第58話 聖女に会ってしまった

「馬車を停め、すぐに降りてこい。抵抗するようなら容赦しない!」


馬車のドアを開け、俺たちはゆっくりと馬車を降した。


「我々は、聖女様の親衛騎士隊だ。この先で聖女様がお休みになられている。怪しい者を近づけることはできない。来た道を戻れ。」


はぁ? なんで戻らなきゃならんのだ。

怪しい? あっ、確かに怪しいか。

異常なほど豪華な馬車で、しかも引いている馬がゴーレムだ。

無関係者から見たらそりゃ怪しいわ。納得だ。


「僕たちは怪しくありませんよ? ユグドラシル様の命により南の世界樹を目指しております。」


「ユグドラシル様? それは誰だ? 貴族か? 王族か?」


騎士は威嚇してしまったが、もしやお偉いさんかもしれないと不安になり徐々に声が小さくなった。


「ユグドラシル様は世界樹に宿る精霊様です。」


「はぁ? 精霊だと? 何を馬鹿なことを言っているんだ。精霊など、おとぎ話の世界のものだろ。」


「いや、実際に存在しますよ。」


「はいはい。とにかく、わかったから身分証をだせ。」


騎士は、復活して馬鹿にするような態度とった。

俺はギルドカードと王から授かった通行証を見せた。

さすが聖女様の親衛隊なだけあって、通行証やギルドカードを確認できる端末らしきものを持っているようだ。


*鑑定

 名称: カード鑑定機

 ランク: A

 特徴: カードを読み込み、保存された情報を開示する。

     ダンジョン産アーティファクト

 付与: 鑑定、リーディング、ディスプレイ


もの凄い装置だった。

付与されているスキルは別の装置に応用できそうだ。


「伯爵・・・、なのか? あっ、伯爵様でいらっしゃいますか?」


「そうだけど、君は騎士爵くらいかい?」


「いえ、わたくしは平民でございます。」


今までの態度がウソのようによそよそしくなった。


「ほう。さっき怒鳴られた気がするのだが?」


「申し訳ございませんでしたあああああああ!」


フフフ、すっきりした。


「じゃあ、通っても良いかな? 先を急いでいるんだ。」


「それは・・・。」


「聖女様には関わらないし、関わりたくないし。通りすぎるだけだから良いでしょ?」


渋々だが了解してくれたのでそっと通り抜けることにした。

俺の馬車は親衛隊に囲まれながら道を急いだ。

するとテントが見えてきた。

あそこで聖女様が休んでいるようだ。

絡まれる前に通り抜けよう。


「おい、待て! なんだその馬車は! 何人たりとも通すなと命令したではないか!」


なんだよ、声がでかいよ。

さっきの隊員が豪華な鎧を着て偉そうにしているおっさんに説明しているようだ。

頑張れ! さっきまで偉そうにしていた騎士さん。

窓から覗いて応援している。

あー。ダメっぽいな。

可愛そうに殴られているし。

そして、真っ赤な顔で怒っているおっさんが近づいてきた。


「俺一人で行ってくるから2人はお茶でも飲んで待ってて。」


エミリンが暴れてしまったらもっと厄介なことになってしまうので俺だけで交渉することにした。

溜め息を吐きながら馬車を出た。


「儂は聖女親衛騎士隊の隊長、ハングリー・アングリーだ。ここに聖女様がおられると知っていながらな強行し、なぜここまで来た?! これは反逆行為にあたるのだぞ。」


名前からすると腹減ってイライラしているのだろうか?

とにかく、この国は聖女第一主義なのはわかった。


「僕はユグドラシル様の命で世界樹を救う旅をしているだけだ。世界の危機が迫っているというのに悠長なことを言っている場合じゃないだろう。」


「うるさい! 世界の危機など聖女様が救ってくださるから問題ない。それより、世界の危機などという嘘を広めて何を企んでいるのだ。さてはお前は魔族か?!」


なんだろうか、このおっさんの話に付き合うのは疲れる。

一発殴って気絶させて逃げれば良いかな。

殴ったら捕まって面倒なことになるか。

じゃあ、スリープで眠らせるか。

おっさんをどう対処しようかと悩んでいると真っ白なドレスを着た少女が歩いてきた。

ああ、一番会いたく無かった人が出てきた。

逃げて良いかな?


「ハングリー! 何を騒いでいるのですか? お昼寝できないではないですか。」


「申し訳ございません、聖女様。」


やっぱり聖女か。


「あなたは、もしや使徒様でおられますか?」


ああ、やっぱりわかっちゃうのか。

だから会いたくなかったんだよね。


「人違いです! では、急ぐので失礼いたします。」


深くお辞儀をしてから馬車に走った。


「待ってください! あなたは神託のあった使徒様ですよね?」


神託? えっ、聖女様って神様と話ができるの?

神様の話を聞きたい気持ちはあるのだが、聖女と関わってはダメと警告されている気がする。


「いえ、違うと思います。きっと違います。違うと信じています。」


渚さんからのアドバイスが全く無いのも奇妙だ。

何らかの力が加わっている?

強制イベントか?

諦めるしか無いようだ。

ずっと真っ直ぐな目で見つめている聖女様に負けた。


「先程そこの声のでかいおっさんに説明しましたが、僕はユグドラシル様の命で世界樹の調査をしています。それで南の世界樹に向かって旅をしています。」


「ハングリー! なぜすぐに報告しなかったのですか!」


見た目はとても清楚そうなのだが、気が強い性格のようだ。


「申し訳ございません、聖女様! とても怪しかったもので。世界の危機だとか嘘を申しておりまして。」


「いえ、この方がおっしゃったことは真実です。神託によると世界の危機、邪神の復活が近いそうです。」


邪神? 邪神って何?

世界樹と何か関係しているのか?


「何ですって?! もしやこのお方は本物の使徒様なのですか?」


「そうです。世界の危機を知っておられるのは神の言葉を聞ける者だけです。私はこの方が来られるのをここで待っていたのです。この方は後に世界を救ってくださるお方です。」


待っていた? さっきお昼寝って言ってましたよね?

聞かなかったことにしてあげるか。

どうやら聖女様は今日俺がここを通ることや使命を知っていたようだ。

それなら話は早い。すぐに世界樹へ向かおう。


「ということで、僕は世界樹に向かいます。聖女様、ごきげんよう。」


「なぜさっきから逃げようとするのですか? まだ話が済んでおりません。そんなに私とお話をするのが嫌なのですか?」


涙目で言われると無下にはできないな。


「南の世界樹に何やら問題が起こっているようなのです。私はすぐに向かわなければなりません。ですので、解決させた後にお話しいたしましょう。」


「では、私も世界樹に参ります。」


そうなりますよね。

何となく察しておりました。


「なりません! 国王の許可を得なければ後で問題になります。」


「では、あなたが説明してきてください。ハングリー! 聖女オリビアが命じます。王都に戻り、王へ報告してきなさい。」


「はっ! ハングリー、王都へ向かいます。」


「親衛隊も一緒に戻って良いです。」


「それはなりません!」


「聖女オリビアが命じます!」


「はぁ~、了解しました。少年、聖女様を頼んだ。」


「ちょっと待て。さっきまで怪しいと言っていた男に大切な聖女様を託して良いのか?」


「こうなってしまった聖女様は何を言っても無駄だ。それに聖女の能力で人の良し悪しや戦闘力を判定することができる。君の戦力が私たちより上と判断したのだろう。」


鑑定持ちか?

それで俺が使徒だとわかったのか。

仕方なく聖女を俺の馬車へ案内した。


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