第53話
あのセルティ嬢との一件以来、俺に近づく令嬢はいなくなった。
セルティ嬢はいまだに取り巻きを引き連れているが、あの場面を見ても離れていく取り巻きはいなかったようだ。
それだけの魅力がセルティ嬢にあるのか?
俺には彼女の思考が分からない。
視線は常に感じるがそれは今までも感じていたことだ。
だが、その中にセルティ嬢の視線は他の視線とは明らかに違う。
何を狙っているのか、何を企んでいるのか分からないが、まだ俺の婚約者の地位を狙っているのは間違いないようだな。
ゾルティーにほかの生徒たちの前で恥をかかされても関係ないんだな。
どんな心臓だよ。
ただ図太いのか、バカなのか、何をしでかすか分からない。
だから学園内でこそ気が抜けない。
こんな状況に息が詰まる。
まあ何をしようが俺がセルティ嬢を選ぶ事だけはないがな。
2年も終わる頃には、今まで大人しかった『マイ』が動き出した。
あのお茶会で『マイ』の本性を見たはずなのだが、騙されるバカな男たちがいたようだ。
男たちを侍らし、儚げな見た目を利用している。
アトラニア王国でも同じだったな。
あっちでもレイが悪役令嬢?にされる予定だっとアランが言っていたな。
それをバカな自称ヒロインがエリーに濡れ衣を着せようとして自滅したんだ。
バカな子息たちと王子を巻き込んでな。
結局、人を陥れようと企むような奴には天罰が下るってことだ。
さて、もうゲーム期間もあと一年だ。
あの女はどう動く?
そして、セルティ嬢は?
3年に上がって一週間。
奴らは同時に動き出した。
それも同じ手を使ってな。
ゾルティーの黒い笑顔が降臨だ。
セルティ嬢とマイが同時にイジメや嫌がらせにあっていると言い出した。
お前たち常に取り巻きを引き連れていて、なぜイジメや嫌がらせをされていると言えるんだ?
マイはともかく、セルティ嬢もバカだったのか?
食堂に続く通路はセルティ嬢の取り巻きと、マイの取り巻きで言い争いの騒ぎになっているとゾルティーが知らせに来た。
楽しそうだなゾルティー。
面倒だが、これ以上セルティ嬢の派閥を広げる訳にはいかない。
終わりによう。
ゾルティーの側近候補の1人に教師を呼びに行かせ、騒ぎの元へゾルティーと向かう。
守るように子息たちがあの女を囲んでいるな。
あの女は目に涙を浮かべて怯えるようにセルティ嬢を見ている。
すごい演技力だな。
上手く本性を隠している。
セルティ嬢も取り巻き達に守られるているように見える。
嘘を信じる子息たちと、嘘を信じる令嬢たち・・・コイツら貴族の教育を受けていないのか?
確認もせずに信じきるなんて、騙されていたとしても言い訳は出来ないぞ。
よく見ると、次男や次女が多いな。
まだこれは救いだな。
「なんの騒ぎだ!原因は何だ!」
「ルフラン殿下、最近わたくしの私物が壊されたり、隠されるのです」
セルティ嬢が両手を胸の前で祈るように組み俺に涙目で訴えてくる。
「だからなんだ?」
「マイさんに違いありません」
決めつけた言い方をするんだな。
「私はそんな事しないわ。私がやった所を誰か見た人がいるの?」
当然頷く奴なんて居ない。
「それで?」
「私だってそうよ。この間なんかセルティさんに池に落とされたの」
セルティ嬢をさん付けね。
しかも指まで指している。
なんでバレる嘘をつくんだ?
「わたくしそんな事しておりませんわ」
「いい加減にしろ!お前たち2人とも取り巻きに囲まれていて、いつ一人の時間があるんだ」
騒いでいた2人の取り巻きも野次馬たちも、冷静になったのか『言われてみれば』『確かに』などと言っている。
あの女もセルティ嬢も顔に焦りが出でいる。
こんな公衆の面前で嘘をついて、人に有りもしない罪を被せようとしたんだ。
「でも、わたくし嘘など申しませんわ。わたくしをよく知るルフラン殿下なら分かっていただけますわよね」
まだ言うか。なにがよく知るだ。
「いや、セルティ嬢のことは他の令嬢と同じくらいしか知らないがな」
「そんなはずありませんわ。毎日一緒にいたではありませんか」
俺との関係をここで見せつける作戦か。
いつまで婚約者気取りなんだ?
以前ゾルティーに言われた事を忘れたのか?
そろそろとどめを刺すか。
「ねえ、セルティ嬢の言う毎日一緒にいたのって、兄上を待ち伏せして婚約者のフリをして、兄上の横を歩いていたことを言っているの?あの時も迷惑だと言ったよね」
ゾルティー皆の前でそれを言うのか。
お前本当に容赦しないな。
周りがザワザワし出すと、プライドを傷つけられたのか悔しいのか俯いてしまった。
もう終わりか?
「それでお前は誰を陥れようとしたのか分かっているのか?」
今度はマイに殺気を込めた目で睨むと震えだした。
「お前が転移者だとしても、2年もこの世界にいるんだ。何も知らなかったはもう通用しないぞ」
本当に学習しないバカだな。
嘘をついたことがバレた2人は何も言えないようだ。
2人を蔑み嘲笑う声が聞こえる。
女って怖いな。
この茶番を終わらせようと口を開けかけた時、懐かしい俺の好きな香りがした。
「何を騒いでいるの?」
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