第51話 ダンジョンコアの設置

世界樹の根元にあったダンジョン入り口は跡形も無く消えていた。

嫌な気配も無くなっている。


『お疲れさん。やっとつながった。アトム達が邪悪なものを払ってくれたのだろ?』


「はい、ユグドラシル様。崩壊寸前のダンジョンがありました。」


『そうか。そのダンジョンはどうなった?』


「攻略して破壊しました。」


『よくやった。あと残すは南の世界樹だけだ。』


「はい。」


『南の世界樹は一番古く、さらに大きい。しかし、何か異常が起きてネットワークが遮断されている。存在は確認できるのだが、何かしらの問題が起きているようだ。頼んだぞ。』


「了解しました。」


おじいちゃんと母さんに結果を伝えるために里へ急いで帰った。


「戻りました!」


「おお、アトムか。どうじゃった?」


「トレントがウジャウジャいました。」


2人とも嫌な顔をした。

森の民エルフにとってトレントは天敵なのだ。

森で擬態してて突然襲われ、反撃しても固くて斬れない。

おまけに幻影まで使ってくる。

森の中では火事になってしまうので弱点の火魔法は使えない。

出会ってしまったら死を覚悟するレベルなのだ。

そんなトレントがウジャウジャ、そして溢れ出す寸前だったのだ。

そりゃ、母さんも食べていたトウモロコシを落としてしまうよね。

って、トウモロコシ?!


「母さん、その黄色いものは?」


「アトムちゃんは食べたこと無いかもね。この辺りの特産品のトウモロコシよ。私も久しぶりに食べたわ。」


母さんは、ただ焼いただけのトウモロコシを食べていた。


「母さん! それには醤油を塗って焼いた方がうまいと思います。」


「そうかしら? でも、アトムちゃんが言うならそうかもしれないわね。」


俺は母さんの食べかけの焼きトウモロコシを奪い、醤油を塗ってさらに焼いた。

香ばしい醤油の焦げた匂いがする。


「アトム。儂のも焼いてくれんかのぉ。」


匂いにつられておじいちゃんも自分のトウモロコシを差し出してきた。

それより、俺の分のトウモロコシは?!

するとおじいちゃんが俺の分の新たなトウモロコシを持ってきてくれた。

それをあえて焼かず、収納した。

渚さん、わかっているよね?


収納したトウモロコシを熟成させ種をとり、世代を重ね一気に品種改良した。

甘い甘いトウモロコシになったようだ。

さらに増産され、いつでも食べれる状態保管された。

うちの1本を塩茹でしてもらった。

2人の焼きトウモロコシが焼き上がり、それぞれに返すと俺は自分のトウモロコシを食す。

ああ、懐かしい。甘くてうまい。

おじいちゃんが貪るように食べていた。

おじいちゃんは醤油も初めてか。


「トウモロコシが3倍おいしくなったわ。あら? アトムちゃんは焼かなかったの?」


母さんは俺のトウモロコシが焦げていないことに気付いた。


「僕は焼きよりも茹でた方が好きなので。」


「アトムちゃんは初めてよね?」


「そんな気がしたんです。」


危ない。前世の記憶に気付かれるところだった。


「昔から不思議なことを言う子よね。まあ、良いわ。母さんも茹でたものを食べてみたいわ。」


俺は自分のトウモロコシを割って半分を母さんに差し出した。


「甘いわ! これ同じトウモロコシよね? 茹でると甘くなるのかしら?」


品種改良済みの別物なんだけど説明が面倒なので言わないことにしよう。

実家の農民が作った品種改良済みの野菜たちが収穫された時には詳しいことを話すことにしよう。

軽くは説明してあるが、絶対に両親には理解してもらえていないと思う。


「気のせいですよ。それより、私は南の里に向かわなければならないのですが、母さんはどうしますか?」


「ミントが寂しがっていると思うし、そろそろ帰ろうかしら。でも、ゲートがつなげておいてね。しばらく行き来して父さんに親孝行しようと思うの。」


「わかりました。それでは僕は先に王都に戻ります。おじいちゃん、また来ますね。」


「おう。いつでも来るが良い。」


俺は王都の自宅へ戻った。

そして、ある人のところに相談に行く。


「サンドラ様、いらっしゃいます?」


「はい、いますわ。珍しいですね、アトム君から来るなんて。お姉さんに恋しちゃったかな?」


そして、真っ赤になるサンドラ様。

キャラじゃないことを言ってしまい、今更後悔しているようだ。

小さな声で「聞かなかったことにしてほしい」と言っていた。

元々陰キャの引きこもりさんなんだから無理しないでね。

俺は何事もなかったように本題に入る。


「それで相談なのですが、まずは見てください。」


俺は収納からダンジョンコアを取り出した。

魔法だけでなく、いろいろな知識を持っているサンドラ様の助言を聞きたかったのだ。


「これって、もしかしてダンジョンコアよね?」


「その通りです。不意にマスターになってしまいまして。それでどうしたものかと。」


「一度整理しましょうか。まず、ダンジョンボスを倒すと稀にダンジョンマスターになるかコアに問われるっていうのは話を聞いたことがありますが合ってますか?」


「稀なんですか?」


「ダンジョンボスを倒した時、コアが今までのダンジョンマスターと比較し、優れていると判断した場合、交代の意志があるか聞いてくるそうよ。」


「そうなんですね。北のダンジョンの時はコアじゃなくマスターが話しかけてきたかな。その時は現マスターよりも弱かったってことか。納得だ。」


「マスターが声を掛けてくるって事例は今までないわよ? とても興味深い話たけど次回詳しく聞くことにするわ。それで交代を拒否し、ダンジョンから出るとボスが復活する。また、コアを破壊すると溜まった魔素が開放され、破壊者の経験値の糧になる。それで、コアを失ったダンジョンは維持できず崩壊するというのが定説なの。」


「なるほどね。それでコアを持ってきちゃったからダンジョンが崩壊したわけか。」


「それで、どうやってコアを手に入れたの? 普通、ダンジョンごと引き継ぐはずですが?」


「ボスを倒してドロップした宝箱からコアが出現し、収納できちゃったので持ち帰ってきました。」


「現実にここにあるのだから信じるしかないわね。それでこのコアはダンジョンを作ることができるの?」


「設置場所を決めればできるそうです。」


「じゃあ、試しに庭の隅にでも設置してみてはどうな? その前に設置後に移動可能か確認してほしい。町の中にダンジョンがあったら溢れた時が怖いからね。」


『設置後に解除し移動することは可能です。ですが、それまで作ったダンジョン内部は崩壊します。』


「取り外し可能らしいです。」


「じゃあ、早速やってみよう!。ワクワクするわね。」


俺はサンドラ様と庭の端に行き、再びコアを出した。


『マスター、こちらに設置してもよろしいですか?』


「ああ、許可する。」


地面に穴が開き、コアは穴の中に潜っていった。


「これがダンジョンの始まりか。思っていたよりも地味だね。」


すると開いていた穴が埋まり小山となって、そこに洞が出来た。


「アトム様、お帰りなさい。」


「うぉ?! びっくりした。ただいま、ソフィア様。」


「・・・。呼び方!」


「あっ! ただいま、ソフィア。」


「ええ。それより、ここで何をなさっているのですが? その前に私よりも先にお姉さまのところへ向かったことに対する弁明をお聞かせいただけますか?」


「実はダンジョンコアをドロップしてね、どうしたら良いかサンドラ様に助言を頂いていたんだ。」


「そうですか。それなら仕方ありませんね。それでそこの穴は何ですの? 今朝は無かったはずですが。」


「そこにダンジョンコアを設置したらコアが潜って言って洞が出来たんだよ。おそらく、ダンジョンの入口だと思う。」


「入らないのですか?」


「危険じゃないかな?」


「コアの所有者はアトム様なのですよね?」


「確かにそうだね。どう思います? サンドラ様。」


「確認してみましょう! 研究者の血が騒ぐ!」


サンドラ様が興奮して女王の品格を失った。

俺がダンジョンに入るのを躊躇しているのに横を通り過ぎて何も言わずに入口を潜った者がいた。


「こらっ、エミリン! 危ないだろう。もう少し、慎重に行動しなさい。」


俺は慌てて愚姉を追った。


「何も無いわね。」


そこは真っ白なドーム型の空間だった。

中央には先程潜っていったコアが台座の上に設置されていた。


『ダンジョンマスターの称号を獲得しました。スキル「ダンジョン管理」を獲得しました。ダンジョン管理権を守護者渚に譲渡します。』


「どういうこと?」


『細かい設定は私の方で管理します。どのように構築していくか方針だけ決めてください。』


「わかった。任せるよ。」


「どうしたの? 誰と会話しているの?」


「ああ、管理を任せた新しいダンジョンマスターと話していたんだ。どんなダンジョンにしようかな。エミリンはどうしたい?」


「強い魔物と戦いたい。」


「私も賛成です。」


「おお、カリンか。いつの間に後ろに居たんだ?」


流石、戦闘狂の2人は戦闘訓練がしたいと。

細かい設定は後で考えよう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る