第45話 廃墟となった元エルフの里

馬車は森の中を進んでいった。

半日ほどで道が無くなり、馬車と馬を収納した後、徒歩で里を目指した。

段々と焦げたような臭いがしてきた。

もう近いようだ。


「ひどい状態だな。」


家はつぶされ、所々でまだ火がくすぶっている。

殺されてしまった人たちもそのまま放置状態。

俺は変わり果てた里を歩き回り、亡骸を集め弔った。

それから直径数mの切り株を見つけた。

これが世界樹の跡なのだろう。

もう生命力を感じない。


ほとんどの家は木や葉などを使って作ったものだったが、1件だけレンガ作りの建物があった。

これが礼拝堂らしい。

流石にレンガ作りのため崩壊はしていなかったが、かなりボロボロではあった。

建物の中を確認してみると倒れた稲穂を抱えた女神像が放置されていた。


「あれだな。倒れた時に腕と首が折れてしまったようだ。」


どうやら粘土で出来ている。

粉々に粉砕している部分もあった。

俺は破片も全て収納し、錬金で女神像を再生した。

粘土では風化してしまうので焼成し、陶器に変えた。

長命種のエルフの寿命の中、女神像が朽ち果てないようにしてあげた。

さらに割れてしまわないように硬化付与をおまけしておいた。


「これで良し。エミリン、カリン。果樹園に行くよ!」


「「は~い」」


さらに森の奥に進むと火山の裾野の傾斜になった部分に様々な果樹が植えてあった。


「あれはリンゴか? 桃もあるじゃないか! 梨もあるぞ。ミカンもだ。」


「アトム。あっちに葡萄があったわ。黒くておっきいのと緑でおっきいのがあったわ。」


巨峰とマスカットかな?

これは有難く頂いて渚さんに量産してもらおう。

まだ実っていなかったが、柿や栗、胡桃の木もあった。

実のないものは枝を拝借しよう。

おっと、山椒や胡椒もあった。

さらに奥には竹林があり、タケノコも収穫した。


『流石にエルフですね。品種改良が進んでいます。前世のものにかなり近いところまで来てますよ。』


「そろそろ畑の方も見てこよう。」


エミリンが口いっぱいにリンゴを頬張っていた。


「モゴモゴ。わかった。」


「アトム様、こちらミカンがとても甘くておいしかったです。」


「そうか、後でデザートを作ってあげるよ。」


「楽しみです。」


「エミリン、置いて行くぞ!」


「アトム、待って!」


リンゴが気に入ったようで両手いっぱいに抱えて走ってきた。

アイテムボックスに収納したら良いのに。


畑には葉物野菜がたくさん植わっていた。

キャベツに白菜、レタスにホウレン草、ブロッコリーもあった。

真っ先にエミリンが食いついたのは手前にあった苺でした。


「エミリン、あまり食べ過ぎると晩御飯が食べれなくなるぞ。カリンと二人で苺を多めに摘んでくれ。ジャムを作りたい。」


「ショートケーキを希望。」


「はいはい。でも、エミリンは確保するより口に入っている方が多くないか?」


「気のせい。」


シソや唐辛子もいただいていこう。

珍しい薬草類もあるな。

ニンジンにゴボウ、大根にキュウリ、ネギにナス、ニンニクに生姜、カボチャに豆類、イモ類も豊富だ。

種類も数も一般的な農家の畑とは比べ物にならないくらい豊作だ。

やはり豊穣の女神の恩恵なのだろうか。

特に錬金ボックス内の女神像に神々しいオーラは感じないのだが。

もし、恩恵が存在するなら故郷にも礼拝堂を作ろうかな。

里からの距離から考えて範囲は広そうだ。


暗くなってきたな。


「エミリン、カリン。そろそろ帰るよ。」


カリンのおかげでジャムができるくらいの苺が確保できた。

エミリンは腹の中のようだが。


「アトム。今日の晩御飯は無理そう。」


「だろうね。でも残念だね。今日は生姜が手に入ったから久しぶりに生姜焼きの予定なんだ。ほんと残念だ。」


「ん? ちょっと狩ってくる!」


運動して腹を減らすらしいがもうすぐ暗くなる。

危険なのでエミリンを強制連行した。

エミリンの首根っこをつかんで火の民の町の側へ転移し、馬車で町に戻った。

町長と隊長に無事帰還したことを報告後、トゥーリさんのところへ急いだ。


「トゥーリさん、只今戻りました。女神像を回収してきたので礼拝堂に設置しておきますね。」


「ありがとうございます。早かったですね。」


半信半疑のようだ。

とんぼ返りでも徒歩で獣道のような森の中を歩かなければならないので往復で2日はかかると見積もっていたらしい。


「しっかり報酬の果物と野菜は頂きました。ほぼ根こそぎ全部収穫してしまいましたが。」


「問題ないですよ。落ち着くまでは元の里に行けないので収穫できずダメになってしまうところでしたし。」


礼拝堂に到着し、女神像を設置した。


「あれ? なんだがツヤツヤしてますね。」


「崩れそうだったので焼き固めておきました。」


すると女神像が輝きオーラを発した。


「宿った?」


「おお、豊穣の女神様。我らエルフに再び恩恵を。」


*鑑定

 名称: 豊穣の女神像

 ランク: S

 特徴: 周囲100mの植物に生命力を与え、豊作をもたらす。

 付与: 精霊魔法(水、風、土)、植物増強、成長促進


俺が作り替えたせいで魔道具化してしまったようだ。

言わなければバレないだろう。


「あっ! まどお・・・。」


エミリンが口走りそうになったので口を塞いだ。


「それでは僕たちは次の世界樹を確認してきますのでこれで失礼します。困ったことがありましたら王城か私の屋敷に手紙を出してください。」


「ありがとうございます。こちらの世界樹様はわたくしにお任せください。もう二度と失うことはありません。前回は油断と慈悲で手加減してしまいましたが、次は全力で返り討ちにしますので。」


目に炎が灯っている。

大丈夫そうだね。

俺たちは次の情報を求めて王都へ戻った。

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