第21話 新7階層

今日は疲れたのでカッツリの晩飯にしようと思う。

トンカツだ! 今日はトンカツが食べたい!


家族全員がテーブルに着いて俺を見つめているのだが。

今日も俺が出すのを待っている感じだよね?

仕方ないな。

オーク肉がたくさん手に入ったし、みんなにも食べさせてあげよう。

渚さん、よろしくね。


『町で買った固いパンを砕いてパン粉にしますね。』


『良いよ。ところでトンカツソースは出来てるかな?』


『もちろん、熟成完了してますよ。』


『それは楽しみだ。千切りキャベツ多めでよろしく。』


「あの。そんなに見つめられても困るのですが。」


「アトム。お腹が空いてるんだから早く出してよ。」


「今、作ってるから待って。急かすとエミリンの分は少なくしちゃうぞ。」


「ごめんなさい。大人しくしています。」


相変わらずチョロいぞ、チョロミン。

数分後に出来上がったので、皿に乗った大盛キャベツとトンカツにたっぷりとソースをかけて一人ずつ配膳していく。

白飯と味噌汁は必須だよね。


「これはパンではないよな? 香ばしい香りが堪らないぞ。」


「アトム、食べて良いよね?」


「どうぞ、召し上がれ。」


「サクサクでジューシーな肉と濃厚なソースが相まってうまい! 飯が進むぞ。」


父さんが上機嫌でカツを頬張る。


「これはオーク肉を使ったトンカツという料理です。」


「オーク肉を手に入れたということは、もう4階層へ辿り着いたのか。早いな。」


「いや。5階層のボスも倒しました。」


「流石だな。2日で攻略してしまったか。」


「それで報告があるのですが、イレギュラーが起こりました。」


「はぁ? 何があったんだ?」


「まずはご飯を食べちゃいましょう。たぶん、話を聞いてしまうと食事が喉を通らなくなると思うので。」


「気になるが、お前がそういうならそうしよう。」


サラ母さんに入れてもらった食後の紅茶を飲みながら詳細を話すことにした。


「まず、ボスのハイオークを倒した後、さらに2体のオークソルジャーが現れました。」


「エクストラボスってやつだな。それは別のダンジョンでも発生した記録がある。」


エクストラボスって言うのか。


「さらにそのボスを倒すとダンジョンコアが動き出し、地下への階段が現れました。」


「・・・。ダンジョンが成長したのか? 記録では、エクストラボスを倒すといつもより良いものがドロップして、それで終了なのだが。」


「その階段を降りると新たなエリアがありました。6階層です。さらにその下の7階層があることも確認済みです。」


「なんだって! 新たなエリアが出現したってことか。やはりダンジョンが成長したんだな。これは大変なことになるぞ。北のダンジョンのランクも上がるだろう。明日、ギルドに報告しておくぞ。」


「はい。お願いします。僕たちは先行して、その先を探索します。」


「危険だぞ。何があるか分からない。しかし、新たなエリアを発見したのはお前たちだ。お前たちが先に入る権利がある。でも、無理はするなよ。」


「分かっております。もう一つ報告があるのですが、宜しいですか?」


「なんだ? 改まって、怖いのだが。このことより驚くことなのか?」


「はい。実は私の職業が進化しました。錬金術師から大錬金術師になりました。それで低級魔石を合成して上位魔石を作ることもできるようになりました。あと、上級魔法も覚えました。」


「・・・。」


「あれ? 反応なし?」


「驚きすぎて思考が停止したぞ。上級魔法は、大魔導士や大賢者様しか覚えることができないと聞いているのだが。我が息子はどこまで成長するのだろうか。」


「やっぱり私のアトムちゃんね。」


スーザン母さんは誇らしげだが、父さんは頭を抱えていた。


「それと」


「まだあるのか。」


「はい。葉物野菜と豆類の改良もできました。流石にまたゴンさんにお願いするのは申し訳ないので、試しに庭に畑を作って育てても良いですか?」


「それは構わないぞ。サンプルがあれば説得しやすいしな。庭師のエイジにやってもらおう。アンリ、エイジを呼んできてくれ。」


「畏まりました、旦那様。」


メイドのアンリは両親には従順なのだが、俺には冷たいんだよね。

すぐにエイジは参上した。


「御用でしょうか? 旦那様。」


「アトムがお願いがあるそうだ。聞いてやってくれ。」


「はい。アトム様、いつもおいしい食事をありがとうございます。何なりとお申し付けください。」


「エイジ君には庭に畑を作ってほしいんだ。そこに俺が改良した種を蒔いて育ててほしい。」


「了解しました。お安い御用です。私は元々農家の生まれです。さらに私の職業は農民です。お任せください。」


「おお、それは良いね。それとこの魔道具の鍬も試してほしい。」


*鑑定

 名称: 豊穣の鍬

 ランク: A

 特徴: 鍬で耕すと土壌が改良され、豊作が約束される。

 付与: 土魔法、耕作、土壌改良


「それじゃ、よろしくね。」



父さんは朝一番にギルドへ向かった。

ギルマスは新エリアの発見に大喜びだったそうだ。

すぐに北の町のギルドにも連絡が行き、新エリア探索のための隊員募集が発表された。

その日、北の町はお祭り騒ぎとなったらしい。

俺達はダンジョンの中にいたので知らなかった。


7階層も森林エリアだ。

しかし、木には多数の蜘蛛の巣が絡みついていた。

木の上に気配を感じ目を凝らすと葉と糸の隙間からこちらを覗いている芋虫と蜘蛛が見えた。

そして、エリア中心付近に巨大な魔力を感じる。


「アトム。このエリアはあなたに任せるわ。」


「私も無理っぽいです。お願いします。」


「ん? なぜに?」


「芋虫も蜘蛛も気持ち悪いのよ!」


「そうなんだ。じゃあ、燃やしちゃうね。」


「どんどんやっちゃって。」


渚さん、一緒にいくよ。


「ファイアストーム『ファイアストーム』。」


「良く燃えているわね。」


そして、雨のように降り注ぐドロップアイテムたち。

どれだけの蜘蛛と芋虫が木の上に居たのだろうか。ゾッとする。



*鑑定

 名称: フォレストキャタピラー

 ランク: E+

 特徴: 芋虫系魔物。糸を吐き、拘束する。眠りを誘う息を吐く。

 特技: 糸を吐く、糸拘束、睡眠ブレス

 ドロップ: 魔石、糸、睡眠薬


*鑑定

 名称: ポイズンスパイダー

 ランク: D

 特徴: 毒蜘蛛系魔物。蜘蛛の巣の罠を張る。糸を吐き拘束し毒牙で殺す。

 特技: 毒牙、糸を吐く、糸拘束、罠設置

 ドロップ: 魔石、毒の牙、横糸、縦糸


*鑑定

 名称: ビッグポイズンスパイダー(フロアボス)

 ランク: C-

 特徴: 大型毒蜘蛛系魔物。蜘蛛の巣の罠を張る。糸を吐き拘束し毒牙で殺す。

     ポイズンスパイダーを召喚する。

 特技: 毒牙、糸を吐く、糸拘束、罠設置、眷属召喚

 ドロップ: 、魔石、毒の牙、横糸、縦糸、宝箱



『眷属召喚を獲得し、契約魔法に組み込まれました。』


眷属召喚: 討伐経験のある魔物のみを召喚することができる。

      召喚した魔物は主従関係にあり、絶対服従である。


ドロップした芋虫の糸は、つるつるしていて肌触りが良い。

絹に近い気がする。

蜘蛛の横糸は粘着力があり、接着剤の材料になりそうだ。

縦糸は丈夫でロープなどに使えそうだな。

下層のカギ? どうやらフロアボスを倒さないと先に進めない設定のようだ。


鑑定が神眼に進化したおかげで1km離れていても魔力を飛ばすことで鑑定することができるようになった。

それと、地形や魔物の配置も同様の方法で把握できるようになった。

すべて渚さんが裏でやってくれているんだけどね。


『分かっていらっしゃるとは思いますが、こちらから魔力を飛ばしたのでボスに気付かれました。猛スピードで周囲の子蜘蛛を率いながらこちらに向かってきてます。』


『そのようだね。確実にこっちに向かっているよね。そうだ、試しに上級魔法を使ってみようか。』


『お勧めはしませんが、試したくてウズウズしているようですね。仕方ないのでフォローします。もう少し進んだところで森が終わり草原となります。そこで迎え撃ちましょう。』


「アトム様。とんでもなくでかい魔物が猛スピードで近づいています!」


カリンも気付いたようだ。


「エミリン、カリンは俺の後ろに下がってくれ。」


「大丈夫なの?」


「たぶんね。上級魔法を使ってみるよ。巻き込まれると大変だから後ろにいてくれ。」


「わかったわ。」


振り返り2人の位置を確認し、正面から迫るボスを睨みつける。

大型バスよりも大きな蜘蛛が砂煙を上げながら接近してくる。

更に周囲には子蜘蛛の群れが。

怖いというより気持ち悪い。


「アトム! 全力で行きなさい。私は無理!」


『まもなく射程に入ります。準備してください。』


俺は集中し、魔力を練った。


「行くぞ! 地獄の猛火インフェルノ!」


あっ。これはあかんやつや・・・。


数十mの炎の波が魔物目掛けて津波のように襲っていく。

ボスは熱波に怯み、逃走しようとしたが時すでに遅く子分諸共猛火に飲み込まれた。

そして、熱波がこちらに返ってきた。


『シェルター』


俺達3人は、渚が瞬時に反応し作った土壁のドームに守られた。

数分後、シェルターを解除すると周囲は焼け野原に変わっていた。

背後にあった森も全て消し炭となっている。


「アトム、上級魔法はやめておきなさい。お姉ちゃんとの約束よ。」


「そうだね。。。」


ボスのいた場所の地面は解け、溶岩のようになっていた。

近づけないほど熱い。


「ブリザード」


一気に周囲を冷やした。

それが戦闘終了の合図となり、ドロップアイテムの山が出来た。

俺はドロップアイテムの山の中からボスからドロップした下層のカギを探す。


「アトム様。お探しのものは、この大きなカギですか?」


「そうそう。そのカギを探していたんだ。」


良かった。

猛火で消し炭のなっていたらどうしようかと思ったよ。


「アトム。宝箱もあったわよ。」


「開けて良いよ。」


中からは短剣とナイフの間ぐらいの長さの刀が入っていた。


*鑑定

 名称: ポイズンソード

 ランク: B

 特徴: 攻撃時に猛毒を付加するミスリルソード。

 付与: 猛毒付加


「この刀は、カリンが装備してくれ。」


「わかりました。」


『渚さん。芋虫の糸でエミリンとカリンのドレスを作ってくれ。王都に行ったら王様に謁見することになるだろう。その時にドレスが無いと困るからさ。デザインは俺の前世の記憶を参考にしてくれ。』


『了解しました。アトム様もタキシードが必要になるでしょうね。それと2人だけにドレスを作ったらお母様が嫉妬しますよ。お母様のドレスも作ることをお勧めします。』


『そうだね。父さんもいじけそうだから父さんの分もお願い。』


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