第14話 幼馴染と彼女と水族館

「水族館来たぁ~!」


「ホント久々だな~ここ」


「んね」


 時は過ぎ、ついに水族館当日を迎えた。

 今いるところは、神奈川県にある新江ノ島水族館。よくアニメやドラマの聖地となって有名だ。近くに江ノ島もあり、観光スポットにもぴったり。

 家からも1時間とさほど遠くない。


「私ここ来た事ないからすごく楽しみなんだよねぇ~!」


 そんな水族館に、鹿野は目を光らせていた。


「色々変わってる箇所もあるだろうし、楽しみだな」


「なら南くんも初めての感覚だね!」


「かもな」


「ちょ、私を忘れないでよね」


 外観を見ながら話す俺達に、眉をひそめながら綺海はこちらを見てくる。


「別に忘れてないぞ。お前がさっきから無言なだけじゃねーか」


「だって、入りにくいんだもん」


「なんだよ。いつもなら躊躇なく割り込んでくるくせに」


「今は状況が違うでしょ⁉ 鹿野ちゃんもいるし」


「私は全然へーきだよ? むしろ綺海ちゃんと話したい!」


 不満そうな顔の綺海に、鹿野はパァっとした笑顔を向ける。

 そうだ。鹿野は綺海と仲良くしたいんだ。なのになんでちょっと避けてるように接しているのだろう。単純に気まずいからか?


 にしても、今日の2人のビジュが良すぎる。いつも制服しか見ていないからか新鮮で可愛い。


 鹿野は、ブラウンのワンピースに、ベージュのカーディガン。そして黒のベレー帽と厚底シューズ。小柄でガーリーな鹿野によく似合っている。


 綺海は、デニムジャケットにオシャレなプリントがされている白のスウェット。黒のミニスカートにロングブーツと、中学の時みたいな背伸びしているような感じではなく、よく着こなしている。


 そんな2人に見惚れていると、


「南くん中入るよ!」


「南、行くよ」


 いつの間にか前にいる2人は半身振り返り俺に言う。


「おう」


 と、返事をすると、2人の後ろについて行くのだった。

 チケットを買い、中へ入ると早速目の前に巨大な水槽が現れる。


「見て~! 魚がいっぱいだよ~! 可愛い~!」


 水槽に手を付き、歓喜の声を上げる鹿野。

 なんか子供みたいだな。そこが可愛い。


「へぇー、こんなに種類がいるとは思わなかった」


「水族館だから普通じゃない?」


「久しぶりに見たからそう感じるだけか」


「見てぇ~! あっちにおっきいのがいる~!」


 話している俺達を置いて行くように、鹿野は前へ前へと進んでいく。


「鹿野ちゃん、いつもあんななの?」


 見失わないようについて行きながら、綺海は俺に聞いてくる。


「まぁ、どっか行った時は毎回ああなるな」


「どっかってどこ?」


「スカイツリーと遊園地は少なくともあんな感じだった」


「他は?」


「まだそこしか2人で行ったことないから分からなんな」


「へ~、まだデート2回しか行ってないんだ~」


「なんだよ悪いか?」


「ううん、別に」


 どこか安心したように言う綺海に、俺は細い目をする。

 毎週のようにデートに行くほど、俺と鹿野はバカップルではない。一緒に居たいとは思うが別にひと時も離れたくないわけではない。


 俺だけではなく、これは鹿野も同じことを思っているだろう。お互い、程よい距離感が大事だと思っているからな。

 あまり干渉しない、詮索しない。だからこそ、こうやって俺は綺海と何変らず過ごす事ができているんだ。


「あんなラブラブだったら、もっと一緒に居るのかと思ったよ」


「いやいや、俺は一人の時間も大事にする主義だぞ?」


「知ってる。昔からそこは変わらないんだね」


「あとは、お前との時間も大事にしたいからな」


「ほぇ?」


 それを聞いた綺海は、ポカンとした顔で俺の顔を見てくる。


「いくら彼女が出来たとしてもさ、朱音とか友達との時間も大切だろ? 四六時中彼女に時間を裂いて関わらなくなるほど俺はバカじゃない。特に、お前とはな」


「そ、そう……」


「だってさ、もし俺が鹿野しか頭にない人間だったら普通一緒に登下校するか? 放課後に寄り道とかありえないだろ? それに今だってこうやって一緒にいる」


「……」


「お前なら分かるだろうけど、俺は彼女が出来たところで性格なんか変わらないんだよ。どっかのバカップル高校生じゃあるまいし」


 笑いながら言う俺だったが、


「……」


 さっきから綺海から言葉が返ってこない。それにずっと下を向いている。


「え、なんか俺変な事言ったか?」


 急に無言になる綺海に、俺は慌てて聞く。

 すると、綺海も慌てた様子で、


「い、いや、なんも変な事は……」


 少し俯きながらも小さく手を振り綺海は否定する。


「そ、それより早く鹿野ちゃんについて行かなきゃ見失っちゃうよ!」


 そう言うと、綺海は足早に鹿野の元へと向かう。

 薄暗くて見えずらかったが、微かに見えた綺海の頬は真っ赤だった気がする。

 俺、マジで変な事言っちゃったか?




「ななななんでいきなり告白みたいな事言ってくるわけ⁉ んなの黙っちゃうに決まってるじゃん! ………私との時間を大切にしたいだって………ぐへへ……やっぱ南は昔から変わらずサラッとカッコいい事言うよね……好きっ!」

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