第19話

朝から素知らぬ顔をして、そわそわしているのがモロバレなアランが微笑ましい。


伯父様も伯母様からアランの初恋の話しを聞いたのだろう。

2人ともニヤニヤしてアランを見ているが何も言わず見守っている。


執事がレイチェル様の到着を知らせに来た。


エントランスまで迎えに出ると、お茶会の着飾ったレイチェル様ではなく、私好みの動きやすそうな水色のワンピース姿だった。

そして化粧もしていないスッピンの顔は綺麗というよりも可愛い。



簡単な挨拶を済ませると、私たち3人はテラスに移動した。

メイドがお茶とお菓子の準備を終えると席を外してもらった。


アランは落ち着いているように見せているが、私には分かる。

既にレイチェル様しか見ていない。


「今日は来ていただきありがとうございます。レイチェル様とお会いするのを楽しみにしていました。」


「こちらこそお呼びいただきありがとうございます。」


にっこり笑ったレイチェル様にアランが真っ赤になってしまった。

それを見たレイチェル様も真っ赤になっている。

また2人で見つめ合いだした。


もしかして私いない方がいいのかな?

2人の邪魔はしたくはないけど、私もレイチェル様と話したいしな~


てか、いつまで無言で見つめ合うのだろう?

ここで私が席を外しても気づかれなさそう。


1人でモグモグお菓子を食べながら2人が気づくまで待つことにした。

目で会話でもしているのだろうか?




お~い。さすがに20分は長いよ。


ワザとらしく咳をすると2人が慌てだし、やっと私の存在を思い出してくれたようだ。


それからは話し上手なレイチェル様とウインティア王国での私たちの過ごし方、アトラニア王国での過ごし方など簡単に話したあとは、レイチェル様の話しになった。


生まれた時には決められていた婚約だったこと。

王子妃教育は5歳から始まったこと。

王子の婚約者の立場を妬まれたり、嫌味を言われることは日常茶飯事だと。

親しい友達もいないこと。


「だからこそ、エリザベート様とは仲良くなりたいと思いましたの。それにアラン様ともお友達になりとうございます」


胸の前で祈るかのようなレイチェル様に私たちの答えは決まっていた。


「こちらこそ仲良くなりたいわ。私のことはエリーと呼んで。友達なら口調も気軽なものにしましょ?」


「僕もレイチェル嬢とは親しくなりたいと思っていたんだ。僕のことはアランと呼んでね」


「ありがとう。とっても嬉しい。」目に涙を浮かべながらも笑うレイチェル様は本当に可愛くて抱きしめてしまった。


「わたくし、親しい友達がいなくて愛称で呼んでくれる人もいないの。両親もレイチェルと呼びますし・・・」


悲しそうに言うレイチェル様に「レイ!レイがいい。レイと呼んでもいいかい?」


「嬉しい!レイがいい!ありがとうアラン!」


「僕が1番にレイと呼ベたことが嬉しいよ」


アランの言葉はもちろんだけど、レイチェルいや、レイはいつもの5割増で蕩けるような笑顔のアランにパニックになったのだろう。

とんでもないことを言ったのだ。


「アラン!転生する前からずっとずっと好きで好きで、大好きだったんです!」


私も目が飛び出でるのかと思うほど驚いたが、アランは真っ赤になりながらもレイの言葉に首を傾げている。


口走った言葉にレイは目を見開き口に手を当てて泣き出してしまった。


泣き出したレイにアランはオロオロしながらも「大丈夫、大丈夫だよ泣かないで。それにありがとう。」と背中をさすっている。


ここは私の出番ね。


「レイ、落ち着いて?私の部屋で落ち着くまで一緒にいましょ?アランごめんね席を外すわね」


何か言いたげなアランを置いてレイを連れて私の部屋に向かった。


もう!レイってば何を言い出すの?








部屋に着くなり「やってしまった、やってしまった」と青くなり、部屋の中をウロウロ行ったり来たり忙しないレイを宥めソファに座らせた。


「ゆっくりでいいからレイの知っていることを教えて」とお願いした。


やはりレイも『世界を超えた乙女の愛と友情』を知っていると、それもアランが好き過ぎて何度も繰り返しアランを攻略したそうだ。


ヒロインに見せていた笑顔の何倍もの笑顔を見せられ正気を失ってしまったと。


まあ私の弟は天使だから仕方ないよね。


私は1度王子を簡単に攻略した後は速攻でゲームを売ったことを話した。




そして、アランの攻略を30回を超えたら裏モードが出てきたと。そこで真実が明かされたことを話してくれた。


確かにエリーは悪役令嬢にされて断罪されたが冤罪だったこと。

修道院には行かず、幸せに暮らしたことを教えてくれた。


アランの行動はすべてエリーの為の行動だったと。

アランはエリーを窮屈な貴族社会から自由にしてあげたくて、断罪に手を貸したこと。

それは両親も同じだったと。

エリーは家族に愛されていたと。


話を聞き終えた時には涙が止まらなかった。


自分だけ逃げることしか考えていなかったのに?

それなのにアランも両親も私を自由にするため?


家族の思いを知って嬉しいのに胸が苦しくて苦しくて痛い。


涙の止め方が分からない。




どのくらい泣いていたのか、少しずつ落ち着きを取り戻した頃、メイドが昼食を部屋まで運んでくれた。

きっとアランが気を効かせてレイと2人にしてくれたのだろう。


「まだ話しは終わりじゃないの。わたしのことでエリーに相談があるの」


レイの話しに涙も吹き飛んだ。


2つのゲームがアトラニア王国とウインティア王国で同時進行?

レイが悪役令嬢で追放?


なんだそれ!


「どんなに泣いて嫌がっても婚約は解消されなかったの。それが無理ならゲームの悪役令嬢とは逆の皆んなに好かれるいい子になろうと努力してきたの。」


分かる。

悪役令嬢として生まれたと気づいたら誰でもそうする。


「それでも妬まれ、悪口を言う人はたくさんいるの」


王子の婚約者だもんね。


「ゲームでよくある低位貴族の男爵令嬢の天真爛漫、純心無垢で淑女らしくないところに攻略対象者達が惹かれ、悪役令嬢のイジメからもヒロインが守られる王道もの。最後は悪役令嬢を断罪してからのハッピーエンド」


投げやりな言い方になったレイ。


「ゲームのようにイジメなんてしなくても、強制力でもし悪役令嬢にされたら?好きどころか大嫌いな王子なのに?その大嫌いな王子にわたしの人生をダメにされるの?」


泣くのを我慢しているレイを見ていられない。


「大丈夫よ!私とアランもレイと同じ学院に入学するのよ!これもゲームとは違うでしょ?レイをひとりぼっちにはしないわ!」


レイはとうとう泣き出してしまった。

追い詰められていた気持ちが凄くわかる。

私もそうだったから。


私たちがアトラニア王国の学院に入ることになった経緯を話した。

もちろん私がカトルズ公爵家の養子になることも。


それを聞いたレイが眉間に皺を寄せて考えこんでしまった。


「ねえ、アランにゲームのことを話さない?」


え?


「アランはかなり優秀よ。ヒロインの裏の顔に気づいたのもアランだったの。そして第二王子と手を組んで解決に導いたのもアランよ」


「でも・・・アランから拒絶されたら・・」


怖くなった。


「大丈夫な気がする。アランならすべて受け入れてくれる。」


力強く頷くレイを見ていると確かにアランならと、信じられると思ったの。


メイドにアランを呼ぶようにお願いして、顔を出したアランが最初に発した言葉にレイと2人で泣いた。



「大丈夫。何を聞いても僕は2人を信じているし、受け入れるよ」


まだ何も話してないよ。アラン。

それなのに受け入れてくれるの?

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