第33話 面倒事を一気に済ませる

朝ご飯は、食パンといつものバターロールとクロワッサンを籠に山盛りにして出した。

各種ジャムとバターを添えた。

それとスクランブルエッグとウィンナー、コーンスープも出した。


「おはよう。布団もフカフカで気持ち良かった。」


あれだけ深酒してもちゃんと起きてくる王様は流石である。

うちの父さんは未だ夢の中だ。


「肌艶が良いわ。寝る前に付けた化粧水のおかげかしらね。」


王妃様もご機嫌だ。

昨日、母さんと仲良くなり化粧水を借りたようだ。


「ソフィア様は、昨夜使ったお部屋を自室にしてください。」


「ということは、私もここに住んでも良いということですわね?」


「エミリンに聞いてください。」


「エミリンさん、良いですか?」


「ソフィアは友達。住んで良い。」


「ありがとうございます。お父様、お母様。本日お引越しします。長い間お世話になりました。」


「おい。まだ嫁には出さんぞ。危うく泣くところだったじゃないか。今はこの旨いパンに集中させてくれ。ジャムも旨い。明日の朝、固いパンを食べなければならないと思うと気が重いな。」


「昨日もですが、貴重な卵をこんなに使っても大丈夫なのですか?」


「大丈夫ですよ。とある仕入れルートから安定的に手に入るので。家族で食べられる程度の数ですけどね。」


王都に来る途中で手に入れたニワトリの祖先が工房での品種改良が進み養鶏できるまでになったのだ。

卵も鳥肉も安定して得られる。

もちろん乳牛も改良が終了し、今朝出したバターもその牛から取った牛乳を使っている。


「王城に帰るのが嫌になってしまうな。今日も謁見とたくさんの書類の確認があるんだよな。」


「私もお手伝いいたしますから頑張りましょう。」


「ちなみにソフィア様には王城での仕事は無いのですか?」


「基本的にないですね。習い事をこなすのが仕事のようなものです。ですが、これからは花嫁修業が優先されますね。でも、こちらに住まわせていただくので私にも何かお仕事をいただけませんか? ちなみに計算が得意です。」


「では、我が家の家計の管理をお願いしようかな。ポーションの売上管理が適当になっていて正直我が家の資産が今どれだけあるか全く分からないんだ。」


ソフィア様を経理に任命した。

スーザン母さんでは無理だったので。


「王様、この家で働いてもらう従業員を募集したいと思うのですが、王都ではどこにお願いしたら雇えますでしょうか?」


「いろいろと方法はある。王城の従業員を回しても良いが、マリアンの息がかかっている者が紛れている可能性がある。ギルドでの募集は、アトムの秘密目当ての人が集まるだろうな。お勧めはやはり奴隷の購入だろう。契約魔法で秘密を守れるし従順だ。」


奴隷か。分かってはいるのだが、やはり違和感と嫌悪感があるんだよな。


「アトム様。私のように救ってあげると思えば良いのです。」


カリンは俺が抱いている気持ちを察してくれたようだ。


「そうだね。奴隷商に行ってみます。」


「では、紹介状を書こう。」


「ありがとうございます。」


王家の皆さんが帰った後、庭にサンドラ様の魔法研究所を建てた。

詳しく聞くと、母親の影響で黒魔術的な儀式も行ったらしく、悪臭が発生し厳しく怒られたそうだ。

そこで小屋には魔法が暴走しても周囲に影響を与えない結界と悪臭除去の結界を張った。

引きこもれるようにトイレと簡易キッチンも備えてある。

これだけの環境を作ったのだから俺に有用な新魔法を生み出してほしい。

念話で研究所が完成したと伝えるとすぐに引っ越すと即答してきた。


次は伯父さんのところだ。

後でバレたら確実に怒られるので新居の報告に向かった。


「よく来たな、アトム。今日は詳しく聞かせてもらうぞ。」


「その前に王様に新居を頂きました。」


「そうか。快気祝いの時の件だな。それでどこの家になったのだ?」


「地図だとここですね。」


「元公爵家じゃないか! 一等地だぞ。」


「確かに広いし、日当たりも良かったですね。遊びに来ても良いですけど、常時王家の方が入り浸っていますから気を付けてくださいね。昨夜も全員お泊りになったくらいですから。」


「いつの間にそんな関係を築いたのだ?」


「さあ? なぜか僕のことも家のことも気に入ったみたいですよ。後、王様が後ろ盾になったので詳しいことは何も話せなくなりました。王命ですし。」


「王命・・・。」


王命強し!


「アトム君。私を弟子にしてください!」


「え? ジャスミン、どうしたの?」


「あなたの元で薬学の研究をしたいの。ダメかな?」


「庭にサンドラ様の研究所を建てたし、ジャスミンの研究所も建てるか。結構ここから遠いし、住み込む?」


「アトム君が良ければ住み込みでお願いします。」


「じゃあ、マジックバックを貸してあげるから荷物を入れるといいよ。あと、指輪を上げるね。この指輪は念話が使えるようになるから準備できたら知らせて。」


「ありがとう。すぐに準備するわ。」


「あれ? 突然、娘が家を出ることになったのだが? しかも親に相談も無く? どういうことだ?」


「ジャスミンとよく話し合ってください。では、僕はこの後の予定があるので。」


次は奴隷商だな。

いつまでも実家のメイドさんを借りるわけに行かないし。

王都には何件か奴隷商があるらしいが、怪しい店もあるし、騙す店もあるそうだ。

さらには法に触れる店もある。

王様に紹介してもらった店は王家も使うことがある店で、由緒正しい店だそうだ。

店先に掃除をするおじいちゃんがいたので声を掛けた。


「すいません。ここは奴隷商でしょうか?」


「はい、どのような奴隷をお求めでしょうか?」


俺のような若造でも丁寧に対応してくれた。

まずは金持ってるのか? お前のような若造が来るようなとこじゃないと言われると思っていた。

信用できそうなので王様の紹介状を渡した。

どうやらおじいちゃんはこの店の店主だったらしい。


「屋敷で働いてもらうメイドや庭師がほしい。」


「それでは最高の奴隷をご紹介します。まずは経験者から連れてきますので気に入った奴隷が居ましたらおっしゃってください。」


数十分ほど応接室で待っていると3名の女性を連れてきた。


「彼女たちは先月まで公爵家で働いていたメイドです。主人が不正を働きまして国外追放になり、路頭に迷い奴隷落ちした者です。」


ああ、もらったあの家で働いていた子たちか。

公爵家で働いていたくらいだし、礼儀作法には問題無いだろう。

鑑定してみたが、犯罪歴はなく、不正には関わっていないようだ。


「では、その3人を頂きます。」


「ありがとうございます。準備をさせますので一旦下がらせます。なお、王様のお手紙によると、お代は王城に請求しろとのことでしたので。」


王様、有難く頂きます。


「ん? 何かすすり泣くような声がするような気がしますが。」


「実は魔物に食われたり、主人の虐待で身体欠損して治療費が払えず奴隷落ちした者がいるのです。しかし、お金がないため中途半端な治療しか受けておらず、傷口から腐り痛みがひどいらしいのです。残念ながら当店では治療してあげるほどの余裕はないため、亡くなるまで見守ってあげることしかできないのです。」


「その者を見せてもらっても良いかな?」


「決して気持ちの良いものではありませんよ?」


「ああ、わかっている。」


店の地下に案内された。

そこは薄暗く咽るような臭いがし、決して衛生的な環境では無かった。


「現在5名の欠損奴隷がおります。1週間の命といったところでしょうか。可哀想ですが、何もしてあげられないのが辛いです。」


手足の無い子や目の見えない子、ヒューマンなのか獣人なのか、性別すら区別がつかないような子たちが檻の中ですすり泣きながら丸まって痛みをこらえていた。


「全員引き取っても良いだろうか? 僕のわがままなので王様には請求しないで欲しい。」


「お勧めはいたしませんがよろしいのですか? では、5名合わせて1金貨でいかがでしょう? 手続きの費用だけ頂きます。」


「わかった。じゃあ、治療させてもらうが良いだろうか?」


「はい。お代を頂きましたので、所有権はすでにお客様にございます。ご自由にどうぞ。」


「では、リカバリ完全再生。」


全員の欠損部位が戻り、健康体に回復した。


「私は奇跡を見ているのでしょうか。神殿の司祭でもこんなにきれいに早く完治させることはできません。あなたは天使様ですか?」


「いや、ただのハーフエルフです。君たち、立てるかい? 痛いところは無いかい?」


「私はやっと命を終え、自由になれたのでしょうか?」


「ここは天国ですか?」


「この方が治してくれたのだ。今日からお前たちの主人になるお方だ。挨拶しなさい。」


「お手てがある! ご主人様。治してくれてありがとう。どこも痛くないよ。」


一番最初に駆け寄ってきたのは獣人の少女だった。

おそらく10歳くらいで、タヌキかな?

次に来たのがミサイルが胸から飛び出しそうな牛獣人の少女だった。

貴方ではないでしょうが、ちょっと前まで母乳をありがとう。

残りは2人のヒューマンの男子とエルフの少女だった。

元公爵家のメイドたちは3人とも職業がメイドだった。


ソニア  25歳 ヒューマン メイド

ミレー  24歳 ヒューマン メイド

エミリー 22歳 ヒューマン メイド


マリー  10歳 狸獣人 村人

チーズ  17歳 牛獣人 料理人

ジャック 22歳 ヒューマン 農民

ケン   18歳 ヒューマン 狩人

ミント  102歳 エルフ 精霊魔法使い


エルフの長命種は母さんを含め年が分かりづらい。

少女かと思っていたが、まさかの102歳には驚いた。


『精霊魔法を獲得しました。』


女性は全員メイドに、男性は庭師に任命した。

王都の貴族の扱いに長けた元メイド3人を中心に家を守ってもらうことにした。

牛獣人のチーズにはサンドラ様とジャスミンの面倒を見てもらうかな。

幼いマリーはカリンの下に着いて見習いとした。

ミントは同じエルフのスーザン母さんの話し相手になってもらおうと思う。




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