第30話 王都のセカンドハウス
報酬として頂いた屋敷は城の裏手にあり、ある程度離れてはいるが丁度城の影にならない位置だった。
貴族区の奥なので安全な場所なのは確かだ。
日当たり良好、そして広い。
王都の中の土地だというのにハリス領の実家と同等の敷地面積がある。
しかし、そこに建っていた屋敷は大きくまあきれいなのだが、デザインが気に入らない。
「古くもないようですし、すぐに住めそうですね。」
「いや、気に入らないので建て直します。」
「そうですか? では、建築の方をお父様に紹介してもらいましょう。」
「大丈夫です。僕が建てますので。とりあえず、邪魔な屋敷を取り去って更地にしますね。」
「え? 家まで建てることができるのですか?」
屋敷をまるっと錬金ボックスに収納して分解。
「えええええ! 屋敷が一瞬で無くなりましたわ。」
『実家と同じ家なら短時間でできるよね?』
『10分頂ければ完成します。』
『とりあえず、コピーで良いからよろしく。』
屋敷が無くなって気付いたのだが、城壁の遥か向こうに煙の上がる山が見えた。
「団長さん、あの山は火山ですか?」
「ああ、確かに火山だ。100年以上前に噴火したらしいが、ずっと大人しくしているよ。」
「火口の奥に火炎龍が棲んでいるという伝説が残ってます。」
「そうなんですか。ちなみに、この近くで温泉が湧いている場所はありますか?」
「温泉?とは何だ?」
「温かいお湯が湧いている場所です。卵が腐ったようなにおいがしたりする場所です。」
「聞いたことが無いな。」
『手を地面につけてください。ちょっと調べてみます。』
魔力を地下に向かって放ち、温泉を探っているようだ。
『ありました! そのまま15歩前進して、左に5歩の場所に手を置いてください。』
『この辺りかな?』
『
魔力を集中し、細く深い落とし穴をイメージして掘った。
連射し、さらに深く、さらに深く。
100m以上掘り進めたところで温泉が湧き出した。
「あっちち。」
ちょっと熱めの温度で丁度良い湯加減だ。
素早くバルブを取り付け湯の噴出を止めた。
『温泉を風呂に引いてくれ。岩風呂が良いな。』
『了解。かけ流しにします。あと3分後に完成します。』
「皆さん、一旦門の外に出てください。ソフィア様もこちらに来てください。」
「どうかされました?」
「危ないので下がっていてくださいね。じゃあ、行きますよ。」
ドーンっと新しい屋敷を出した。
「「「はぁ???」」」
「じゃあ、中を確認してみますか?」
「この短時間でこの屋敷を作ったということですか?」
「そうですね。実家とほぼ一緒なので時間はかかりませんでした。あとは時間があるときに改造することにします。」
家の中を見て回って問題ないことを確認した。
ソフィア様は特に風呂とトイレが気に入ったようだ。
今日からここに住むと言って駄々をこねられて困ってしまった。
「護衛の問題がありますので宿泊はダメです。」
「アトム様に守ってもらいますから大丈夫です!」
「アトムさんも何とか言ってください。王女様の説得をお願いします。私の首が飛んでしまいます。」
「ん-。たぶん、この家はこの国の中で一番安全かもしれないです。団長さんには申し訳ないですが、王城よりもここは安全です。試してみます?」
「はぁ? そんなわけ無いだろ。もしものことがあったらどうするんだ!」
「じゃあ、僕とソフィア様だけしか入れないようにしますね。弾かれますので気を付けてくださいね。セレクトバリア!」
団長と部下の兵士が門の外に弾き出された。
「え? 何だこの見えない壁は?」
「叩いても大丈夫ですよ。ドラゴンに襲われても平気ですから。ここには入場を許可したものしか入れません。また内部の人に危害を加えようとしたり、殺意を持つと排除されます。なので、ここは安全なのです。」
「確かにビクともしないな。あっ、感心している場合じゃなかった。アトムさん、これでは王女を説得できないではないですか。私は王様にどう説明したら良いのか。」
「では、一度王城に戻りましょう。そして、王様に説明してこの家を何かあった場合の避難所にすることを提案してみます。」
「確かにそれは有難い。」
「では、一旦結界を解除しますね。」
庭の四隅に先程の結界を常時発動する魔道具を作製し設置した。
『Bランクの魔石を動力源にしましたので1年は常時発動できると思います。』
『さすが渚だ。あと、王城の部屋とこの家の部屋をゲートでつなげたいと思うんだ。もちろん通り抜けできる人は限定したい。そんな感じのドア型魔道具も頼む。』
『了解です。客室の1つを転送の間としましょう。ハリス領の実家ともつないでしまえば家族の方が自由に行き来できてアトムさんの手間が無くなりますね。』
『それは良い案だな。』
「ソフィア様、一旦王城に帰りましょう。」
「嫌です。今日はここに泊まります!」
「王様の許可がなければダメです。」
「わかりました。アトム様が言うのであれば仕方ありません。父様を説得します。父様が許可してくださったら文句はないですよね? 姉さま。」
「ん? 姉さま?」
「公には秘密にしているのだが、私は第一王女のサリーだ。なめられないように普段は低い声を出している。騙してしまって申し訳ない。」
「そうだったのですね。では、サリー様にも念話のできるアクセサリーを差し上げます。王様も同じようなアイテムを持っていますので念話が使えます。危険が迫った場合にはこれを使えばいち早く王様に危険を知らせることができるようになると思います。」
「念話とは何だ?」
「念話とは、魔力を送って頭の中で会話ができるスキルです。とにかく、指輪を装備してください。『アトムです。聞こえますか?』」
「おお、頭の中にアトムさんの声がしたぞ。」
「指輪に魔力を込めて、相手を思い浮かべて頭の中で語り掛ければ良いのです。」
「なるほど。『こんな感じで良いのか?』」
「そうです。サービスで何か付与しますが、何が良いですか?」
「スピードが欲しいかな。」
追加でAGI+100を付与した。
「それでは王城に戻りましょう。部下の兵士の方、申し訳ございませんが馬車を王城まで運んでください。サリー様とソフィア様はお手を拝借。」
プライベートの別棟玄関へテレポートした。
「どうなっているのだ!!」
「瞬間移動のテレポートですよ?」
「お前というやつは・・・。文献にしか載っていないような魔法をホイホイ使って。エリザベス様に使った魔法だってそうだ。聖魔法など伝説の勇者か聖女様ぐらいしか使えない魔法だぞ。」
「便利な魔法は使わなきゃ損でしょ?」
「まあ、そうだが。」
ソフィア様が放心状態だ。
「ソフィア!」
サリー様に背中を叩かれ正気に戻った。
「もう驚かないと決めていたのに、これは反則でしょ。一瞬で家の前って。何で姉さまは冷静なのですか?!」
「冷静ではないぞ。驚きすぎて呆れているんだよ。」
「まあ、ソフィア様は王様とお話をしてきてください。僕は実家に戻って家族に王都の屋敷が出来たと報告してきますので。話がついたら念話を飛ばしてください。それでは!」
まだまだサリー様の説教が残っていそうなので実家に逃げました。
「父さん。エリザベス様の快気パーティで話があった王都の屋敷の件ですが、本日王様からいただきました。元からあった屋敷が気に入らなかったので、この家と同じものに置き換えました。」
「そうか。なら、今後は兄さんのところの世話にならなくて済むな。ところで、ソフィア様の方はどうなった?」
「父さん! エミリンに睨まれたじゃないですか。それは、俺だけじゃ決められないと断りました。少なくともエミリンとカリンと仲良くなり、二人の許可が無ければダメです。まさか、父さんは王族と親戚になれるとか思っていませんよね?」
「もちろんだとも。お前たちの幸せが第一優先だ。」
「エミリン、カリン。新しい家には温泉があるよ。」
「温泉って何? 美味しいもの?」
ご機嫌斜めのエミリンだが、温泉が気になったらしい。
「こっちのお風呂より気持ちの良いお風呂だよ。それにお肌がきれいになるんだよ。」
「早く行くわよ、アトムちゃん。」
話を聞きつけた母さんが、食い気味に現れ俺の手を握り早く飛べとせがむのであった。
「魔道具で家と家を繋ぎますので、僕が居なくても行き来できるようにします。」
「そんなこともできるようになったのか。」
「父さんも王都であればすぐに王城に報告に行けるし、仕事がしやすくなるんじゃないですか?」
「確かにそうだ。今までは手紙だったから、回答をもらうのに数か月かかることもあったのだ。」
「エミリン、カリンもまだ王都の街を散策してないし、たくさん利用して良いからね。」
「そんなことより、早く行くわよ! アトムちゃん、話が長いわ。」
一番端の客室にゲートの魔道具を設置した。
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