第21話


~アラン視点~



早いもので、ウインティア王国とアトラニア王国との行き来を繰り返し、僕たちは15歳になった。


それまでの生活は順調で、エリーは美少女から誰よりも美しい女性に成長している。

性格や行動には問題はあるが・・・見た目は完璧な淑女だろう。

今のエリーを見たら第一王子はどんな反応をするのだろう。


そして、レイはエリーとは違い女性らしい身体付きになった。

エリーに言わせると『私はまだ成長途中よ』らしい。

レイもまた、誰もが振り返るような美少女になった。

外では完璧令嬢らしいが、平均よりも小柄なレイは僕たちの前では小動物のような可愛いマスコット的存在だ。

もちろん、僕の気持ちは変わっていない。



変わったことと言えば、1つ年下の第二王子ゾルティー殿下と親しく話すようになったこと。

こっちに戻っている時は月に何度か彼に会いに王城に行くことが増えた。

思いのほかゾルティー殿下とは気が合ったんだ。


僕がゾルティー殿下といる時に第一王子が顔を見せることも何度かあった。

毎回言いづらそうに「姉君は息災だろうか?」と聞いてくる。

元気に過ごしていると伝えると少しだけ口の端が上がるんだ。


ある日、第一王子も同席している時にゾルティー殿下が姉君はどんな男性が好みなのだろうか?と聞いてきた。


「姉は『自分のことを信じて守ってくれる人。浮気をしない自分だけを一途に愛してくれる誠実な人。』が好きだと言っていましたよ」

これは本当だ。レイとの会話で言っていた。


第一王子は小さな声で「わかった」一言発すると退席して行った。


ゾルティー殿下と第一王子は、同じ赤い髪に金色の目、第一王子が切れ長の目に端正な顔に対し、ゾルティー殿下は整った優しい顔立ちだ。


だが、見た目に騙されると痛い目にあうことになる。

冷徹な部分もまだ14歳なのに既に備わっているのだ。

ゲームの僕が手を組んだのも分かる。




そして、ゲーム通り第一王子の表情は年々消えていった。



エリーとレイの言う通りなら、今回のお茶会でヒロインである少女が"異世界転移"で現れる確率が高い。

僕もそう思っている。


予定ではヒロインが現れてから第二王子に伝えるつもりだったが、親しくなったゾルティー殿下の腹黒い部分を知った今なら登場前に伝えた方がいいと判断してゲームの内容を話した。




思っていた通り、あっさり受け入れたゾルティー殿下。


「ふ~ん、なるほどね。だからアランとエリザベート嬢は留学するんだ。納得出来たよ。」


なんで留学のことを知っている?

僕の疑問が分かったようで。


「アランが王城に来ない期間が年に2度もあるからね。調べてみたんだ。悪かったね」


そう言うが本当に悪かったとは思っていなさそうだ。


「兄上は知らないよ。やっぱりそうなるかぁ、何となく兄上が継承権を放棄するような気がしていたんだよ」


そう悲しそうに言う。


「それでも兄上の一途な思いは伝わったんだね。エリザベート嬢と幸せになれたのだから」


「でも、僕は継承権の放棄それを阻止したい。僕とエリーがゲームとは違う行動をした事で、結果も変わると思うんです。だからゾルティー殿下にヒロインが現れる前に話したんです。」


僕たちが違う行動をしたのだ。

ゲームのように、エリーと第一王子が結ばれるとは限らない。

僕たちはウインティア王国の学園には通わないんだ。

接点がなさ過ぎる。


「ありがとうアラン。現れるとしたら今回のお茶会が濃厚だね。本当に現れたら泳がせてみよう。エリザベート嬢とアランのいない学園でヒロインがどう動くのか、本当に攻略対象者たちがヒロインに落ちてしまうのか、期間は長くても3年間、もっと短くなる可能性の方が高い。私も来年には学園に通うことになる。高みの見物といこう」


「側近候補である攻略対象者たちに警戒するように伝えないのですか?」


「ああ、そんな女に引っかかる側近候補に手を差し伸べる必要はないよ。」


こんなところだ。僕たちが気が合うのは。


「楽しみだね。今度のお茶会」


黒い笑みを浮かべるゾルティー殿下に薄ら寒いものを感じたと同時に、ゲームの僕の行動は間違っていなかったと、彼と手を組んだゲームの僕を褒めたくなった。


「兄上のことは私に任せてくれ。考えがあるんだ。安心して、悪いようにはしないよ」


今度はいつも見せている優しい顔でにっこりと微笑んだんだ。



それから4日後お茶会が開かれた。







いつも通りに始まったお茶会。


僕はゾルティー殿下の側でキツい香水の匂いと、年齢にそぐわぬ厚化粧の令嬢たちに囲まれていた。

清楚で上品なレイや、エリーを思い出してしまう。


何も起こらなければそれはそれでいい。


だが、お茶会も終盤になる頃にそれは起こった。


突然目の前が眩しく光ったんだ。

光がおさまった時には、見たこともない服装を身にまとった少女が倒れていた。

ゾルティー殿下と頷き合う。


すぐに気がついた少女は肩につくぐらいの短い黒い髪に、黒い目だ。

エリーとレイに聞いた外見に一致した。


周りを見渡し僕たちを目に止めるなり「キャー、ウソ!本物のゾルとアランだ!」と叫んだ。

「それに他にもイケメンがいっぱいいる!」


コイツがゲームの中ではエリーを悪役令嬢に仕立て冤罪をかけて断罪したんだ。



敬称もなく呼び捨てにされたゾルティー殿下は微笑みながらも額には青筋が・・・


「君はどこから来たんだい?私とは初めて会うのになんで名前を知っているの?それに私を敬称も付けないで呼びすてにするのは許していないよ。不敬罪になるからダメだよ?」


ヤバい!と思ったのだろう顔に書いてある。

「あ、わたし混乱していて・・ここはどこでしょうか?」

弱々しく見せて上目遣いまで使ってくる。


バカなのか?

僕たちの名前まで叫んだくせに。


キョロキョロと辺りを見渡して彼女は小さな声で「マジ?わたしヒロインじゃん」隣にいた僕にもゾルティー殿下にも聞こえた。


確定だな。

この女はゲームを知っている。


王宮騎士たちが突然現れた女から事情を聞くために連行して行った。


突然の出来事に静まり返っていた会場も騒がしくなった。


第一王子はさほど興味もなさそうな顔で指示だけ出していた。

これはいつもの事だ。

令嬢たちにどんなに囲まれようが一切相手にしない。

王子に触れてくる令嬢には容赦なく振りほどく。振りほどいた後は冷たい目線をその令嬢に向ける。二度と触れるなと言うかのように。


本当に変わったな。

でもゲームのことは話せない。

結果を知れば第一王子の行動も、一途な思いも変わってしまうかもしれないからだ。


それはそれで仕方の無いことだ。

ここは現実だ。


第一王子の気持ちだって既にエリーにはないかもしれない。


僕はエリーを幸せにしてくれるなら誰でもいいと思っている。

エリーの気持ちを優先するつもりだ。



すぐにお茶会もお開きになり、僕とゾルティー殿下は殿下の執務室で話し合った。


「アランの言った通りになったね」


あの女が僕のエリーを・・・


「見る限りアホそうな子だったね。あんな子に虜にされる令息がいるなんて信じられらないよ」


僕も信じられない。


「うん!そんな側近候補はやっぱり切り捨てないとね」


賛成です。


「あの子は教会に預けるよ。そしてゲーム通り学園に入れる。」


殿下黒い笑顔になっていますよ!


「楽しくなってきたね。アランはこっちのことは気にせずアトラニア王国の学院に行っていいよ。ああ、手紙のやり取りはしようね。」



あの女はゲームを知っていた。

それなら行動は読める。

あとはゾルティー殿下に任せても大丈夫そうだ。



~ゾルティー殿下視点~


もともとアランには一目置いていた。


私たちは年に一度のお茶会で令息令嬢を観察している。

優秀な人材探しだ。

一際目立つのがアランだった。


見目麗しいアランを取り囲む令嬢達を上手く躱し、令息たちから情報を聞き出す手腕は見事と言える。


見ていれば分かる。

彼は付き合う人間と、切り捨てる人間とを選別していた。


少しづつ距離を縮めて、アランに近づけば近づくほど、彼の優秀さが分かった。


そんなアランからゲームの事を教えられた私は疑うことなく信じられた。

エリザベート嬢とアランの行動の意味が分かってスッキリしたぐらいだ。


実際、あの子は現れた。


あの子なら人を陥れるぐらいはやりそうだ。


一年後、私が入学するまでにあの子は何人の令息を虜にしているのか楽しみだ。


24時間あの子には王家の影をつける。


父上にはアランから聞いた話を既にしている。


兄上の継承権放棄の話しもだ。

それをアランが阻止しようとしていることも。


兄上らしくないエリザベート嬢限定の言動も行動も見てきた。

その後、反省して落ち込むところも。

最後には思ってもいないことを言ってしまって後悔をし続けているところも。

表情の消えた兄上を見ていられないのは、父上も母上も私も同じだ。


また笑って欲しい。


だから兄上の背中を押すよ。




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