第26話

~ルフラン殿下視点~




あのワザと転んでアランの気を引こうとした女のおかげでエリーと手を繋いで歩くことができた。

エリーに拒絶されなかったことが嬉しかった。


見た目は綺麗すぎて冷たそうに見えるエリー。


女神の微笑みを浮かべた時のエリー。


本来の姿を俺に知って欲しいと見せてくれたエリー。


俺にとってはどのエリーも眩しく輝いて見える。


たった1日だ。

たった1日で何年も姿を見ることすら出来なかったエリーが友達だと言ってくれたんだ。


見た目も所作も完璧な令嬢だと思っていたエリーが、平民を装っている俺にも偏見なく友達だと、長い付き合いになると言ってくれた。


エリーを知れば知るほど惹かれていくのが分かる。


俺の見てきた人の迷惑も考えず、自己主張ばかりの令嬢たちとは全然違った。

あんなに気さくで話しやすい子だとは思ってもいなかった。これは嬉しい誤算だ。

エリーが優しい子だとは分かっていた。

自分もまだ幼いのに、アランの世話を一生懸命している姿を何度も見ていたからな。


俺が最初を間違えなかったらウインティア王国でも仲良く出来たのかもしれない。



応接室に入ってきたエリーの姿に見惚れた。


令嬢らしくないパンツスタイルは高めの身長で手足の長いエリーにはよく似合っていた。


真っ直ぐでサラサラの髪を高い位置で1つにまとめていたのもエリーの美しい顔を引き立てていた。


褒め言葉を言おうとしても、上手く纏まらず言葉を発せない俺の手をエリーが引いてくれた。

ゆっくりでいいから自分を理解してくれたら嬉しいと言うエリー。

俺はどんなエリーでもこの気持ちは変わらない。

それだけは自信がある。


小さな声だったが『ルフランと出会えてよかった』って言ってくれたんだ。

エリーの前で泣いてしまうかと思った。




俺の暴言は幼かったエリーを傷つけただろう。


俺がその王子だと知ったら拒絶されてしまうのだろうか?


もう笑顔も見せてはくれなくなるのだろうか?


会った時には素直に謝る練習までこっそりしていたのに、平民を装ってしまったことで謝れなくなってしまった。

本当に俺は情けないな。




怖いんだ。

エリーから嫌われ拒絶されることが怖くてたまらない。


騙していることが、謝れないことが苦しい。


ちゃんと謝るからもう少しだけ、もう少しだけ俺に友達として接してくれるエリーと一緒にいたいんだ。








入学してから1ヶ月、私たちは学院でも4人で行動することが増えた。

増えたというより、いつも4人で一緒にいる。


当然レイを1人にしない為でもあるが、思いの外ルフランが隣にいるのは心地がいい。



4人でいてもアランとレイは周りの視線を集めている。


見目麗しいアランを見つめる令嬢たちの視線は熱い。

レイだって負けてはいない。令息たちがチラチラと頬を染めて見ている。

そして令嬢たちからは嫉妬の視線を浴びている。


そんな2人の側には怖顔の私とあまり表情の分からないルフラン。

私たち2人のモブの存在のせいか声をかけてくる者はほとんどいない。



今は4人でランチをしに食堂に来たところだ。

入った瞬間に皆んなの視線がレイに向けられた。蔑んだ目と憐れみの目でレイを見ている。


その視線の意味なんてもう分かっている。

第三王子のラティオス殿下がミーシャ嬢と隣り合って座りイチャイチャしているからだ。


同じテーブルには財務大臣の息子セルディー・メキア侯爵令息。騎士団長の息子ガバネル・ドナガート伯爵令息がだらしない表情でミーシャ嬢を見ている。

周りの席も令息たちで埋まっている。


そこには乙女ゲームであるあるの光景があった。


1ヶ月でミーシャ嬢はこれだけの男たちを虜にしたのだ。


「日に日に増えているな」何がと聞かなくても分かる。

1人の令嬢に男たちが群がる光景は傍から見ると異常だ。


確かにミーシャ嬢は美少女だとは思う。

でもそれだけだ。

礼儀作法もマナーも貴族の令嬢とは思えないほど、何も出来ない。


レイと比べることすら烏滸がましい。


彼女のことを天真爛漫だとか、純真無垢だとかアホ頭(王子とその他の令息)たちは言っているが、ただの礼儀知らずの令嬢だとしか思えない。


顔以外のどこに魅力があるのか分からない。

あのタプタプした成長し過ぎた胸か?


こっそりと自分の胸に手をやった。

アラン!レイ!残念そうに私を見ないで!

ルフラン!慰めるように背中を撫でないで!

悲しくなるじゃない!


集団から離れた席で食事を始めた私たちは明日の休みに遠出をする予定だ。


「明日は私の手料理でお弁当を作るから楽しみにしていてね」


「え?エリーが・・て、手料理?」


ルフラン私の腕を疑っているの?

毒なんて入れないわよ。


「そう、ピクニックだから簡単な物ばかりになるけどね。」


「エリーの料理の腕はかなりのものよ」


「そうなんだよね。貴族の令嬢らしくないけどエリーの作る料理が美味しいのは認めるよ」


「エリーの手作りなんだ・・・楽しみにしているよ」


ルフランの口の端が上がっている。


明日は以前伯父様と伯母様と一緒に行った湖に行くのだ。





前世では仕事ばかりの両親だったからね、必然で小さい頃から1人でなんでも出来る子になったんだよね。


そう料理と掃除は出来たんだよ。


だけど裁縫だけはどんなに頑張っても上達してくれなかった。


それは転生しても同じだった。

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