビアは口を開けて寝ていた。
イラっとしたので、空いた口の中にレモン汁を垂らしてやった。
「うぎゃああああ! 何? 何? 酸っぱい? えっ?」
寝ぼけてる。
「オリビア、通してもらえないから、兵士さんを説得してくれ。」
「え? どういうこと?」
「外に出ればわかる。街道が封鎖されていて進めないんだ。」
「そうなの? ちょっと行ってくるわね。」
数分馬車で待機。
オリビアが戻ってきた。
「ダメだってさ。」
役立たず・・・。
「ちょっと、今役に立たないなって思ったでしょ?! 仕方ないじゃない。聖女様にこんな危険な場所に行かせられないってきかないんだもの。」
強行突破しかないか。
「主様。我に乗って飛んで行けば良いのではないか?」
「乗れるのか?」
「3人ぐらい問題ない。大きくなるが良いか? それに魔力をたくさん使うからいっぱい吸っちゃうけど。」
「それじゃ、お願いするよ。兵士さん、強情そうだし。」
外に出たルビーは最大サイズまで大きくなった。
それを見た兵士は腰を抜かしているようだが。
俺は馬車を収納し、ルビーの背中に乗った。
エミリンとカリンが背中にたどり着いたところでルビーの魔力障壁に包まれた。
「主様、しっかりつかまっていてくれ。飛ぶのじゃ!」
ゆっくりと上昇し、南へ向けて飛び立った。
魔力障壁のおかげで風圧も寒さも感じない。
「主様、問題ないか?」
「ああ、快適だ。最初からルビーにお願いすれば良かったよ。」
「たぶんだが、主様がギルドカードを見せただけで通してくれたと思うぞ。」
「そうなの? 先に言ってくれよ。」
Aランクというのはそれだけで貴族並みの効果があるらしい。
兵士レベルでは、束になってかかっても勝てないしね。
1時間ほど経ったころだろうか、遠くに黒い靄と天まで届きそうな大木が見えてきた。
その黒い靄(瘴気)の下でうごめく無数の魔物が見える。
「主様。雑魚どもを食っても良いだろうか? 腹が減ってしまったのじゃ。」
「構わないけど、僕の魔力じゃ足りなかった?」
「これから戦地へ向かう主様の魔力を空っぽにしては申し訳ないのでギリギリの量だけ吸わせてもらっていたのじゃ。」
そういうことか。律儀な奴だな。
「良いよ。今更雑魚どもの素材は不要だ。思う存分暴れてくれ。でも、四天王は残しておいてね。」
「わかったのじゃ!」
ルビーのテンションが上がり、一気にスピードがあがった。
魔物の群れに近づくとルビーの口から炎が吐かれた。
魔物は良い具合にこんがりと焼け、香ばしい匂いが立ち込めた。
そこから魔物の群れの外周をぐるっと1周し、もう1度外周を回りながら良い具合に焼けた魔物を吸い込んだ。
それを徐々に中心に向けて繰り返し、魔物を追い詰めながら全部食らいつくした。
その間、ルビーが狩った魔物の経験値がパーティ内に分配され、皆レベルが上がっていった。
短時間で数万は居た魔物の群れが消え、焼け野原だけが残った。
「オリビア、森が消えちゃったけど怒られるかな?」
「瘴気で使えなくなっていた土地だし大丈夫よ。それに開墾してやったと言い張れば良いのよ。」
「そうかな? 僕はこの国の王様を知らないし、そこはオリビアに任せるよ。」
「私だって何度かしか会ったこと無いわよ。面倒事を押し付けないでちょうだい。」
はぁ。頭が痛い。
世界を救うのだから許してくれないかな。
「主様、後は地上に降りてから狩るとしよう。これ以上近づくのは世界樹の結界が怖いのだ。」
「了解。皆、戦闘準備だ。」
地上に降りたルビーは役目は終わったとばかりに小さく戻り背後で休んでいた。
俺は、グイッと魔力回復ポーションを飲み干し、ルビーに吸われた魔力を回復した。
残ったのは世界樹周辺の高ランクの魔物100体ほど。
「ターンアンデット!」
オリビアの聖魔法でゴースト系の魔物が浄化され半減。
「インフェルノ!」
俺の上級火魔法で壊滅状態となった。
「アトム! 待ったああああ! 私の分も残しなさいよ!」
俺たちは強くなりすぎてしまったようだ。
Bランク程度の魔物では物足りないのだ。
残った魔物はエミリンとカリンが切り刻んだ。
残るは四天王のみ。
四天王と言ったが、実は既にエルダーリッチがオリビアに浄化されてしまったので残りは3体だ。
アークデーモン、ギガンテス、そしてデュラハンだ。
やはりデュラハンは奥で動かない。
マイダンジョン同様、単騎で勝負したいようだ。
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